第62話 初出勤

 四択と見せかけた三択に大いに頭を悩まされる。


 どれもメリット、デメリットがはっきりしているのに加えて、どれを選んだとしてもこれからのダンジョン攻略に役立つだろう。


〈血狂い〉

〈撲殺魔〉

〈変異悪魔〉


 うん、どれもこれも決定打に欠ける。


 酔いどれ吸血野郎、鈍器大好きマン、完全に人間を辞める。


 この中から自分が選んだモノ、それは......





 ◆◇原初ノ迷宮第五十三層◇◆



 職業を得たので早速下の階層へと進む。上の階層はオークオンリーの階層であの部屋の奥にすぐ階段を見つけた。


 慣らし運転ではないけど、戦い慣れたオークを相手に一度戦闘をしておきたかったが......まぁ、無職の時より弱くなっている事はないと諦めて先へと進んだ。


 階段を降りきり、部屋の前まで進む。すると、これまでには感じなかった反応があった。


「あぁ......感じる......コレがそうか。アハハハハッ」


 しっかりと就職出来ていたのだ。

 その反応を感じると同時に気分がどんどん高揚してくるのも感じている。なるほど、確かにあの説明は合っていたみたいだ。


「ステータスチェック」


 ─────────────────────────────


 吉持ㅤ匠

 悪魔闘人

 職業:血狂い


 Lv:79


 HP:100%

 MP:100%


 物攻:150

 物防:1

 魔攻:70

 魔防:1

 敏捷:150

 幸運:10


 残SP:0


 魔法適性:炎


 スキル:

 ステータスチェック

 血液貯蓄ㅤ残294.1L

 不死血鳥

 部分魔化

 血流操作

 簡易鑑定

 状態異常耐性Lv8

 拳闘Lv8

 鈍器(統)Lv2

 棒術Lv5

 小剣術Lv4

 空間把握Lv10

 投擲Lv7

 歩法Lv6

 強呪耐性

 病気耐性Lv4

 解体・解剖

 回避Lv5

 溶解耐性Lv2

 洗濯Lv1

 ■■■■■■


 ─────────────────────────────


撲殺魔は不確定要素が怖くて選ばなかった。

変異悪魔は魅力的だったけど血流操作の魅力に抗えなかった。新しいスキルが使った事がまだ無い部分魔化の上位互換っぽいモノだったのも、血狂いを後押しした。

狂人は論外オブ論外。


「ハハッ! アハハハハハッ!! いーい匂いがしてるじゃん!! さぁ殺ろうか......」


 準備をするという選択肢及び、慎重に行動するという選択肢は無かった。気付いたら走り出していたので止まることは出来ず、しかし辛うじて持っていた荷物はこれまで通り入口付近に投げ捨てる事が出来た。

 コレは理性の箍が外れやすくなるってレベルではない。すぐに外れるようになる......コレが正解だろう。表記はしっかりとして欲しいものだ。


 それと、血の臭いに敏感になるってあったけれど......コレがある意味一番のチートだろう。だってどのモンスターも血を流していないのに匂いを感じられる。

 戦闘して血の臭いが染み付いているからではなく、血を保有している生き物を感知できてしまう。血さえ保有していれば、ソコに居るというのが理解できるようになったのだから。


 ちなみに臭いでも色々判別できた。武器に染み付いた血の臭いの強さで、どれを真っ先に潰せばいいか理解できる。

 血液を保有していない無機物的なモンスターには効果は無いだろうが、その場合は空間把握に頼ればいいから特に死角は見当たらない。


 理性と知性の狭間にいるような不思議な感覚のまま部屋の中へ飛び込み、モンスターの種類の確認もせずに先制攻撃を叩き込む。


「がァァァァァッ!」


 一匹、油断していた四足歩行の獣の頭を叩き潰すとふんわりと香っていた血の臭いが、とても濃厚なモノへと変化する。

 それと共に身体が今まで以上に多幸感に包まれていく。酒が大好きな人間が、滅多に出回らない高級酒を前にして興奮する......今の自分はそんな感じなんだろうな、と。朧気ながら感じた。


「アハハハハハッ!! ハァッ!!」


 奇襲を受けて面食らっていたモンスターたちは二匹目が撲殺された事で、ようやく臨戦態勢を整える。が、今更殺る気になっても遅い。




 ――戦いに於いて避けるべき事は何であるか


 これには、人により様々な意見があると思う。


 戦闘行為の経験者、武道の心得がある者、ちょっとだけ齧った者、ど素人......それぞれに各々の戦い方があり、それぞれが思い付く避けるべき出来事は違うと思う。


 そんな無数にある中の一つの意見として、『ふーん、そんなのがあるんだ』程度にこれを聞いて貰えれば幸いである。


 戦闘時に最も忌避すべき事、それは相手に事。

 ペースを握られてしまえば、その後の戦闘は常に後手に回ってしまい、本来切れる手札を封殺され戦闘の幅が大幅に制限されてしまうからだ。


 その為にすべき事と言えば相手の虚を突く攻撃、戦闘開始前から威圧し萎縮させる、相手に手を出させないor考える隙を与えない攻め、など色々ある。

 ......が、実際に命の危険がある戦闘時には恐怖で思うように身体が動かないもの。それ故に余裕綽々といった態度を取るだけでも相手側の心理面が大分変わってくる。


 人間種よりも生命のやり取りが身近にあるモンスター相手に、これまで吉持が勝利できてきたのは知らず知らずの内にこういった行為をしてきたからである。


 遠距離からの奇襲、高笑いをしながら敵陣に突っ込み、圧倒的な膂力と手数で一気に押す。

 そして自分にとってもモンスターにとってもイレギュラーな、常軌を逸した回復力。これがあるお陰でもあるが......モンスターは致命打を与えたはずがピンピンしている吉持を見て混乱し、吉持自身は頭部破壊さえ気をつければいいという狂気染みた神風特攻が可能になっている。


 故に、モンスターであろうが少しでも知性があればそうそう不利にならないのである。


 そして......『血狂い』を獲得した事で、その狂気は爆発的に加速していく――





「アハハハハハッ」


 戦場に似つかわしくない笑い声と恍惚とした顔を浮かべた人物から齎される圧倒的な暴力。

 まるで邪魔な虫を手で払うかのような軽さで振るわれる金砕棒と悪魔骨棒、それだけでも脅威なのだが、瞬間移動でもしたのかと錯覚してしまう程の俊敏さも相俟って、恐るべき早さでフロアに死体の山が築かれていく。



「アハハハァッッ」


 ――頭が沸騰しているようで冷静。


 よくわからないけど気持ちいい。

 飛んでくる血が自分を酔わせているのか。

 それに、血がそこかしこにぶち撒けられている景色が見える......血ってこんなにも綺麗なモノだったのか......


 でもまだ足りないな。もっと、もっとお前らの血を寄越しやがれ!!


「アハハハハ......ヒャーッハァーッッ!!」















『レベルが4上がりました』


 ......やばい。


 理性の箍が外れやすくなるなんてレベルじゃない!


 コレ、もし変異悪魔を選んで残虐性とかが上がっていたらどうなっていたんだろう......



 ─────────────────────────────


 吉持ㅤ匠

 悪魔闘人

 職業:血狂い


 Lv:79→83


 HP:100%

 MP:100%


 物攻:140→150

 物防:1

 魔攻:70

 魔防:1

 敏捷:140→150

 幸運:10


 残SP:20→0→8


 魔法適性:炎


 スキル:

 ステータスチェック

 血液貯蓄ㅤ残294.1L

 不死血鳥

 部分魔化

 血流操作

 簡易鑑定

 状態異常耐性Lv8

 拳闘Lv8

 鈍器(統)Lv2

 棒術Lv5

 小剣術Lv4

 空間把握Lv10

 投擲Lv7

 歩法Lv6

 強呪耐性

 病気耐性Lv4

 解体・解剖

 回避Lv5

 溶解耐性Lv2

 洗濯Lv1

 ■■■■■■


 装備:

 魔鉄の金砕棒

 悪魔骨のヌンチャク

 肉食ナイフ

 貫通寸鉄

 鬼蜘蛛糸の耐刃シャツ

 快適なパンツ

 再生獣革のブーツ

 魔鉱のブレスレット

 剛腕鬼の金棒

 圧縮鋼の短槍

 丈夫なリュック

 厚手の肩掛け鞄

 微速のベルト

 ババァの店の会員証ㅤ残高220


 ─────────────────────────────


 ※週一更新しか出来ていませんが、カクコンにまだ残れていた事に驚きです。本当にありがとうございます。

 皆様の応援のおかげで頑張れています。これからも楽しんで頂けるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。


 GW&カクコン生き残れてた記念&感謝の気持ちを込めて本日更新致しました。それでは皆様、よい休日をお過ごしくださいませ。

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