(什伍)
宿に帰ってくると。
「う〜、痛え〜。おかえり。くう〜、痛え〜」
「凱鬼、大丈夫?」
「お、おう、だ。大丈夫だ」
大丈夫そうじゃない。声に元気がない。さて、どうしよう?
「凱鬼様。大丈夫ですか? 牛肉の水煮に、麻婆豆腐美味しかったですよ」
「お、おう。そりゃ良いな……」
うん、つらそうだ。
「ちゃんとした医者に、見てもらった方が良さそうだな」
「うん」
ちゃんとした医者。さて、どこにいるか? 宿の人に聞いて……。うん? 待てよ?
「
「荷車? ああ、分かった」
龍清は、そう言うと、部屋の外に飛び出して行った。そして。
「用意出来たぞ。じゃあ、運ぶか」
「うん」
と言ったものの、龍清と
そして、荷車に乗せると、向かったのは。
「あの、すみません。信者ではないのですが、病人がいて診て頂くこと可能ですか?」
「えっ? もちろんです。さあ、こちらへ」
そう、
で、教麻天帥府の建物の一つに運ばれる。どうやら重病人が、運び込まれている部屋のようだった。
そして、案内してくれた方は、一人の
「
「よろしくお願い致します」
「ふむふむ。どうされたのかな?」
「はい。腹痛で苦しんでおりまして」
「ふむ。昨日は何を食べられました?」
「え〜と、
「ふむふむ」
そう言うと、櫓金師父は、凱鬼のお腹を押し出した。
「ここは痛むかな?」
「いやっ」
「ここは?」
「いやっ」
「ふむ。では、ここは?」
「痛え〜」
「ふむ」
そして、櫓金師父は、凱鬼のお腹に耳をあてると、しばらく音を聞いて。
「うむ、虫下しの薬を濃いめで」
「はい」
案内の人は、どこかに何かを取りに行く。
「うむ。
「お、おう」
「そして、今から家畜の神に
「お、おう」
いつもよりも大人しく、凱鬼が
そして、櫓金師父は何やら紙に書くと、それを小さく丸める。そこへ、案内の人が、ちょっと多めのおそらく薬を持ってやってくる。
「さあ、起きて飲むのじゃよ」
「お、おう」
凱鬼は、丸めた紙を口に入れると、薬を口の中に流し込む。
「うっ、にげっ」
「ほれっ、ちゃんと飲むのじゃよ」
「おう」
凱鬼は、薬を飲みきる。
「では、少し休んでいきなされ」
そう言って、櫓金師父は去って行った。
そして、案内の人が寄ってくる。
「あの〜、
「はい。どれくらいが相場でしょうか?」
「いえっ、普段は
「えっ、五斗?」
「はい」
後で聞いたのだが、信者の寄付は、ほぼ五斗のお米と決められているそうだった。なので別名、
僕は、頭の中で計算すると、五斗分よりもちょっと多めの
「申し訳ありませんが、旅の者ゆえお米の手持ちがありません。これで代用して頂きたく」
案内の方は、ちらっと金子を見て。
「これはだいぶ多いような気がしますが……。かしこまりました、ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございました」
そして、ふと凱鬼を見ると、ぐうぐうといびきをかいて寝ていた。
そして、
「う、う〜ん、よく寝た。さあ、腹減ったな。
良かった、どうやら元気になったようだった。だけど。
「駄目だ。今日だけでなく、明日も食べちゃ駄目だぞ」
「うっ。えっ。もう痛くねえし……」
「とにかく、駄目だ」
と、龍清に怒られ。しゅんとなった凱鬼だった。
そして、翌日は凱鬼に付き合って、僕達もダラダラと宿で過ごすと。
「さあ、飯行こうぜ」
「ああ」
「そうだ、朱鈴が言ってた教麻天帥府近くの酒家の牛肉の水煮と、麻婆豆腐食いに行くか。櫓金師父にお礼も言わねえといけないしな」
「そうだね」
「元気になって良かったです。さあ、行きましょう〜」
こうして、僕達は凱鬼が全快するまで、
「えっ、
「はい。う〜ん、あんまりおすすめ出来ないがね~」
「そうですか」
「まあ、
僕達は、すっかり
「樹越ですか?」
「ああ、良い国だって評判だぜ。
「でも、一目見たいんですよ」
「そうかい。じゃあ、気を付けて行きなよ」
「はい」
こうして、僕達は、令徳を出発して、北上を開始したのだった。
雷国の王都は
「これは、確かに
「ああ」
「所々、
「あ〜あ。
「だね」
雷国に入るのは簡単だった。
「本当に、雷国行くのか?」
「ええ」
「そうか、気を付けて行けよ」
と、麻国側の関所で心配され。
「良くこんな国に来ようと思ったな。まあ、気を付けてな」
と、渡った先の雷国の関所でも心配されたのだった。
そして、人のいない街道をさらに北上する。雷国内の南河の支流と南河に挟まれた地域は、
確かに、広い水田地帯があったが、所々管理されていないのか、枯れている場所が見えた。水ははられているのだけどね。
戦いに巻き込まれないように逃げたのか? それとも無理やり
どちらにしても、国としては最悪な状態だった。
「人がいねえから、
「ああ。人の気配しないな」
「ですよね~。先程の街も
「だよね。本当に軍事大国だったのかな?」
「ああ」
その結果が、これだったら悲しいものだね。
そして、南河に到達する。ここの川幅も4
「おっ、あれが江陽の
「えっ、どこ?」
「ほらっ」
指をされたがさっぱり見えない。江陽の主城楼はとても立派なのだそうだ。江陽楼と呼ばれ、5層7階の
僕達は、渡し舟に乗る。
江陽。南は南河に面し、水門があるそうだ。 さらに、南河の水が江陽の城壁の外に引き込まれ、珍しい水堀となっているのだそうだ。
東、北、西に門があるが、橋が掛かっていて橋を落とすと、水堀と高い城壁が鉄壁の城塞都市としているのだそうだ。
さらに交易都市でもある、南河を通って運ばれて来た物が、
僕達は渡し舟で南河を渡河すると、橋を渡り城門へとたどり着く。そして、通行証を提示すると、江陽の街へと入ったのだった。
「意外と
「そうだね」
「しかし、
「だな」
「う〜。きつい匂いです〜」
そう、街中はとても賑わっていた。だけどこれは……。
街の表通りには、酒臭い兵士達、そして乱れた服をまとった女性が、その兵士達に
真っ昼間から、これは無いな。
僕達は、表通りを避けるように、奥に行き、静かな場所に宿をとる。
「しかし、昼間から、あれはねえな」
「ああ」
「門入ってすぐの表通りだよ」
「ほんとですよ~」
「どうしようもない国だな。さっさと次行こうぜ」
「そうだね」
まあ、雷国の国王雷禅様をちょっと見たい気もしたけど。とても強い王だとか。まあ、強い王が強い国を作るわけじゃないとも、ファランさんは言っていたけどね。
だけど僕達は、そんな雷禅様にあっさりと会ってしまう事になったのだった。
僕達は、宿を出ると食事の食べれる酒家を探したのだった。
「おっ、ここが良さそうだ」
「そう」
「ですが、ちょっとうるさいですよ」
店の奥から怒鳴り声が聞こえていた。
「そうだね」
「まあ、もし寄ってきたら、俺達が追っ払ってくれるぜ。なっ、龍清」
「ああ」
こうして、僕達は凱鬼のおすすめの酒家に入ったのだった。まあ、凱鬼の鼻は正確だった。ほぼ外れが無い。
僕達は案内され、酒家の中へと入る。その酒家は、ちょっと高級店のようだった。中庭を囲うように
「奥の部屋がちょっとうるさいけど、勘弁して下さいね」
「はい」
で、僕達はこの地のおすすめ料理を頼む。
「昼間っから、なんの集まりだろうな。真っ昼間から飲みやがって」
「ああ」
「ん?」
僕は、凱鬼と龍清の
「いやっ、これは違うぞ」
「ああ。たしなむだけだ」
「そうだ、たしなむだけだ。うん」
「ふ〜ん」
凱鬼と龍清の手許には、
ああ、ちなみに、
で、料理自体は、ここ江陽の料理は、酸っぱい辛いが基本だそうだ。いわゆる
料理は、僕は苦手な料理が多かった。酸辣湯という野菜が入った酸っぱ辛いスープは美味しかったけど、魚がね~。臭かったり、辛かったり。あっ、別に
「うえっ、なんだこれは!」
「美味しいぞ」
「ええ、意外と
「……」
僕は、そっと料理を戻した。
「ハハハハハ、お二人は駄目かい、
「はい、無理そうです」
「まあ、しょうがないよね。食べ慣れないと」
独特の何とも言えない匂いを放つ、黒い豆腐。臭豆腐というそうだ。何年も掃除していない
そして、さらに、
表面を一度カリッと焼いたあと、
で、最後に、唐辛子の漬け調味料に魚を漬けた、定番ともいえる蒸し料理だそうだ。これは美味しく食べれた。辛かったけどね。
刻んだ生の唐辛子に、にんにく、ショウガ、砂糖、塩、酒を使用して5日程付け込んだもの。
酸味と辛味のバランスが良く、川魚の臭みを上手く消してくれていた。酸味、辛味が蒸されたことによって魚まで上手く染み渡り、何とも言えない酸辣な味わいだった。
まあ、これは、食べれたけど、純粋に辛かった。
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