(什弐)
「では、お世話になりました」
「おう、気を付けてな」
「
「はい、是非とも」
耀秀は、そう言いつつ、もう二度と来ることはないだろうなと考えていた。
「ふふふ、今度お会いできるのは、もしかしたら、戦場かもしれませんね」
「そうは、なりたくはないですが」
「ふふふ、はい」
で、目的地は
途中、
「まずは、
「麻国の王都って風樓礼州じゃねえのか?」
「えっ? うん。風樓礼州は独特みたいだからね~。いまだに街の住人の大半が、
「へ〜」
「じゃあ、王都はなんて街でしょうか?」
「あっ? 朱鈴が偉そうに、知ってんのか?」
「知ってますよ~。言っちゃいますよ。麻国の王都、
「くっ」
朱鈴さん、惜しい。
僕は、
「へっ? ああ、
「あっ? 朱鈴も間違ってるじゃねえか」
「ちょっとぐらい良いじゃないですか〜」
「けっ」
「む〜」
はいはい。仲良くね~。まあ、朱鈴さんが知っていた理由は、出発前に聞かれたからだった。ちょっと間違えていたけどね。
南の街道は、北の街道程は歩いている人は多くなかった。まあ、条国内の治安は良いので、治安の問題ではなく、戦後復興で活性化している北東方向と違って、南方は普通の交易路だからであろう。さらに、西京近郊を通る、北河と南河を結ぶ大運河と、南河、そして、南河の支流を使った河船での交通もあるからであろう。
でも、とりあえずの目的地は、風樓礼州だった。僕達は、大運河沿いの街道を歩いて行く。北河、南河ほどの川幅はないが、満々と水をたたえ、流れる大運河の水面は光り輝いていた。
「のどかですね~」
「うん、条国は平和だよね」
一面の小麦畑が広がり、まっすぐと続く街道に
そして、南河に至る。黄色い土地を走る北河に比べて、南河の水は
「街道、
「ああ」
「
「おっ、あれか?」
「そう、みたいですね」
みんな良く見えるね。僕は、まだ南河の大きな河しか見えていない。まあ、確かに、そこで街道が途切れているようなのだが。
「お兄ちゃん達、体大きいからこれで出るよ」
「はい、よろしくお願いします」
僕達は順番を待って、渡し舟に乗り込む。本来10人くらいそろったら、出発するようだが、
南河は、かなり大きな河だった。河口だと川幅160
「う〜りゃ、こ〜りゃ」
「う〜りゃ、こ〜りゃ」
2人の
「へえ、上手いものだな」
「兄ちゃん、そりゃ、仕事だからね」
「まあ、まっすぐ進ませるまでが大変なのさ。ほれっ」
船頭さんが、
「まあ、最初はあんな感じでさあ」
「へ〜」
僕は後ろを振り返る。すると、まあ、下流へと流されていく一艘を除き、一直線となり、進む船が連なってみえた。すでに岸は遠くなっていた。
「あっという間だね」
「ん? ようやく半分くらいかな」
「
「えっ?」
朱鈴さんは、そう言うと、手に持った
「きゃっ」
「おっと」
川の流れに体勢を崩しそうになった朱鈴さん、そして、船も大きく揺れる。まあ、凱鬼が朱鈴さんの
「お嬢ちゃん危ないぜ」
「すみませんでした」
「けっ、子供かよ」
「まあ、無事で良かったよ」
「耀秀様〜」
珍しく、しゅんとなる朱鈴さん。まあ、確かに魚がいっぱい見える。捕りたくもなるよね。
船は、対岸へと到着する。
「ありがとうございました」
「おう、兄ちゃん達気を付けて行けよ」
再び、僕達は南下を開始、南に下るにつれ、小麦畑から
そして、さらに南河の支流を渡し舟で渡ると、台地へと登る坂が見えてきた。
「いよいよだね」
「風樓礼州だよな」
「ああ」
「美味しいものありますかね~」
「あるんじゃないかな」
「おっ、そりゃ楽しみだ」
「ああ」
こうして、坂を登りきると、大きな城壁が見えてきた。
「なんか形が違うぜ」
「ああ」
「西方式の城壁なんだって」
「さすが耀秀様です。
「だから朱鈴、なんでお前が偉そうなんだ?」
「えっへん」
朱鈴さんが、胸を張って
城壁に目を移す、昔の城壁を改築したようで、新しい石と古い石の部分が見えた。
高さは約4丈(約10m)だが、幅は投石機でも壊れないようにか、とても厚く。幅は1丈6尺(約4m)もあった。
そして、背後に岩山を従えた風樓礼州の街は、他のカナン平原の街とは違う構造のようだった。
カナン平原の他の街は、城壁は街を四角く覆っているので、真っ直ぐに見えるが、風樓礼州の城壁は、弧を描いているように見えた。
「風樓礼州の街は、円形なのか……」
「さすが耀秀様です」
いよいよ街が近づいて来る。城門の上には、見張りの為の櫓である、城楼は無く、左右に、上方に窓の開いた塔が建っていた。そして、その窓から、光の角度によっては、キラッと光る物が見えた。
「あれが、鉄の
「えっ? なんですか、それ?」
「ああ、うん。風樓礼州には、
「へ〜」
「避けれるかな?」
「はっ? 何言ってんだ、龍清」
「ああ。速度しだいで、避けれるかなってな」
「おいおい」
凱鬼の呆れたようなツッコミの声を聞きつつ。龍清なら避けれるんじゃないかと思ってしまった。
城門の前には列が出来ていた。僕達も並び順番を待つ。そして。
「ようこそ、風樓礼州へ」
こうして、僕達は風樓礼州に入ったのだった。
「ここも、麻国か?」
「うん、自治権はあるけど、一応麻国だね」
「ふ〜ん」
「西方の建物なのでしょうか? とても変わった家ですね~」
「ああ」
僕達は、風樓礼州の街中をふらふら歩いていた。本当に始めて見る景色だった。
カナン平原の家は、
しかし、風樓礼州は、背後にある岩山を削った岩で作ったのか、石を積んで固めた家がほとんどであった。流石に屋根や、内部には、木で作られた製品が置かれていたけどね。
さらに僕達は、王宮に向かった。というか、歩いていたら王宮にたどり着いたのだった。まあ、現在は王宮ではなく、自治政府の役所という感じであったが。
王宮は、比較的簡素な作りで、3層作りの石造りで、周囲には外の城壁よりは、小型の城壁が覆っていた。
僕達は、王宮の周囲をぐるっと一周した。
「これが、西方風の
「そうなんだろうね」
「ふ〜ん」
僕も西方に行った事はない。なので、想像でしかないけどね。
王宮の周りの道には交差するように、放射状の道が12本走っていて、城壁にある三門は、王宮から見て、中央の門を12時方向とすると、右側の門が2時方向、左側の門が10時方向に見えた。
王宮の外周道路から、各門が大通りの先によく見えた。
「面白い構造だな。ただ、街中に入られたらこの設備じゃ防げないぞ」
「確かにね」
今の王宮と、昔の王宮が同じ構造かは分からないが、かつて
「きゅ〜」
「グルルルル〜」
朱鈴さんのお腹が可愛らしい音を
「おっと、観光はこのくらいにして、宿を決めて、さっさと食べようか」
「は〜い」
「おう」
というわけでいつもの通り、適当な宿屋に入って荷物を置くと、食事をしに街に出たのだった。
「う〜ん、美味しい」
「珍しいよな、耀秀が酒を飲むなんてな」
「うん、だって、美味しいから」
「はい、本当に美味しいです。甘いし、冷たいし、良い香りだし」
「そうだよね」
そう、珍しく僕もお酒を飲んでいた。
普段は、僕と朱鈴さんはほとんど飲まない。龍清はたしなむ程度、凱鬼は結構飲む。まあ、元から強いのか、ほとんど乱れないけどね。
だけど、ここ風樓礼州で初めて聞いた、
「葡萄酒には、
素焼きの壺を持ち上げ、
澄んだ黄色い、やや粘着性のある液体が、注がれる。茉莉花や、肉桂の香りや、果物のような甘く爽やかな香りが立ち上る。少し冷たい水で割ると、口に運ぶ。
口の中に甘く、
「これが、趙武が味わった味か〜」
「そうなんですか?」
「そうみたいだよ」
「美味しいですもんね」
「うん」
最初、龍清と凱鬼も葡萄酒を飲んでいたのだが。
「ちょっと、あっめ〜な〜」
「ああ」
という事で、今は
酒は、濁酒いわゆるにごり酒。だが、アルコール度数は低く長持ちしない。まあ、昔よりは、発酵期間が長くなったけどね。
そして、やや値段は高くなるが、長持ちさせる為に、繰り返し発酵させアルコール度数を高めたのが
清酒は値段も高く、一般的な
まあ、それを水のように飲むので、それなりに高くなるが。
ちなみに、僕と朱鈴さんがお酒飲まない時に飲むお茶も高い飲み物だ。
お茶は茶の葉を
「おっ、食いもんも来たみたいだぜ」
お店の方が料理も運んできたようだった。どんな料理なのだろうか?
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