(玖)
「そうなのですか~、まあ……」
「それでよ……」
「まあな、あれはひどかったよ」
「まあ」
普段比較的、
一方、考えにふけってしまい、外を見たまま黙ってしまった
まあ、凱鬼と龍清の話自体も、各地で食べた食べ物の話題で、なんの損にも得にもならない話題だった。それを本心なのか、ちゃんと笑いながら聞く、ファラン。
馬車は、
西京は、かつての
近郊に西方と東方を
現在は南回りの航路が主なる交易路となっているが、昔は唯一の陸の交易路があることもあり、交易の
近くに大河は無かったが、北河より、運河がひかれ大地を
耀秀は、物思いにふけっていた。趙武を産み、さらに、
馬車は、途中、街で宿に泊まりつつ、西京に向けて北街道を進む。この辺りのかつて
「凄い人だぜ」
「ああ」
凱鬼と龍清は、この
「ふふふ、条国は民を大切にしておりますから」
「民を大切に?」
「はい、民は、お金をかけて優しくお世話すれば、金の卵を産むのですよ」
「へ〜」
「凱鬼、例えだぞ、実際産むわけじゃないからな」
「えっ、そうなのか?」
「はい」
ファランさんは、どうやら内政にも詳しいようだった。だけど、耀秀にも意味はわかった。
放っておいて何かを期待するよりも、いつくしみ手をかけて育てれば、期待にこたえてくれるものなのだ。内政も一緒だと思う。
戦い領土を拡大させるだけが、国を繁栄させるわけでは無い。それをファランさんは、分かっている、そして、それは条烈様も一緒なのだろうな。
馬車は、西京の街へと入る。
「おっ、ファランと同じ
「おい、さすがに失礼だぞ」
「ふふふ、構いませんよ」
「そうですか、すみません」
凱鬼の代わりに、龍清が謝る。
「はい。私と同じ銀髪の民ですが、やはり西方から陸路で来るとここが最初の街なのが大きいでしょうか。後は、この街に昔から大勢の銀髪の民が、暮らしていた事が大きいですね。こことか、
「なるほどな」
凱鬼が、大きく
馬車は、西京の街中を通り、王宮へと入る。西京の王宮は大きいが、立派な建物ではではなかった。
「意外だな」
「龍清様、何がでしょうか?」
「いやっ、王宮が、普通だなと」
「ふふふ、左様ですか。まあ、条烈様は、
「物欲がない? ならば、なぜ領土拡大を目指すのだ?」
「ふふふ、そうですね~。なぜでしょう? 御本人に、確認してみてくださいね」
「ああ」
龍清は、狐につままれたような表情をしていた。
そして、馬車は、
「さあ、皆様こちらです」
ファランさんは、正殿の階段は上らず、左手の建物と正殿との間の道を進む。
「開けてください」
「はっ」
道の先には建物の中へと入る扉があり、門番の方が開けてくれて、中へと入る。
中へと入ると、
「条烈様、お連れ致しました」
「ん? おう、入れ」
ファランさん、自ら扉を開けると、そんなに大きい部屋ではないが、部屋の奥の
男は、寝床の上で、あぐらをかき、こちらに鋭い視線を送る。この男性が、条国国王条烈様だろう。
黒黒した綺麗に整えられた長い髪を後ろに
「すまんな。ちょっと仮眠とってた」
「いいえ、お気になさらず」
「ああ、で、そいつらが、話していた例の奴らか?」
「条烈様、そいつらとか、奴らとかやめてください」
「あっ? 興味持ったらな」
「左様ですか。では、龍清様はとても鋭い方ですね。凱鬼様は
「そうか。で、肝心の耀秀は、どうなんだ?」
「はい、耀秀様には、警戒されてしまいまして」
「そうか、ならば。お前お得意の問答してみろ」
「はい、かしこまりました。耀秀様、少しお付き合いください」
「えっ? はい」
僕は、ファランさんと向き合った。
「では、ちょっとした問答を。そうですね~。では、自分の事を指して、
う〜ん、とても難しい問題だ。
だけど、僕は自分なりの答えを
「自我とは、自分が考える自分。自己とは、他者との関係にある自分です」
「なるほど、自我はアイデンティティで、自己はパーソナリティという事ですね。では、自分とはなんですか?」
アイデンティティ? パーソナリティ?
西方の言葉だろうか?
だけど、次の問題はと。
「それは……。私という、存在自体でしょうか」
「なるほど。では、なぜ人は、自分が分からなくなったり、自分を探したりするのでしょう?」
「えっ?」
僕は、思わず驚きの声をあげる。確かに、
「存在そのものであるなら、分からなくなる事も、探す必要もないのではないでしょうか?」
「そうですね」
これは難しい。僕は、ゆっくりと考える。
「自分そのものですが、人間は感情のある動物です。だから、その中に不安も
「そうですか。では、そんな人は、弱い存在なのでしょうか? 不安で自分が見えなくなるなんて」
「そんなことは、ありません!」
「あらっ?」
思わず僕は、強い口調で言ってしまった。
なぜなら僕自身が、不安で自分が見えなくなる時があるからだ。本当に正しい道なのだろうか? 自分はちゃんとしているのだろうか?
「私自身が、そうだからです」
「なるほどです。理解致しました」
そう言うと、ファランさんは、条烈様を、見る。
「いつか、私のライバルになれる方かと」
「そうか。ならば、
「えっ?」
「ハハハハハ、面白いではないか、ファランがライバルになり得る人材だといったのだぞ」
「はい」
ファランさんは、静かに条烈さんに頭を下げる。
「なら、
「はい」
えっ、どういう事?
「ふふふ、条烈様は、あなた方に興味をもたれたようですよ」
「そうなんですか?」
「はい」
というわけで、王宮内の
「耀秀、龍清、凱鬼、朱鈴だ。皆、いずれ俺達の前に立ちふさがるかもしれんぞ。良く覚えておけよ」
「はっ」
「じゃあ、乾杯だ!」
「乾杯!」
こうして、祝宴が始まった。
「ハハハハハ、
条烈様が、いの一番にやってきて、僕達と話し出す。
「あれだ、ファランは西方からの流れもんなんだが、とてつもなく軍略や政治に詳しくてよ」
「そうなんですか」
「ああ。まあ、自分の
「そうですか」
「ああ、ファランは天才だよ。まあ、戦いに関しては趙武もかくやだぞ。そしてな、人を見る目がある。出自問わず優秀な人材を集めたのも、ファランだからな~。
そう言うと、条烈さんは走って、どこかに行ってしまった。国王自ら動く、なかなか出来る事ではない。
そして、しばらくして、4人の男性を連れてやってきた。
「こいつらが獅神だ。ファランが探し出した俺の宝だ」
「宝などと、
「ハハハハハ、お前達が、宝じゃなくて何なのだ」
「有難き幸せ」
4人そろって、条烈様に、ひざまずき頭を下げる。反応はそれぞれだが、深い忠誠心が見えた。
「でだ、こいつが
「玄白です。以後、お見知りおきを」
4人のリーダー格のようだが、落ち着いた雰囲気に極めて冷静な態度。そして、何より若い、僕達よりも少し上くらいだろうか?
そして、長身で外見も整っているので、冷たい感じもする。
「で、こいつが
「陶鮮です。よろしくお願い致します」
「で、こいつが
「欧廉だ、よろしくな」
黒髪黒眼の人種だが、4人の中では一番大きかった。まあ、凱鬼と比べると小さいが、凱鬼が特別なのだろうな。そして、性格も外見も豪快な感じだった。
「それで、最後が
「えっ!」
僕達も驚く。見るからに強そうな条烈様が、勝った事がないと言い切るとは……。
「禍角です。よろしくお願い致します」
「顔は、お兄様の勝ちですね」
朱鈴さんが、なぜか対抗心を
龍清、凱鬼の表情が厳しい。相当な強さなんだろうな。
「で、こいつらが、ファランが話してた。耀秀、龍清、凱鬼、朱鈴だ。どれがどれだかわかるだろ」
「はい、イメージ通りでした」
「そうか」
その後、しばらく条烈様や、獅神の方々と会話する。禍角さんが龍清と、欧廉さんが凱鬼と、そして陶鮮さんと、僕と、僕のそばに寄ってきた朱鈴さんという感じだった。
条烈様は、その会話の輪をまわって色々話し、そして、玄白さんは、いつの間にか消えていた。ちょっと話したかったんだけどね。
そして、条烈様達が去ると、龍清が僕のそばに寄ってきて。
「あの人、本気でやばいね」
「えっ、禍角さん?」
「ああ。あれは、いちゃいけない存在だな。戦いを壊す」
「えっ? そうなんだ……」
「いずれ、俺が倒す」
「……」
静かだが、とてつもない
僕は、圧倒され、何も言えなくなった。
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