(捌)
それから1週間。
「
との事だった。
僕達は慌てて準備すると、王宮へと向かう。そして、吏部の官吏さんは、吏部の方に向かわず。いわゆる
「すみません、どちらに行くのですか?」
「えっ、はい。正殿にて国王陛下と
「はい?」
「ああ、大丈夫です。
「はあ」
確かに正殿は、国王の外交の場で、ちゃんと謁見出来る
僕達が正殿の階段を登ると、正殿の扉が音も無く開く。
部屋の奥には一段高い場所に国王陛下かな? が、座って、左右には文官、武官が並んでいるわけじゃなかったが、
「
入口付近でそう言うと、そのまま進み、
「私が、
「はっ」
僕は、慌ててひざまずき。礼をする。慌てて
「この度は、国王陛下のご
「ああ、良いですよ礼など。申し訳ありません。何でも優秀な人材だと」
そう言うながら、陵高様は玉座を降りてこちらに歩いて来た。豪華ではあったが、いわゆる
僕達一人ずつの手を取り、立ち上がらせる。
「それで
「恐れ入ります」
龍清は、ちらっとこちらを見つつ返事を返した。
「うむ。貴殿には
「いえっ、それは……」
「まあ、ゆっくり考えて欲しい。それで……」
と言いながら、今度は、凱鬼の前に立つ。
「貴殿が凱鬼殿だな? 本当に大きい身体だ」
「おう! じゃなくて、ありがとうよ。で、なくて。ございます」
「ハハハハハ、気にされるな。それよりもだ。素晴らしい力と、大刀の
「獅神?」
「ああ、条国の四人の優れた将軍だ。条国の国王が、そう名乗らせているそうなのだよ。我が国の将軍達も、何人も獅神に討ち取られてしまってな」
「そうか」
「それで、龍清殿、凱鬼殿には、獅神に対抗出来る
「恐れ入りやす」
「ああ。では、続いて耀秀殿。極めて優れた文官の才能だとか」
「ありがとうございます」
「
「恐れ入ります」
「うむ。まあ、
急に歯切れの悪くなる、陵高様だった。
「その、我が国は領土を大きく削り取られてな。文官の仕事がさほど無いのだ。地方の文官職なら空いてるそうなのだが……」
「はあ」
「む〜」
僕の気のない返事と、朱鈴さんの不満そうな声が重なる。
う〜ん、地方の文官職か~。まあ、そんなもんだろうね。
「まあ、ゆっくり考えておいてくれ。そして、最後に。龍・朱鈴殿」
「はい」
一番元気な返事を返す、朱鈴さん。
「まあ、女性だてらに素晴らしい武芸だそうだが……。失礼だが、龍清殿の妹さんかな?」
「はい、そうですが」
陵高様に聞かれ、答える龍清。
「そうか。女だてらに素晴らしいのだが、女性に軍を率いてというのは、その〜ちょっとな」
「む〜」
「まあ、龍清殿の仕事を家で支えて……」
と、ここで、朱鈴さんが。
「む〜、女だからって良いじゃないですか〜。私だって、戦えます。それよりもです。優秀な耀秀様が地方の文官って、何なんですか~。見る目ないんじゃないんですか?」
「う、うむ」
「まあまあ、朱鈴さん落ち着いて」
興奮状態にある朱鈴さんをなだめるが、止まらない朱鈴さん。
「耀秀様は、天才軍師、耀勝様の子孫なんですよ。それを、地方の文官などと。む〜!」
「えっ、そ、それは……」
たじたじの陵高様。そして、朱鈴さんの
「もう良いです。行きましょう、耀秀様!」
「えっ?」
ずんずんと歩いてきて、僕の手を取り、歩き出す朱鈴さん。
「失礼致します」
「じゃあな」
その後に続く龍清と、凱鬼。
そして、それを
僕達は朱鈴さんに引っ張られるように、王宮を出て、宿へと戻る。僕は朱鈴さんに引っ張られながら、後ろを見ていたが、どうやら追っ手とかはかけられていないようだった。
「さて、このままこの街を出よう」
「えっ、どうしてですか?」
「朱鈴が、耀秀を引っ張って王宮飛び出したからだよ」
「え〜と……。耀秀様、申し訳ありません」
「いやっ、かえって良かったよ。どうやって断ろうか悩んでたけど、上手くいったしね。追っ手もかかってないから。今のうちに、陵麗を出ようと思う」
「分かった」
「おう」
「わかりました」
というわけで、宿の支払いをさっさと済ませると、僕達は外に出る為に街の城門へと向かったのだった。
「通って良し」
「ありがとうございます」
どうやら、城門にも僕達の話は伝わってないようだった。
「どうやら、大丈夫みたいだね」
「ああ」
そして、僕達は陵麗を離れると。
「さて、どうしようかな?」
「ん? 条国に行くんじゃないのか?」
「うん、そうなんだけど。多分、陵国と条国の国境は、開かれて無いと思うんだよね」
「あっ、そう言えば、戦争中でしたよね」
「うん、そうなんだ。だから、一旦、
「わざわざ戻るよりは、そっちだな」
「確かに。まあ、どの程度警戒が、厳しいかもあるが」
「大丈夫ですよ。私とお兄様、凱鬼様がいれば」
「う〜ん? そうだね。じゃあ、このまま、進もうか。高安には、北河の支流の河の
「おう」
というわけで、僕達は、ほぼ誰もいない街道を南西へと進む。
そして、5日ほど歩くと高安の街に
「観光地というわりには、静かな街ですね~」
「まあ、しょうがないよ。条国との国境は閉じられてて、この街は戦いの最前線……。っぽくはないんだよね~」
「ああ。多くの兵が入っている雰囲気は、ないぞ」
「だな。逆に逃げちまったんじゃねえの?」
「かもしれないですね」
こうして、僕達は観光したり、情報を集めたり、丘越えの準備をしつつ、過ごした。
「さあ、行こうか」
「おう」
僕達は、一旦、街を出ると、街道を少し戻りつつ脇道に入り、条国へと接する丘へと向かう。
「え〜と、誰もいないよね?」
「おう、大丈夫じゃねえか?」
「ええ、そう思いますが……。お兄様、いかがしました?」
「ん? う〜ん、どうも監視されているっぽいな。別に嫌な感じはしないが……」
「そう。条国の人かな?」
「多分な」
「う〜ん? まあ、多分、大丈夫かな? 龍清が嫌な感じはしないって言うなら」
「そうですね」
「おう」
というわけで、僕達はあえて隠れることなく、昔は、人通りも多かっただろう道を進む。
「ふう、ふう、待ってくれ、耀秀」
「うん。後少しで頂上だからね」
「おう」
「お兄様」
「ああ」
「どうしたの?」
「お客様のお出ましみたいだな」
「ええ」
僕達はいつの間にか周囲を取り囲まれていた。条国の兵士……、ってレベルじゃないな。
そして、その兵士達の中からあらわれたのは、長い
https://kakuyomu.jp/users/guti3/news/16817330662982747205
「ふふふ。すでにお察しでしたか、さすがです。耀秀様、龍清様、凱鬼様、龍・朱鈴様」
「えっ! なぜ、僕達の名を知っているんですか?」
「ふふふ、陵国の王宮には、私の手の者が入っているんですよ」
「えっ、えええええ!」
朱鈴さんが騒ぐ。
「ふふふ、朱鈴さんは、面白いですね」
「えっ、ありがとうございます」
いやっ、
「それで、僕達の騒動を聞いて、予想して、ここで待ち受けていたというわけですか」
「さすが耀秀様です。御明察です。あらっ、いけない自己紹介がまだでしたね。私の名は、ファランと申します。条国で
「御史大夫……。国王側近筆頭……」
「さすが、耀秀様。本当に優秀。ちょっと優秀過ぎちゃいますでしょうかね~?」
で、その条国の女性の国王側近筆頭がなんの用だろうか?
「それで、僕達になんの用でしょうか?」
「はい、我が国の国王である
「拒否したら?」
龍清が、そんな事を言う。
「あらっ? どうも致しません。ですが、皆様の目的の一つが条烈様に会うことだと思ったのですが……。違いましたでしょうか?」
僕は、冷静に返事を返す。
「出来ればお会いしたいです」
「そうですか。ですと、一緒に行くと速いと思いますが」
「わかりました。では、ついて行きます」
「はい、ありがとうございます」
「で、馬で行く感じですか?」
「いえっ、馬車を仕立ててきましたので、一緒にお話しながら向かおうかと思いまして」
「わかりました」
僕が、そう言うと、ファランさんは、くるっと後ろを、振り返る。すると、馬車が静かに走ってくる。
馬車とは、西方の乗り物で、車輪のついた屋根付きの
ファランさんと警護の兵士2人、そして僕ら4人が乗ると、馬車は静かに走り始めたのだった。
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