(漆)
「ですが、いっぱいもらっちゃいましたね~」
「うん、多分、
泉国王の
「そうですか。でも、これでしばらく旅の資金の心配しなくて良さそうですね」
「そうだね」
まあ、元々兄上から頂いた
「で、次は、え〜と……」
「
「そうか、
「凱鬼様、今回は私は覚えてましたよ」
「なに! 朱鈴のくせに生意気な」
「なんですか! 朱鈴のくせにって」
「はん!」
「む〜!」
はいはい。
まあ、結構4人の旅は楽しい。くだらない会話だったり、僕の国に対する考えや、戦いに関する話も楽しそうに興味をもって聞いてくれて。
ただ唯一の困りごとは、宿で朱鈴さんが僕の隣で寝たがる事くらいだった。朝起きると、必ず僕の寝床に入っていて。とても驚く。まあ、何もないけどね。
「うわっ!」
「う〜ん、あっ、耀秀様、おはようございます」
「うん、おはよう朱鈴さん」
大柄な朱鈴さんの
ふ〜。
僕達は、平原地帯から丘陵地帯へと入る。そして、そこを越えると。
「
「えっ、どれどれ」
僕は、丘の
「はあ、はあ、待ってくれ、耀秀」
「凱鬼、そんな大した丘じゃないだろ」
「はあ、はあ、登りは苦手なんだよ」
「そうか。じゃあ、先行ってるぞ」
「おいっ、龍清〜」
凱鬼は身体も大きく、大きな行李も背負っているので、それもあるのだろうけど。もちろん龍清、朱鈴さんもそれなりに大きな行李を背負っている。ちなみに僕はあまり荷物を持たせてもらっていない。背負って歩くと、遅くなるからだそうだ。無念。
「へ〜、良い眺めだね」
丘陵地帯や、北西に広がる山岳地帯に囲まれた、かなり広大な盆地が広がっていた。この見える範囲が、現在の陵国の全てだった。
そして、南の丘陵地帯を越えた先にあるのが、
「耀秀様、あれが王都ですよね?」
朱鈴さんが眼下を指差す。この丘を下ったところに、比較的大きな都市が見えた。
「ん? ああ、そうみたいだね。確か王都の名は、
「へ〜、何か美味しい物ありますかね?」
「さあ? どうだろうね~?」
陵麗。その名の通り、陵国が出来てから
僕達は丘を下り、陵麗の街へと入る。陵麗の街の城壁は、元々はそんな高くなかったのだろうが、増築したのであろう。
街中は意外と活気があり、人も大勢いた。戦いに負けた国とは思えなかった。そして、その理由もすぐに知れた。
「え〜と、なんだ? 身分、階級問わず優秀な人材募集。だってよ」
「しかも、結構良い待遇だよ」
「確かに」
貴族階級じゃなくとも、軍官学校を卒業しなくても優秀だったら、仕官がかなう。しかも、文官でも武官でも。
これだったら陵国中、いやっ、下手したら隣国からも人が集まっているかもしれない。だけど。
「今さらだと思うけど。それに、条国の人間が陵国の
「そうか、確かにな」
「お兄様、何が確かにな。なのですか?」
「ん? 条国のスパイが
「へっ? ああ、そう言う事ですね」
凱鬼は、俺は分かってるぞ感を出しているが、視線が
「でだ、これにも行くんだろ?」
凱鬼が、俺は分かってるぞという感じで、言ってきた。まあ、その通りなんだけど。
「まあ、実際、仕官はしないけど、どんな感じなのか、やってみたくはあるよね」
「ああ」
「そうですか〜。では、後ほどやりましょう。それよりもです」
朱鈴さんは、そう言うと、こっちに勢い良く振り向いて。
「お腹すきました~」
「ハハハハハ、そうだね。じゃあ、宿に荷物置いてさっさと食べに行こうか」
「はい」
というわけで、僕達は陵麗の
「うおっ、これは」
「独特だな」
「うまっ」
「うん、確かに美味しいですけど……」
多分だけど、牛とか羊の内蔵を煮た
スープは、内蔵の臭みを消す為に、色々なスパイスが効いている。そして、麺はちょっと柔らかい麺。
好みの問題だけど、どうやら凱鬼は大好物。他の3人は食べれるし、美味しいけど。という感じではあった。
僕は、かなり濃厚でスパイシーなスープの影に隠れているが、内蔵の臭みがちょっとね。
まあ、他にも牛肉のスパイシー焼きとか羊肉の
この地は豚肉ではなく、羊肉とか、牛肉がメインのようだった。
「この牛肉は美味しいよ」
「あっ、本当ですね、耀秀様」
「ん? なんで麺食べね~んだ?」
「凱鬼は好きなんでしょ。どんどん食べてよ」
「おう。店主、この麺、おかわりだ」
「はいよ!」
「こっちの包子もうまいぞ」
「うん、美味しいね」
「まわりがふわふわで、中はじわっとジューシー。幸せです」
凱鬼は夢中で麺を食べ、僕達は牛肉や包子を食べる。
包子は、羊肉の
ここ陵麗周辺に広がる盆地でも小麦が取れるそうだった。
「おい、店主」
「はい、麺のおかわりですか?」
「いや、さすがにこの濃厚な麺はお腹いっぱいだ」
「そりゃ、よ〜ございました。では、何の用でしょうか?」
「あれだ。あの仕官ってやつはど〜なんだ?」
「へっ?」
凱鬼から意外な質問が出て、店主さんだけでなく、僕達もちょっと凱鬼を見つめる。
「ああ。はいはい。え〜と、結構、人多いですよ。おたくらも仕官の口かい?」
「まあ、そうだな」
「だとすると、
「なるほどな」
え〜と、
「まあ、後は文官、武官に分かれた試験があるみたいだよ。後は、王の面接とか」
王の面接? 直に会えるのだろうか?
「そうか、ありがとよ。で、この包子ってやつ追加で」
「へっ? はいよ」
そう言うと、店主さんは、店の奥へ行ってしまった。
「という事は、俺達は武官の試験を受けるのか?」
「うん、龍清達はね」
「わかった」
「耀秀様は、武官の試験を受けないんですか?」
「うん。だいたい武官の試験は武芸を重視する傾向にあるからね。多分、僕じゃ難しい。だから、僕は文官の試験を受けてみようと思う」
「わかった」
というわけで、数日の準備の後。僕達は、王宮へと向かったのだった。
陵国の王宮は、祖先が代々文官であった事もあってか。防御というよりも政治の場所という感じの王宮だった。結構広い敷地に、役所や官僚達の仕事場が並ぶ。
そして、王宮の中庭に仕官の試験を受けに来た人々が並ぶ。試験日は週一回。
俺何回目の試験なんだと言っている人も多く、合格率も低そうではあった。
「はい、次」
僕達の順番が来た。僕達は申し込み書のような物を渡し、さらに、耀家発行の4人分の通行手形を渡す。
「少々お待ちください」
官吏の方は、どこかに2つの書類を持って去っていく。そして、
「確認出来ました。では、耀秀さんは、右へ、他の方は左手にお進みください」
「はい」
というわけで、僕は3人と分かれて、文官の登用試験を受ける。
文官の試験は、説明によると、
経書は、『
で、経書の試験自体は、その五経の指定の部分を書く試験であった。まあ、読書好きの僕としては得意な試験だった。
続いての詩賦だが、これは、漢詩や賦を作る試験だった。漢詩が歌謡から生まれたと考えられるのに対し、賦はもとより
漢詩が
まあ、あまり得意じゃないが、旅の風景を賦で表してみた。
そして、最後は、策。
これは、いわゆる時事作文だった。これは得意だが、さて、文官の試験だから何を書こう?
となり、まあ、条国との戦時中という事で、戦時下の食料調達について書いてみた。
途中食事しながらであったが、昼前に始まった試験は夜になってしまっていた。
僕が試験会場を出ると。
「耀秀様〜」
「ああ、朱鈴さん」
「お疲れ様です、耀秀様。いかがでした?」
「まあ、ある程度は出来たかな」
「そうでしたか~。それは良かったです」
「朱鈴さんは?」
「私は〜……。それよりもです。お兄様達が待ってます。お話はそこで。いつもの酒家に行きますよ」
「うん」
というわけで、いつもの酒家に入ると、龍清と凱鬼が、すでに食べ始めていた。僕達も料理を頼む。
「で、武官の試験はどうだった?」
「ああ」
「ばっちりだぜ」
凱鬼が、自信満々に言う。
「私もです」
と、朱鈴さん。
「俺は武芸は良かったが、筆記がな」
「えっ、筆記……。お兄様、ありましたね~。記憶から消去しておりました」
「ガハハハ、俺もだ」
という事らしい。
で、武官の試験は。
技勇:以下の三種目 。
てつ石:二百斤、二百五十斤、三百斤の石を
内場:
という感じだったそうだ。
「まあ、弓はどうにか当たったという感じだが、他は完璧だぜ」
「筆記試験は?」
「私は、弓は、かなり良かったですが、力がいまいちですかね~」
「筆記試験は?」
「俺は、武芸の方はまあ出来たよ。そして、趙武法については、良く耀秀が話していたからな。なんとかって感じだったよ」
「そう、良かったよ」
趙武法とは、趙武がまとめ上げた戦術、戦略、用兵などの書だった。さらに前の時代の孫氏、呉氏の兵法書と並び、三大兵法書の一つであった。
さて、試験結果はどうなるだろうか?
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