(弐)
「さあ、お背中流しますよ」
「えっ、駄目だよ。
「え〜、私だけ仲間外れですか〜?」
「あらっ、御一緒に入りたかったですか? 女性用のお風呂も用意してしまいましたが……」
「それで、大丈夫です」
「かしこまりました」
ふ〜〜焦った。
僕と、
沸かしたお湯を
更に浴室内は
「ふ〜、こんな
「だね」
「ああ」
確かに、旅の間は、お風呂なんて入れなかった。なにせ風呂に入るのは贅沢な事なのだ。
お湯に浸かると、一旦、浴槽から出て生薬や香料を調合した「
そして、再び浴槽から出ると、まずアブラガヤという草で編んだ
最後に
「お風呂気持ち良かったですね~」
「そうだね~」
「出来れば、耀秀様と一緒にお入りしたかったのですが……」
「えっ」
本当に冗談でも、びっくりさせられるよ朱鈴さんには。
僕は、ちらっと横を見る。朱鈴さんは僕のすぐ横で横になり、その長い髪を外に垂らしていた。
その〜、身長が高く大柄の為に、女性用の浴衣から色々はみ出して、かなり見てはいけない光景だった。
その〜お胸だったり、お
「耀秀様。そんなにチラチラ見ずに。ちゃんと見ていただいて構わないのですが」
「えっ」
「ガハハハ、耀秀は、ムッツリスケベか〜」
「えっ」
「ムッツリではない。俺の妹だから、遠慮しているだけで……」
「龍清、違うから」
「ガハハハ」
もう、2人ともからかわないでよ~。
「耀秀様。さあ、遠慮なさらずに」
「朱鈴さん、大丈夫だから」
「そうです?」
もう〜。
髪がある程度乾くと、浴衣から用意してもらった服に着替える。まあ、商人が着る良い服という感じだったが。珍しく、朱鈴さんも女性らしい服を着ていた。
そして、兄上や、お店の人から歓待されて色々振る舞わられたのだった。
まずは、
代表的なのが羊を煮込んだ「
ただ、如親王国から海を
で、次は一転して、
「
膾は生肉や生魚の料理である。今回は、龍会の海の幸だった。それが山盛り。
「うまいな~、これ」
「あまり、がっつくなよ」
「がっついてないぜ、龍清」
「だったら良いんだが」
「耀秀様、お口のまわりに食べ物が、お拭きしますね」
「えっ、大丈夫だよ。自分で拭けるから」
「まあ」
僕は慌てて自分の口を拭くと、膾を口に放り込む。うん、美味しい。
僕達は凄い勢いで食べていた。
さらに、「
僕達はさらに、お粥に、食後のお菓子まで
そして、お腹がいっぱいで
「それで、これからどうするんだ?」
「それなのですが、まだ、結論が出ていないのですよ」
「そうか……」
そして、ちょっと何やら考えると。
「龍会の軍官学校に通ってみないか?」
「えっ?」
僕は驚きの声を上げる。
こうして、僕達は龍会の軍官学校に通う事になった。
しかし……。
僕にとって、とても退屈だった。
そう、
それに比べて、ここで教わる事は、古典だった。
いやっ、古典が悪いというのではない。過去の戦い。特に、
しかし、古典の戦術戦略をそのまま教えても意味がないのだ。なぜ、その時にそういう戦術戦略を考えたかが問題なのであって、別の戦場でそのまま使えるわけではない。
というわけで、耀秀は授業に退屈していた。そして、龍清は、武将科で勉強していた。そこも強いライバルがいるわけでなく、同じく退屈しているようだった。
「耀秀、授業は出ないのか?」
「そんな事言って、龍清だって」
「まあね。でも、手合わせは、凱鬼としているから」
「ん?」
僕は、自分の身体を見る。まさに、
「ダルンダルンだね」
「そうだね〜」
といったって、龍清と手合わせしたら死んでしまう。
「明日からちょっと剣を振るうよ」
「その方が良いね」
まあ、武芸科に入った。凱鬼と強いライバルが出来た、朱鈴さんは楽しそうだったけれど。
「いや~! 凱鬼様行きますよ!」
「おう、こいや!」
猛獣の突進のように凄まじいスピードで凱鬼が打ち込むが、クルクルと鮮やかに回転しつつ朱鈴さんは、その打撃を受け流し、逆に打ち込む。それを凱鬼は、圧倒的パワーで弾く。
う〜ん、凄い。まあ、こんな凄い2人曰く、龍清はさらに上手なのだそうだ。まあ、武の化身、鞨項さんが戦いたい相手として指名したのも頷ける。
まあ、こんな龍会の生活が一年近く続いたある日だった。兄上が突然こんなことを言った。
「そう言えば、耀秀。この国の王に会って見るか?」
「えっ、この国の王?」
「ああ」
「是非、お会いしたいです」
「そうか、少し待っててくれ」
「はい」
そう言ったものの正直期待はしていなかった。
しかし。
「良く来た。
「はあ」
言われてから数日後だった、兄上に連れられて王宮に
「余が
「よろしくお願い致します、耀慶が弟、耀秀です」
「うむ」
僕は、じっくり
しかし、それは僕に対してだけ興味が無いというわけでなく、全てに対して興味が無いのだろう。
商人達が支配する経済都市、龍会を支配下にして、安定して収入が入ってくる。戦乱の足音は遠く、少なくとも龍会に関しては治安も良い。まあ、その治安も商人達によって保たれているのだろうが。
僕と兄上は、形式的な挨拶を済ませると、玉座の間を退室する。
「どうだった?」
「え〜と……」
「ハハハハハ、正直頼りない王だろ。家系だけで王となり、のうのうとその地位に
「兄上!」
「大丈夫だ。みんながそう思っているし、本人も自覚しているさ。それでも、政治はちゃんと動いている。何でだと思う?」
「え〜と、優秀な家臣がいるから?」
「違うな。過去に政治構造が構築され、それを
「えっ。漫然とやって?」
「そうだ。下手に
「下手に変革すれば、予期せぬ事態が起きてしまい、
「まあ、そういう事だよ」
「なるほど」
僕はちょっと考えてしまう、そんな国に希望はあるのだろうか? 他の国の王はどうなのだろうか?
その瞬間だった。
そうだ。色々な国を見てみよう。そして、その国の王がどんな人物なのか知りたい。ふと、そう思ったのだった。
「兄上」
「ん、なんだ?」
「カナン平原を旅しようと思います」
「そうか」
「そして、色々な国を巡り、色々な王を知り、もし、仕えるべき王がいれば……」
「仕えるべき王がいれば?」
「僕の力を試してみたいです」
「そうか。気を付けて行けよ」
「えっ」
あまりにもあっさりとした兄上の言葉にびっくりする。
「ハハハハハ、いつか出ていくと思ってたからな。だけど、退屈そうにしているのに一年近くダラダラ過ごしてたんでな。ハハハハハ」
「えっ」
どうやら兄上は、僕に
「ありがとう、兄上」
「まあ、頑張れよ」
「うん」
そして、僕は帰ると、龍清、凱鬼、朱鈴さんを集める。
「あのさ、旅に出ようと思うんだ」
「おう、良いな」
僕が、提案した瞬間、凱鬼が
「え〜と、いろんな国を巡って、いろんな王に会ってみたいんだ」
「良いですね~。最初は、どちらに向かわれるのですか?」
朱鈴さんも、旅に出るのが、さも当たり前のように言ってくる。
「え〜と、どこに行くかは、決めてないけど」
「まあ、ここでの生活は退屈だったしな。耀秀が行くなら、どこへでも行くさ」
「ありがとう、龍清」
「あ〜、お兄様ずるいです。私も、耀秀様に感謝されたい!」
「ガハハハ、大人気だな、耀秀は」
「えっ、みんな、ありがとう」
というわけで、僕達は龍会を旅立つ事になったのだった。
あっ、今度はちゃんと軍官学校を卒業したよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます