(什参)

 邑洛ゆうらくの街をとりあえずの王都とした、如参じょさんを国王とする如真王国じょしんおうこく。その如真王国は、急ピッチで邑洛の街の整備を行っていった。



 まずは、城外で暮らす人々を街中に入れ、空き家となっていた家を与え邑洛の街の民とした。これで、表通りだけでなく、裏通りにも活気が戻る。


 元々流れてきた民であり、邑洛の民と認められず、やむなく街の外で暮らしていたため邑洛の民として認められ喜んだ。


 さらに、元々の邑洛の民とも交流があった為に、あっさりと元々の邑洛の民にも認められ、自然と溶け込んでいったのだった。


 そして、街の外や、裏通りで暴れ回っていた腕っぷしに自信のある者達は兵士として登用する。一石二鳥だった。


 さらに、無人となった街の外にあった家を潰し、城壁に開いた穴も埋め、城壁を綺麗にする。



 これで、如真王国の王都に相応しい威容いようを誇る王都邑洛が出来上がる。


 城壁の高さは、7じょうしゃくすん(約18m)。東西に、およそ十里(約4.2km)。南北に、およそ九里(約3.8km)にもわたる城壁が連なる。



 で、国王如参がいる主城楼しゅじょうろうだが、これも内部を綺麗にし、そして、臥良がりょうが運び出して、軍官学校に保管していた玉座ぎょくざや、装飾品などが設置され、国王がいるに相応ふさわしい玉座の間が作られ、それ以外の部屋も徐々に綺麗にされていった。



 こんな感じで如真王国としての体裁ていさいが整っていくが、もちろん外面だけじゃなく、政治体制や軍事面でもであった。



 まずは、臥良と5人の大豪族であるが、臥良はもちろん国のトップの宰相さいしょうに。何せ、国王である如参は、政治でも軍事面でもあてにならない、というかしていない。というわけで、両面の指示を出す存在として臥良しかいなかった。



 続いての5人の大豪族だが、それぞれが、政治面、そして軍事面の要職ようしょくに就任する。


 まずは、武将として優れている3名。翁垓おうがい鞨項かつこう巍傑ぎけつは、軍事面での要職に就任する。


 臥良は、翁垓を禁軍きんぐん将軍にしようとしたが、如参がそれを拒否。巍傑を禁軍将軍に任命する。そこで、翁垓、鞨項が将軍として、1万2千ずつを率いる事となった。残りの6千が禁軍。


 それぞれの役職名としては、翁垓が左将軍、鞨項が右将軍と呼ばれる事となった。


 そして、小豪族の人々もそれぞれの配下の将として役職を得る。



 一方、残りの大豪族の丹栄たんえい聯邦れんほうだが、それぞれ文官として役職を得る。


 丹栄が軍務を司る大司馬だいしばに、聯邦が監察かんさつと政策を司る大司空だいしくうに、それぞれ任命される。そして、政務を司る大司徒だいしとは臥良が兼任する事となった。


 さらに、小豪族の人々も文官としても役職を得る。



 そして、趙武ちょうぶこと長舞だが、大将軍となる。さらに大将軍府も開設され、耀秀ようしゅう龍清りゅうせい凱鬼がいきもその大将軍府所属の役職を得るが、率いる兵も無ければ、役目も無い、ただ名前だけのものだった。



「は〜、名前だけは大将軍趙武ですか」


「先生、大変ですね~」


「いやっ、耀秀君だって、その大将軍府所属の軍師ぐんしなのですよ」


「まあ、そうですね。管理するべき幕僚ばくりょうはいませんけどね」


 長舞と、耀秀の話を聞いていた、龍清と凱鬼も愚痴る。


「俺達だって、率いる兵もいないのに大将軍配下の裨将軍ひしょうぐんですよ」


「だな」



 そう、兵もいない、配下の幕僚もいない、仕事も無い、名前だけの大将軍府だった。



 当初は、その主城楼の一角に作られた大将軍府に居て、暇だけを持て余していた耀秀達であったが、しばらくすると出仕せず、お互いに武芸の稽古けいこをしたり、戦術戦略談義をしたり、お茶飲んだりという感じになっていたが、誰も文句を言ってはこなかったのだった。


 皆は、邑洛の整備、政治体制の整備、そして、軍事面での整備などに忙しく、それどころではなかったというのもあったが。





 そして、そんな日々が3ヶ月ほど続いた後に、事件は起きる。



手筈てはず整いましてございます」


「ん? なんの話だ?」


 巍傑は、如参に謁見えっけんを申し込み許可されると、こう言ったのだった。


「はっ? ですから、陛下がおっしゃっていた野盗やとうを……」


「だから、なんの話だ?」


「えっ? あっ、失礼致しました。とりあえず、そのような感じです」


「余は知らん。後は任せた」


「はっ」



 そして、その夜のことだった。



「ん? どうしたの龍清?」


 耀秀は、龍清が起きて着替え始めた物音で目を覚ます。


「わからないけど、不穏な感じがする」


「えっ」


 そんな事を言っていると、部屋に凱鬼と朱鈴も飛び込んでくる。


「おいっ、起きろ!」


「耀秀様。起きてくださいませ。キャッ」


 僕は着替え中だった。朱鈴しゅれいさんが、それを見て可愛く叫ぶが、チラチラと朱鈴さんの視線を感じる中、慌てて着替える。



 すると、龍清が、


「殺気を持った何者かが街中、移動している」


「ああ、結構な数だぞ」


「気配は殺しているつもりのようですが、本当に殺気はダダれですわね」


 僕にはわからないが、龍清、凱鬼、朱鈴さんは、殺気を感じ取り、何事かが起こっているのを察したようだった。



「俺達は、とりあえず何が起こっているのかを見に行く。朱鈴は、耀秀を守って……」


 龍清がそこまで言った時だった。僕の頭の中に、恐ろしい考えが湧き立つ。


「いやっ、僕も行くよ。嫌な予感がする。朱鈴さん、申し訳ないけど、龍清と凱鬼の足手まといにならないように僕を守って」


「はい、かしこまりました。この朱鈴、耀秀様の為なら、たとえ火の中水の中布団の中までお供もいたしますわ」


「えっ?」



 まあ、こんな感じで話しているうちに、龍清と凱鬼は屋敷を飛び出し、まるで疾風しっぷうのように駆ける。で、僕はというと、手早く馬具をつけて馬屋うまやから馬を出し馬にまたがった朱鈴さんに、馬上に引き上げられ馬上の人となる。


 朱鈴さんは、乗馬もうまいのだ。だけど、この乗り方はちょっと……。せめて、朱鈴さんの後ろが良かったな~。


 僕は、手綱たづなを持った朱鈴さんの体温を背中に感じ、ドギマギしていた。あ〜、考えに集中出来ない〜。



 そして、馬は二人に追いつく。


「なんだが、薄暗うすぐらいね」


「ええ、人の気配がしませんわ」


「だけど、近いよ」


 僕達がそんな事を言っていると、凱鬼が焦ったように言う。


「やべえ、この先はあいつらの……」


「えっ」


 どうやら、この先は凱鬼配下の野盗さん達の屋敷のようだった。



 そして、戦いの音が聞こえてくる。いやっ、怒号どごう悲鳴ひめいだった。闇に閉ざされた場所に、音だけが響く。



「なんだてめえ〜、グワッ!」


「おいっ、大丈夫か? ギャ」


 そして、ようやくかすかにあかりがともり、武器と武器が打ち合わされる、金属音と火花が見えてきた。


「敵の数はおよそ500」


 龍清がそう叫ぶ。えっ、500。多い、多すぎる。いくら強いといっても、龍清と凱鬼の二人だけじゃ。あっ野盗さん達も、200人はいるか。となると。


「龍清。囲みの弱いところある?」


「いやっ、無いな」


「だったら、一番近くの門から突入して、皆と合流して、その後、皆をまとめて脱出準備出来たら合図して、朱鈴さんに馬で斬り込んでもらって、前後から挟撃して突破して脱出しよう」


「うん」


 凱鬼は、すでに斬り込んでいた。龍清も短く応じると、凱鬼に続く。



 ブーン、ブーン、ドシャ!


 シュ、シュ、ギン! ザシュッ!


 凱鬼の大刀と龍清の矛が闇を斬り裂く。



 二人が斬り込むと、敵に混乱が生じる。そして、あっという間に門内に入っていった。二人が門内に入っても、激しく戦う音が聞こえてくる。邸内にもかなりの数が侵入しているようだった。


 僕はじっと目をらすが、どうなっているかはわからない。まだかな? まだか?


 あっ、そう言えば、合図を決めるの忘れていた。そう思った時だった。


「朱鈴!」


 龍清の大声が聞こえた。


「はい、お兄様!」


「えっ!」


 朱鈴さんは、馬を駆ると、敵の中に斬り込んで行った。そうだ、降ろしてもらえば良かった。朱鈴さん戦いにくいだろうし。


 だが、朱鈴さんは、鮮やかに手綱をさばきつつ、片手に矛を持って敵を蹴散らしていく。しかも、僕が馬から落ちないように器用に固定しつつだった。


 すると、凱鬼を先頭に野盗さん達が飛び出してくる。龍清はまだ屋敷内で戦っているようだった。


「こっちです。着いてきてください」


 朱鈴さんはそう言いつつ、馬首を返し再び敵を蹴散らしつつ突破をはかる。


 すると、凱鬼は立ち止まり、その場で大刀を振るい、野盗さん達の突破を援護する。僕が、朱鈴さんの脇の下越しに振り返ると、殿しんがりに龍清が飛び出してきた。野盗さん達の数はだいぶ減っているようだった。100名はいないように見えた。



「耀秀様。道わかりますか?」


 朱鈴さんは、後ろを振り返りつつ馬のペースをコントロールしていた。


 道か〜、どうするか? 賑やかな場所に……、いやっ、遠すぎる。ということは、一旦、邑洛の街を出よう。運良く、門も近い。


「右に進もう」


「はい、かしこまりました」


 殿をつとめている龍清と凱鬼の戦う音が遠くなっていた。どうやら、このまま逃げられそうだった。



 そして、少し走ると。


「あの、このまま行ってよろしいのでしょうか?」


「えっ?」


 朱鈴さんが、困惑した顔で聞いてくる。どういう意味だろ?


 僕が、ちょっと考えている間にその答えは分かった。門の前に轟々ごうごうと燃えあがる火柱ひばしらがたっていて、その横に仁王立におうだちする大男がいた。そして、10人ほどの兵士も。


「よう、待ってたぞ」


 終わった……。


 それは、鞨項さんだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る