(什弐)
最初、
いや、そこは、もう戦場では無かった。
「おう。おめ~が、総大将か? 悪いな
暴力的な強さで
鞨項は、普通よりかなり大きな
そして、その暴力的なまでの武力は、不幸な文官へも向いたのだった。
「貴様は……」
ブーン、グシャ!
ただ一撃に
そして、この不幸な戦いも終わる。はずだった。
「高閲様が死んだぞ~」
「総大将である、高閲様が討たれた~」
という声が戦場のあちらこちらであがると、如親王国軍は
鞨項の軍勢は追撃しようと動き出したが、大将である鞨項自身が退屈そうに戦場に背を向けると、同じようにこちらへと戻ってきていた。
もちろん
しかし、他の三豪族の軍や、それ以外の小豪族の軍勢は目を血走らせ、ただ逃げ惑う如親王国軍の兵を背後から斬り倒していった。
「ケッ、戦いもしねえ〜軍勢を襲って何が楽しいのかね~」
鞨項は、遠くなりつつある
「ウワっ!」
数人の兵士がよろめきつつ、受け止めると。鞨項は、
「適当に、死体集めとけ」
「えっ、なんでです?」
敵兵の死体を集める。さすがに意味が分からず、鞨項配下の将が
「ああ? 分からん、なんとなくだなんとなく」
「はあ?」
鞨項配下の兵士は疑問に思いながらも敵兵の死体を集め、
なんとも不気味な光景だが、普段から
そして、一番しつこく追撃した、
街のあちらこちらで、酒を
「ウハハハ、大したことね~な〜、如親王国も〜」
「そうそう、
などという声が聞こえる。もうこの戦いだけでなく、如親王国との戦いも勝ったような勢いだった。
確かに、こちらの損害はほとんどなく、大勢の兵士を失った如親王国軍は、さらなる衰退をむかえていると言えるかもしれない。
そして、僕達は、その戦勝祝いを冷めた目で見つつ呑んでいた。いやっ、周囲では凱鬼配下の野盗達が楽しそうに歌い踊り、まあ、楽しかったけどね。
「しかし、最後のは、いただけないな」
「追撃戦でしょ。さすがにやり過ぎだよね」
龍清の言葉に、僕はそうと言ったものの、それが戦いと言われてしまえば終わりのような気がした。しかし、たとえ戦に出てきた兵士であっても、無抵抗で殺害する事に違和感があった。
「ええ、わたくしも正面から人を叩き伏せるのは好きですが、背後から人を襲うのは嫌ですわ」
「まあな」
いやっ、正面から叩き伏せるのも良くないと思うけどね。
と会話していると、向こうの方から、大きな酒の入った
「よう、ちゃんと楽しんでるか?」
「ええ、まあ」
僕が、
「まあ、あんなの戦いって言わねえが、だからこそ、今は忘れて楽しめ」
「えっ」
「あんなの戦いじゃないのですか?」
「ああ。強い敵を真正面から撃破するのが戦いだ〜。弱っちい逃げ惑う奴をただ殺すのは戦いじゃねえよ」
豪快な姿とは似合わず、意外な言葉が、鞨項さんの口から
「いくさをやってりゃあ、気に食わない戦いがごまんとあらあ。だがな、それをいちいち気にしてたら、心の方がもちゃしねえ。だから、こういう時は、忘れて楽しめ。そしてだ、おめえ達がこんなくだらない戦いを、起こさねえようにしてくれよな」
「は、はい」
僕は返事を返しながら圧倒されていた。
「おっと、酒が無くなっちまった。じゃあな」
そう言って、鞨項さんは立ち上がり去って行く。それを尊敬の眼差しで見る。
そして、2、3日ほど戦勝の祝いが続くと、
仮の玉座に座る
「陛下、我ら
「ああ」
臥良が、如参に対して
そして、臥良は、玉座の下段にあがると、5人の大豪族の方を向く。そして、
「いよいよ時はなりじゃ、こちらに攻め寄せた敵軍は、数を大いに減らし、情けない事に、邑洛を通過して
「しかし、邑洛の守備隊は残っておる。さらに、穴だらけとはいえ、ちゃんとした城壁がある。どう攻略するのだ?」
「フォフォフォ、翁垓殿は心配性じゃの〜。案じられますな。我々が攻め寄せれば城門は自然と開く」
「なっ」
5人の大豪族の5人共に驚きの声をあげる。それを見て臥良はおかしそうに笑う。
「フォフォフォ。まあ、見てのお楽しみじゃ」
その後、少し軍の編成などの軍議をすると、一同は如参のもとを退散しようとする。
「では、我ら一同は明後日邑洛攻略に出発致します。陛下も、
「ああ、頼むぞ」
「ははっ、では我らはこれで」
「ああ」
そして、臥良達が仮の玉座の間から出ようとすると、如参は、
「ちょっと待て、巍傑残れ。残りの者は下がって良い」
「は? はい、かしこまりました」
部屋に巍傑のみ残り、残りの者は部屋から出ていく。さっさと去って行く、臥良達を見て、翁垓はゆっくりと部屋の外を歩く。すると、こんな会話が聞こえてきた。
「余は、もはや野盗の下働きではない」
「はい、陛下は高貴な出自です」
「そして、野盗の下働きをしていた事もない」
「は? はい、その通りです」
「分かるな? はい、かしこまりました」
これは、大変な事になったぞ。翁垓は、慌てて部屋を離れ、凱鬼のもとにむかったのだった。
そして、明後日。
で、軍勢が邑洛の街に迫ると、本当に城門が開き、中から人が出てくる。
「お待ち申し上げておりました、臥良様」
「うむ」
「で、どのくらい残った?」
「はい、兵5千が如真王国の兵士として働きたいと」
「そうか、そうか、
臥良は、満足そうに笑う。
その後、ぞろぞろと入城する軍勢にくっついて、僕達も入城する。久しぶりの邑洛の街だった。
あっ、軍勢にくっついてと言ったが、2万5千もの軍勢が入れないことはないが、混乱が起こるといけないので、多くの兵士は、邑洛の城外に駐屯する事になっていた。
で、入城すると、街の中はなんの変化もなし。街は、普段通りに人々が生活し、日常生活が行われていた。ただ、戦いにならなかった事を喜んでいるようには見えた。
邑洛の街は何も変わらない。だけど、さすがに寮の部屋には別の方が入っているようで、僕と龍清と朱鈴、そして、凱鬼には、邑洛の主城楼近くの逃げ出した誰かの屋敷が与えられた。どうやら4人一緒にいろという事らしい。
「しっかし、考えようによっちゃ〜、
「うん、そうだよね」
凱鬼が、柱にもたれかかりつつ、こんな事を話してきた。
ちなみに朱鈴は食事の用意をして、龍清が手伝っていた。僕と凱鬼は邪魔なのだそうだ。
僕は、一言付け加える。
「だけど、民衆は平和に暮らせるのであれば支配者は誰でも良いんだよ」
「まあ、そうかもな」
そして、凱鬼を見て気になっていることを訊ねた。
「そう言えば、凱鬼の配下の〜」
野盗達って言って良いのか? と思い言葉に詰まる。
「ああ、あいつらか? あいつらも大きめの屋敷もらってそこにいるようだぜ」
「へ〜、良かったね」
2百名もの野盗が……、人が一緒に暮らせる屋敷か〜。広いんだろうな~。
「向こうに居なくて良いの?」
「ん? ああ、あいつらも俺が居ないほうが、のびのびできるじゃないの? それに、俺もここが落ち着く」
「そう」
う〜ん、どうやら野盗の皆さんも気をつかって、凱鬼が僕達と居られるように仕向けているようだった。良い部下だね~。
「は~い、お食事できましたよ~」
朱鈴と、龍清がお皿を抱えてやってくる。
「お〜、こりゃ美味そうだ。朱鈴は、本当に良い奥さんになれそうだな。なあ、耀秀」
「えっ、う、うん」
「そんな、嫌ですわ、耀秀様」
そう言いながら、スナップの効いた手のひらで思いっきり叩かれる。
パッーン!
「痛っ!」
「あっ、ごめんなさい、耀秀様」
そう言いつつ、朱鈴は耀秀を叩いてしまった部位を撫でる。
それを見て、凱鬼が笑う。
「ガハハハ、朱鈴は、本当に良い奥さんだね~。なっ、龍清」
「そうだね」
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