(玖)

「うむ、見事なもですね〜。牢の中でもお構いなしですか〜。流石じゃな〜。くっくっく」


「恐れ入ります」


 陰鬱いんうつな男の声に応え、やはり薄暗いかすかなあかりの中、部屋の片隅、完全な闇の中から返事が聞こえた。


「これで、耀家の当主は死に、龍会の耀家から解放の為の身代金を取る算段は崩れ。慌てているかの〜。くっくっく」


「はい。そのようです」


「そうか、そうか。だったら、わしが、また、良い策を授けてやるかの〜。くっくっく」


 そう言うと、男は、また、何やら書状を書き始めた。そして、


「これを、高閲こうえつ殿に渡せ」


「はっ」


 書状が、男の手もとから消え、気配も一瞬で消えた。



「くっくっく。さあ、そろそろかの〜。駒は揃い、策はなり、後は……。しかし、會妖カイヨウと言ったか、あの男、使えるの〜。運が良い。あんな男と出会えるとは。くっくっく」





「そうですか。御苦労様でした。會妖さんには、苦労をかけます」


「いえ、勿体もったいなき、お言葉」


「ハハハ。なんだか、偉くなった気分ですね」


 その部屋は、先程の部屋と違い明るかった。會妖は、床几に座る男の前でひざまずいていた。ただ、全身黒ずくめ、顔にも布を巻き、眼光鋭い目だけが露出していた。



「実際。あなた様は、この會妖がお仕えするのに相応ふさわしいお方かと」


「そうですか。ありがとうございます」


「ですが、よろしいので、あんな男に、利をもたらして?」


「わたしが、歴史の表舞台に立つ為に必要なのですよ。あの男は」


「そうですか。では、わたしも、あの男の為に、もう一働ひとはたらきしてまいります。では、ごめん!」


 會妖の気配が消える。


 男は、天井へと手を伸ばし、手を握る。


「もう少し、もう少しです」

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