(陸)

「そうじゃったか。ご苦労」


「はっ!」


 気配が消える。闇の中。


 あかりがともり、仄暗ほのぐらく周囲を照らす。


「くっくっく。ようやく駒がそろったようですね〜」


 男は、蝋燭ろうそくのあかりに照らし、先程、目の前へと置かれた紙を見る。


「揃いましたね。趙武に、耀勝、龍雲に、凱炎ですか。そして、くっくっく」


 男は、その中の一枚を取り出すと、うやうやしく頭上に掲げる。そして、


「こんな所に、居られましたか、陛下。さて、わしの為に、役立って下さいよ。くっくっく」


 そして、男は、目をつむり少しの間、思案する。


「第二十七計、仮痴不癲かちふてんも終わりぞ」


「第三十三計、反間計はんかんけいにて、内部を崩し」


「第五計、趁火打劫ちんかだこうにて、混乱させる」


「第十四計、借屍還魂しゃくしかんこんにて、大義名分を生む」


「これで、第十計、笑裏蔵刀しょうりぞうとうとは正にこの事。くっくっく」



 男は、何やら書状を書き始めた。そして、書き終わると立ち上がり、手を軽く叩く。すると、消えていた気配が現れる。



「これを、高閲こうえつ殿に渡せ」


「はっ」


 書状が男の手もとから消え、気配も一瞬で消えた。


 高閲とは、如親王国の国王、唐林とうりんの側近中の側近。如親王国の侍中じちゅうだった。


 侍中とは、国王の側用人。要するに、普段、臣下しんかからの言上ごんじょうを取り次ぐ人物だった。



「いよいよ、始まりだ。さあ、見事に役立ってくだされよ。手駒達よ。くっくっく」

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