第十六話 万事解決


「ステージ ですか…?」

「そうじゃ!」

 ラン捜査官へと報告にやって来た劇場で翌朝、いつもの大胆な制服姿のマコトとユキは、劇場の総支配人とも対面をさせられていた。

 小柄だけど鍛え抜かれた緑色の体躯に、シワシワな小顔が強面で、相当な修羅場を潜り抜けて来た人生が伺える。

 事務所のソファーに深く腰掛けながら手にしている杖も、全身から漂う強者のオーラを隠す役には立っていない。

 マコトとユキとラン捜査官と、劇場の責任者と総支配人の五人がいる空間は、しかし威圧的な雰囲気ではなかった。

「つまりねぇ♡」

 総支配人の言い分を、金髪美女の潜入捜査官が、代弁をする。

「アルバートの一件でぇ、私たちはこの劇場にぃ、少なからず迷惑をかけたわけ♡ この劇場そのものはぁ、グレーゾーンであってぇ、犯罪そのものに加担しているワケではぁ、無いからねぇ♡」

 客席から逃走をする髭の男を追って行く二人の様子を、少なからずの客たちが目撃していて、それはアルバートの名前や逃走したという噂から、ダンスチーム・ホワイト・フロールは潜入捜査官だったのでは。

 という噂が、出始めているらしい。

「店にとっちゃあ、いい迷惑じゃからなぁ。で、お前さんたちが落とし前を付けてくれりゃあ、ワシらも水に流して、お互いに手打ちってぇ話だぁ」

 裏社会ではそれなりに、面子がモノを言う。

 潜入捜査の手引きをしたとあっては、この店だけでなく、組織の他の店や、あるいは半裏でもあるこのコロニー全体へも悪影響が出るし、裏社会でも総支配人たちが敵認定をされてしまう。

「それで、私たちがまた ヌードダンスを?」

「ようはの、お前さんたちが警察の人間じゃあなく、あくまでホワイト・フロールのニセモノだと、客たちが納得できりゃあ、それで終いってぇ話だぁ」

「だからねぇ、あなたたちにもう一週間ん、この劇場でぇ、ステージに上がって欲しいっていぅ~、ワケなのね♡」

 ウインクをくれるラン捜査官は、二人のヌードダンサーとしての姿に、かなりの才能を見出している。

「ヌードダンス ですか」

 以前は正体を隠し、ダンサーとして潜入していたけれど、今回は少なくとも、劇場の責任者と総支配人は、二人の正体を知っている。

 なんとなく、二人をジっと見てしまうマコト。

「とにかく、ボクたちだけでは 決められませんので」

 そう言って一度退室をして、クロスマン主任へ報告と確認をする。

 一抹の希望を託して「いいから帰って来るんだ」との言葉を、二人は期待していたものの、やはり。

『調査部との連携は大切だし。現場を丸く収めるのも、現場にいる者の責任だからね。わかった。一週間の帰星延期を 許可する』

 と言われて、通信が終えられた。

「やっぱりね」

「致し方ありませんですわ。マコト」

 こういう時の、ユキの決断は早い。

「わかった」

 二人は総支配人たちがいる部屋へと戻って、一週間のステージを引き受けた。

「おお、理解が早くて助かるのぉ!」

 さっきまでの強面から一転して、孫を見るお祖父ちゃんのような、穏やかな笑顔の総支配人だ。

 こうして二人は、今夜から早速、またヌードのステージへ上がる事となった。


 劇場の看板には「ホワイト・フロールのステージ、ヤリ逃げ延長! 地球連邦本部に訴えらる可能性が大になったので、これが最後のチャンス!」とか、大々的に宣言をされていた。

「なに言ってるんだか」

「ふふ…みなさん、嬉しいのですわ」

 恥ずかしい紐ボンテージを全裸に纏わせながら、二人は気を引き締めて、ステージへと上がる。

 生演奏と共に緞帳が挙げられて、スポットライトの中、マコトとユキのボンテージ裸身が照らし出された。

「「「「「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」

「ホワイト・フロールだぁっ!」

「あのおっぱいっ、お尻っ! 堪らんねぇっ!」

「マコトっ、ユキぃっ! エロいゾ・フロールだああっ!」

 勿論、客たちはニセモノだと認識して、まさか本物だっととか、疑ってもいない。

 だからこそ、ステージの上でのヌードダンサーを本物呼ばわりしているのだ。

 という事は、解っているものの。

 正式なユニット・ネームや、マコトやユキなどと本当の名前で呼ばれてしまうと、本物だとバレてしまっているのではと疑ってしまい、肌を晒している事実が余計に恥ずかしく感じられてしまう。

 特に、今は潜入捜査でもない為か、余計に、本当のヌードダンサーにされているような気分でもあった。

(うぅ~)

(マコト、集中ですわ)

 これまでのように、剥き出しの巨乳をタプんっと揺らし、裸のお尻をプルるっと魅せ付けて、隠されていない秘処を客席へ向けてアピール。

 裏社会の下っ端男たちを相手に、二人は隠していない裸身をリズミカルに、躍らせて輝かせて魅せて、男たちの興奮を煽ってゆく。

 よく見ると、劇場の責任者や総支配人も、スタッフ用の特等席でニヤニヤとステージを鑑賞していた。

(あの二人、ボクたちの正体を知ってて!)

(これも、マコトの魅力が為せるワザ ですわ)

 他人事のように微笑むユキだけど、総支配人たちを含む男性客は全て、二人の裸を一瞬でも見逃さない熱と勢いで、隅々まで注視していた。

 昨夜までのステージは、潜入捜査としてヌードを披露し、オヒネリも受け取っていた。

 しかし事件が解決した今夜からの一週間は、総支配人たちへの手打ちとしての、ホワイトフロール本人たちのヌードダンスだし、お客様からのオヒネリも受け取る。

 それは最早、特殊捜査官としての仕事ではなく、普通にヌードダンサーとしての活動でもあった。

 マコトもユキも、ヌードダンスでの男性の視線に、身体はすっかり慣らされている。

 美顔や乳房、桃色媚突や丸い裸尻、秘すべき裸腰に視線が集中されると、突き刺さる視線が熱となって、甘く感じ取れてしまうのだ。

(みんな…!)

(見てますわ…!)

 男性客たちによる欲望と熱の視線によって、理性では拒否しているのに、肉体は熱の鼓動が高まってしまう。

 思考が停滞をして、お互いの恥ずかしい姿や表情に、呑み込まれ合っていった。

 二人の肌が重なって、お互いにドキドキさせられながら、立ち上がり開いた美脚の中心部分を指で開いて、清楚な色艶の粘膜を自ら、男性たちへと魅せ付ける。

((~~~っ!))

 ドクター・チューブに味わわされた高揚が、体の奥でドクンっと再燃。

「「「「「ぅうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」

 と、男性たちの声ではなく熱と意識と欲求で、二人の裸身が包まれていた。

 ステージが終わると、全裸に首輪と手枷足枷とピンヒールという姿で、金色のトレイへと巨乳を乗せて、客席を廻る。

 スタッフも客もみな着衣で、自分たちだけが全裸という恥ずかしさは、いつまで経っても全く慣れない。

「いやあ、ホワイト・フロールのヌードダンスっ、超興奮したゼっ!」

「また明日もっ、観に来るくからなっ!」

「ありがとうございます」

「ホワイト・フロールのお尻ぃ…へへへ~」

「タッチは禁止ですので」

 裏社会の下っ端な男たちとはいえ、裸を見せる屈辱も拭えなかった。

 しかも、さり気なく乳房やお尻に触ってくる男たちも、後を絶たないどころか、日増しに増えて行く気がする。

「本物のお尻とか、触れたら死んでもいいいっ! うへへへっ!」

(本物だよ)

 頭に来るけれど、同時に、裸を褒められると無条件に不思議な喜びを感じてしまう自分にも、ちょっとムカつく。

 二人のトレイには、劇場始まって以来という程の大金オヒネリが乗せられて、それはそのまま、二人への評価でもあった。


 そんな感じで、二人は一週間の落とし前ヌードステージを終えた。

 責任者も総支配人も、二人のステージを一週間ずっと見続けて、すっかりご満悦。

「いやあ、ホワイト・フロールのお二人、確かに素晴らしいショーでしたなぁ!」

「うむ! どうじゃな、いっそこのまま、本当にヌードダンサーへ転職–」

「「お断りします」いたしますわ」

 ハモって即答をするマコトとユキに、総支配人は大きく笑っていた。


「随分と オヒネリを戴きましたけれど どうしましょうか?」

 モーテルの一室で、二人はチップを持ちきれないくらいにまで、稼いでしまっている。

「これじゃあ本当に、ヌードダンサーだよ」

 シャワーでサッパリした二人は、無意識に全裸のまま、ベッドの上でお金の山を見つめて困惑。

「こういうお金は、ぱーっと使っちゃうのが 良いんだけれどね」

「このステーション、特に魅力的な商品には 乏しいですものね」

 ファストフードなどでは、とうてい使いきれない金額。

 とはいえ、楽屋にいるダンサーたちへ毎晩のように奢っていたのに、やはりほとんど減らない金額である。

「しかたないね。一旦 地球へ持って帰って、募金でもしようか」

 と思っても、こんな大金を寄付したら匿名でも話題になって、いづれヌードダンスバレをしてしまう気もする。

「折角ですから、帰りにどこか素敵な惑星に寄って、浪費してしまいましょう♡」

 この惑星で消費しきらない限り、ヌードダンスで稼いだお金だと認める事になるような気もするけれど、他に方法はなさそうだ。

「そうだね。そうしようか」

 明日、二人はようやく、地球へ帰れるのだ。


                       ~第十六話 終わり~

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