第十五話 白鳥が舞う宇宙(そら)


 アルバートのエレカを視界に捉え、マコトがビームマシンガンの銃撃を浴びせるも。

「ダメだね。やっぱり この位は対策済みだよ」

 距離を詰めようと加速をしたら、エレカが向かう先の滑走路上に、中型の航宙船が待機状態で、後部ハッチを開いていた。

 航宙船の体積は、中型としては平均的だけど、デザインは靴のようだ。

「あのお船で、逃走を図る考えですわ」

「まさに逃げ足だね。ビームバズーカでもあれば ハッチを破壊できるのに」

 このままでは、三度と逃げられてしまう。

 と考える二人ではない。

「あそこですわ!」

 ユキがバイクを反転させて、宇宙港の管制塔へと疾走をする。

 ユキの考えは、マコトにとって阿吽である。

「どのくらい?」

「十秒ピッタリですわ」

 マコトは御免よろしく、管制塔の隣に建てられている地上三十階ほどな高さの立体駐車場への乗り入れゲートを、ビームマシンガンで破壊して、バイクの通路を確保した。

 遠くの滑走路では、アルバートのエレカを収容した航宙船が、宇宙への出口であるアウター・エアゲートに向かって、発進している。

 ユキがバイクを立体駐車場の最上階まで走らせる間に、マコトは管制塔へ、特別使用の申請を済ませる。

「OK貰ったよ」

「了解ですわ」

 バイクが立体駐車場のの最上階へと到着し、更にユキは速度を上げて、滑走路側の壁に向かって疾走をする。

 マコトがビームマシンガンで壁の一部を破壊すると、残された壁の瓦礫が重なり、バイクがジャンプできる程度の廃山となった。

「行きますわ」

「うん」

 加速したバイクが廃山と壁を乗り越え、地上三十階よりも高くジャンプ。

 マコトとユキは全裸のまま、バイクから放り出されて、夜の宇宙港を自由落下。

 しかし慌てる事のない二人は、超高速で迫りくる銀色の閃光によって、素早く受け止められていた。

 二人のユニットネームであり、船名ホワイト・フロール号。

 特殊捜査官に与えられる専用の中型航宙船は、煌めく銀色な白鳥の姿をしている。

 二人に遅れること二日のタイミングで、偽装したままこのステーションの港へとオートで到着し、潜入捜査官の管理の下、待機していたのだ。

 主である二人のケモ耳美少女捜査官を、背面にせり出す保護クッションでキャッチした銀色の煌めく白鳥は、超高速で飛行しながら、二人を船内へと収納。

 アルバートが逃走をしたアウター・エアゲートへと飛翔しながら、マコトとユキは裸のまま、ブリッジへと滑り込む。

 申請許可を得ている宇宙港から真空の宇宙空間へと飛び出すと、既にアルバートの船は姿を消していた。

「マコト」

「捕まえた。北天二時三十分。東天一時十分」

 メカオタクなユキが改造しまくって駆逐艦レベルにまで底上げされた超高性能索敵レーダーで捉えた、立体的な方角を告げるマコト。

「了解ですわ」

 パートナーの報告で、ユキが白鳥を拘束旋回させて、ターゲットを追跡した。

「アルバート、アステロイドに逃げ込んでる」

 小さな石塊がゴロゴロと浮遊しているアステロイド帯へと、逃げ込んだ様子である。

「また 仲間が隠れているだろうね」

「でしょうね」

 以前、アルバートの航宙船を逃してしまった時は、アルバートの船が近くの一般客船を攻撃して被害が出て、二人は人命救助の為に、追跡を断念せざるを得なかった。

 今回は、そこそこ裏社会的な宇宙ステーションの近くでもあり、そうそう犯罪者にとって都合よく一般の船はいない。

 だから、アステロイドという航行困難な空間へと、逃げ込んだのだろう。

 ついでに、車道での妨害のように、部下たちを利用して逃走を図る可能性もある。

「飛び込みますわ」

「うん」

 マコトは、攻撃用のスティックをギリ…と、強い意思で握り込む。

 石塊の中へと飛び込んて、アルバートの船を視界に捉えた時、背後に三隻の攻撃型宇宙船が現れた。

「やっぱり 隠れてた」

「映像は 撮ってありますわ」

 アルバートの手下たちだろう。

 それぞれが航続距離の短い中型の宇宙船で、外見はどこでも流通している、銀河間航行は出来ない単距離の、一般宇宙船だ。

 しかし船体の色はイカニモな威嚇色で、岩陰から白鳥の後方へと出現した時には、違法改造で増設された攻撃兵器を隠さず全露出させていた。

「くるね」

 とマコトが読んだ通り、敵性宇宙船は三隻揃って、一斉に攻撃を開始。

「手動切り替え」

 準オート航行をさせていた航宙船を、ユキが完全マニュアル操作に切り替えての、戦時対応を始める。

 違法航宙船たちの第一射をヒラりと避けた銀色の白鳥は、翼や本体の艶を優雅に輝かせながら、違法船団へと反撃。

「悪いけど」

 もちろん、警告を送ってからの攻撃だけと、正直、今はとてもイライラしている。

 たった一人の犯罪者に逃げられて、捕まえる為とはいえストリップを身に着けさせられたり、下っ端の男たちを相手にヌードダンスをさせられたり、胸やお尻を触られたり。

 ついでに、現在はアステロイド帯であるから、身の安全の為に無警告での迎撃も、正当防衛として認められていた。

「こちらは地球連邦特殊捜査官 ホワイトフロール。これより正当防衛を行使します」

 と、略式で警告をしてから、マコトが銃火器のトリガーを引く。

 敵船団のビームやミサイルの雨を、ヒラりヒラりと避けて飛翔する白鳥の目から、赤く輝く破壊のビームが発射。

 –っビュウウウウゥゥゥゥンっ!

 第一射が既に威嚇ではなく、一隻の違法改造船がエンジンを直撃されて爆散、消滅。

 二人の目的はあくまでアルバートだから、残る違法改造船を無視して、親玉の船を追跡してゆく。

 部下たちの乗る違法改造船は慌てて、白鳥を追って背後から攻撃をしたりするものの、優雅に飛ぶ銀色の船体には掠りもしない。

 狙ったはずなのに、逆に誘き寄せられたと解った時には、たったの一射でエンジンを撃ち抜かれて大爆発。

 アステロイド帯なのに石塊にぶつかる事なく、違法改造船たちはほんの数分で、全艦轟沈または爆散消滅をさせられていた。

 残るはターゲットであり武器密売団のボスである、アルバートの船のみ。

 逃走に自信がないのか、アルバートの船はアステロイドの中を上下左右へと、立体的にクネクネと逃げ回る。

『一応、警告しますけれど。自首してください』

 しない事は想定済みでも、捜査官の使命感からか、あるいはクロスマン主任に叱られるのが恐ろしいからか、真面目に最後の警告。

 案の定、そもそも準備までして逃走するような犯罪者は、物理的に追い詰められない限り、逃走しか選択しない。

 アステロイドで逃げ切れると希望に縋るアルバートは、やはり自首を意味する停戦信号など、発信しなかった。

 むしろ追跡者を迎撃しようと、ビームやミサイルをムチャクチャに乱射してくる始末だ。

 もちろん、そんな雑な攻撃を受けるようなユキではない。

 マコトはモニターの時間をチェックしながら、口頭で確認をした。

「三十秒、自首勧告に対する 拒絶を確認」

 ランダムに逃げる草食小動物のようなアルバートの船を、猛禽類の如き的確さで追い詰めて行く、銀色の白鳥。

「逃走を阻止します」

 ホワイト・フロール号の嘴部分が開かれると、中からクリアオレンジの砲身が、ニュっと伸びた。

「もう 逃がさない」

 マコトは、ターゲットスコープの範囲を出たり入ったりしているアルバートの逃走船へと、意識を強く集中。

 一見ランダムに見えるけれど、無意識にパターン化して曲がりくねるターゲットの、一瞬の先を呼んで。

「発射!」

 意識と声と指先が同時に反応をして、白鳥の自衛最終兵器である、融合カノン砲ガルバキャノンが、閃光を放った。

 –っっドュウウウウウウゥゥゥゥゥゥンンっ!

 眩い光が石塊たちを白く照らし、狙われた逃走宇宙船のド真ん中を、撃ち抜く。

 –っドオオオオオオオオオオオオンンっ!

 一秒と待たず、ターゲットの航宙船は灼熱と光の球体と化し、乗員もろとも蒸発をした。

「追跡終了」

「ふう」

 ヌードの二人がブリッジで掌同士をパンっと合わせると、剥き出しの巨乳がタプんっと揺れる。

「あ 裸だったっけ」

「うふふ。私もつい 忘れておりましたわ」

 二人はブリッジで笑い合っていた。

 こうして、武器密売組織アルバトロスのリーダーであるアルバートは死亡。

 組織も壊滅し、事件は解決をした。

「ああ、久しぶりに 地球へ帰れるね」

「タップリのお風呂で、ゆっくりと くつろぎたいですわ」

 地球への報告通信をして、後はラン捜査官にも報告をして、全てが終わり。

 ではなかった。


                       ~第十五話 終わり~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る