第十四話 夜の街をネイキッド・チェイサー!
アルバートの反応の速さを見くびっていたワケではないけれど、二人がアっと思った瞬間には、ボックス席を離れ、ホールの出入り口まで走り着いていた。
闇取引の相手である禿男は、商談相手の素早い逃走に、同じ裏社会の人間なのに唖然として見送っている。
「くっ!」
「追いますわっ!」
劇場への配慮もあり、二人は小声で、アルバートを追ってホールを飛び出した。
今、入り口のホールスタッフが新人の潜入捜査官であった事は、マコトたちにとって不運と言える。
二人が再びターゲットを取り逃しただけでなく、同じ組織の若い男性に目の前でヌードを晒すという、ステージ以上の羞恥を体験しなければならなかったからだ。
全裸のダンサー二人がアルバートを追いかける後ろ姿を見送った禿男が、ようやく、自分たちが捜査官にマークされていた可能性に突き当たる。
「や、やべぇっ! 俺も逃げなきゃ–」
「はぁい、ストップぅ♡」
立ち上がった禿男の禿げた後頭部に、笑顔でハンドガンを突き付ける、ラン捜査官。
「静かにしてねぇん♡ そうすればぁ、司法取引にもぉ、応じる準備があるわよん♪」
「わ、わかった…」
男は小さく両手を上げると、ホールスタッフとして潜入していた男性捜査官によって、両腕を拘束された。
「ところでぇ…アルバートがどうして逃げたのかぁ、あなた 解るぅ♡」
ラン捜査官の静かな問いに、観念した禿男は、正直に告げる。
「ヤ、ヤツぁ、妙に感の良いところがあるって話 だったからなぁ。裸のダンサーが近づいてきた時、オレぁただ喜んでたけどよぉ。アルバートは、危険を嗅ぎ取ったんじゃねぇか?」
「ああ」
犯罪者の中には昔から、修羅場を潜った分だけ、動物的な感が冴える者もいる。
アルバートは、そういうタイプだったのだろう。
「待ちなさい、アルバート!」
首輪と手枷と脚枷にピンヒールのみというほぼ全裸で、マコトとユキは、通路を走り逃げるアルバートを追いかける。
逃走犯が向かっているのは、表や裏の出入り口ではなく、地下の駐車場だ。
「マコト、このままでは!」
「ビークルで逃げられる!」
そうなる事を想定しながら、二人は駐車場で、追跡用にお客さんのビークルを調達する事も、考える。
アルバートは逃走しながら、何処かへと連絡も着けていた。
駐車場に走り込むと、オートで反応したアルバートのビークルが、扉を開ける。
アルバートのエレカは中型サイズの高級車だけど、二人は経験から、違法改造されている事を前提にもした。
「止まりなさい!」
立ち止まって、ピンヒールを脱ぎながら手足のリングを外して、素早く組み直したハンドガンを向けるものの、ビークルは発進。
二発ほど、後部のタイヤとガラスを撃ってみたけれど、やはりどちらも防弾仕様にされていた。
「やっぱり」
「行きますわ!」
マコトが威嚇射撃をしている間に、同じくピンヒールを脱いでいたユキが、お客さんの大型エアバイクを調達。
ユキが操縦をして、もう一丁のハンドガンを組み立てたマコトが後ろに飛び乗って、追跡を再開する。
表通りでは、地下駐車場から中型のエレカが飛び出して来て、通行人たちが慌てていた。
「うわぁっ、危ねっ!」
「ドコ見てんだっ!」
違法改造のエレカは、パワーの底上げしているらしい。
『そのエレカ止まれっ–うわぁっ!』
包囲をしていた警察のエレカへと、次々に体当たりをして強引に押し退け、逃走への道を切り開いていった。
走り去る暴力エレカに唖然としている人々の後ろから、もう一台、大型バイクが凄いスピードで飛び出してくる。
「うわわっ、今度は何だっ–ぇえっ!?」
「危なっ–あれぇっ!?」
今度こそ罵倒しようとした男たちだけど、走り去るヌードのバイカーたちで呆気にとられ、罵声も怒りも忘れて見送った。
夜の車道は思ったよりも車が多く、アルバートは対向車線にはみ出しつつ周囲のエレカとぶつかりながら、必死に逃げる。
逃げるついでに車を混乱させて、追跡してくる二人の足止めも、するつもりのようだ。
街の明かりが眩しい夜の車道を、全裸のマコトとユキが夜風を切りつつ、タンデムバイクで疾走をする。
「ユキ」
「お任せですわ!」
ビークルの操縦に於いて地球連邦随一なウサ耳少女が、ぶつけられてスリップして目の前へと飛び出してくるエレカたちを、スピードも落とさずスイスイと避けて、ターゲットのエレカと距離を詰めてゆく。
「あの方向、宇宙港に向かってる!」
「逃しませんわ!」
全裸の美少女二人が疾走させる大型バイクは、前方の事故と相まって、周囲の人々の注目を集めていた。
「な、なんだあれっ!?」
「ヌードバイカーズだぁっ!」
道行く男性たちは特に、裸の二人に強く注目。
黒いネコ耳と白いウサ耳が風に靡き、マコトの黒いネコ尻尾もハタハタと靡いている。
夜風と衆目に晒される巨乳が揺れて、大きな裸尻が左右に振れて、スベスベの素肌が街燈を反射し、人々で溢れる中央車道を駆け抜けてゆく。
中性的な美しい王子様のようなボーイッシュ美少女と、無垢なお姫様のように愛らしいゆるふわ媚少女のタンデムヌードが、夜の繁華街をHで華やかに彩っていた。
「また みんな見てる」
「マコトが魅力的だからですわ」
混乱する事故車両を避けながら、ユキは逃走犯のエレカとの距離を、詰めて行く。
「とにかく、まずはアルバートを止めないとね」
フロント係の男性捜査官から渡されていた銀色のトレイは、ただのトレイではなく、やはり組み換え式の特殊装備だ。
マコトが素早く組み直すと、手錠と、ハンドガンよりも大型のビームマシンガンとして、完成をした。
「あの場で逮捕できていれば、サブマシンガンは 使わなくて済んだのに」
「マコト!」
ユキの声に周囲を見ると、アルバートのエレカと二人のバイクの間に、黒い小型のエレカが四台、割り込んできた。
四台の黒いエレカは、まるでアルバートのエレカを護る盾の如く、横並びでバイクの通路を塞いでくる。
「ああ、さっきアルバートが通信していた相手 だろうね」
「手下ですわね」
黒いエレカたちが速度を落とし、アルバートのエレカとの距離が、開いてしまう。
ネコ耳の少女捜査官は、全裸の女体を美しく姿勢良く立たせると、前方のエレカたちへと、両掌の銃を構える。
–ッビュウゥンッ!
マコトがサブマシンガンを一射するも、黒いエレカも当然に違法改造らしく、後部ガラスがビームの弾丸を弾いて散らした。
手持ちの武器では、エレカを直接排除する攻撃力にはならない。
「まあ そうだろうね」
パートナーがメカオタク故、対抗策はすぐに思いついていた。
マコトは左右のビームマシンガンを、一大のエレカの下の道路面、電磁アスファルトへ向けて、コンマ一秒もないタイミングずれで、ビームを各一射。
–ッビビュウゥンッ!
先に発射されたビーム弾が、エレカの直下の電磁アスファルトに命中して電磁弾痕を円形に広げる放電現象を展開させると、刹那に次弾が命中をして、電磁的な抵抗でビームの跳弾現象を起こす。
エレカの構造上、車体下面の排熱システムは塞げないから、エンジンなどの駆動システムは、ほぼ剥き出しである。
なので、電磁アスファルトで跳弾をしたビームの弾は、エレカの機関部を適当に直撃。
–ッドオオオオオオンンッ!
運悪くエンジンに直撃を受けた妨害エレカは、防弾仕様のガワが地上十階よりも高く舞い上げられる程の、大爆発を起こした。
一台を破壊して威嚇と忠告を済ませたマコトは、地球連邦随一の射撃能力に、美しい中性的フェイスを自慢げに輝かせる。
「まあ、それでも妨害は 止めないだろうけれど」
「犯罪者ですもの」
勝手知ったる犯罪心理で、ユキも同じ答えを得ていた。
「うわぁっ、爆発したぞっ!」
「はっ、裸の女たちだぁっ!」
車の爆発に驚いて振り向くと、直後に全裸の美少女たちが、バイクで駆け抜けてゆく。
ボスが恐ろしいのか正義が嫌いなのか、妨害エレカたちは仲間が倒されても、妨害走行を止める事はしない。
「それじゃあ 恨みっこなしだからね」
マコトは美顔を凛々しく引き締めると、跳弾効果で次々と、妨害エレカたちを破壊してゆく。
車道で粉砕されたエレカもあれば、ハンドル系を破壊されて車道から飛び出し、密造酒の製造施設や違法な廃棄車両の山へと突撃するエレカもあり、街外れは盛大な延焼に巻き込まれて大混乱へと陥れられた。
「ユキ」
「宇宙港に 入られてしまいましたわ」
妨害車を排除した二人だけど、ターゲットであるアルバートには、宇宙港まで逃げ込まれてしまう。
「また 逃がしてしまうような失態は!」
「絶対に致しませんわ!」
全裸の二人は強い決意で、バイクを宇宙港へと滑り込ませた。
~第十四話 終わり~
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