第十三話 ターゲット『A』を確認!


 ステージ上でライトに照らされ、二人は今夜も男性の客たちへと、ヌードのポールダンスを披露していた。

 中性的な美しい王子様の如き美顔のマコトと、無垢なお姫様の如き媚顔のユキが、隠さない紐ボンテージで包んだ裸身を躍らせる。

 二人の巨乳が汗をチラして煌めき、裸の巨尻がテプんっと揺れて、桃色な媚突も秘すべき少女腰も、男性たちの視線を集めて息づく。

 ウサ耳媚少女捜査官の首輪が引かれ、ネコ耳美少女捜査官の唇が白い肌をサラりと滑り、二人の乳房が押し付け合われる。

「マコト…」

「ユキ…」

 仰向けで肌を重ねるドキドキに、二人は一瞬だけ使命を忘れ、濡れた眼差しで見つめ合い、小声で名前を呼び合ってしまっていた。

 潜入捜査中のヌードダンスで、二人は裸で肌を重ねる恥ずかしさに羞恥しながら、そんな肌合わせにも、心が馴染んでいってしまう。

 羞恥で心が折れそうな黒いネコ耳も白いウサ耳も、黒いネコ尻尾も白いウサ尻尾も、頑張ってピンと立てて、恥ずかしさに耐え続けていた。

 そして、男性たちが最も盛り上がる、クライマックス。

 背中合わせなユキとマコトが美脚を頭上にまで美しく掲げ、閉じられた秘処の全てを魅せ付けて、更に自らの白い指で純潔の証までをも恥辱の公開。

((~~~っ!))

「「「ぉぉおおおおおおおっ!!」」」

 劇場の男性客たちが、声ではなく熱気と視線で、心の歓声を上げていた。

 スポットライトが落とされながら緞帳が下げられ、二人はステージ裏へと退出。

「やっぱり、恥ずかしいね」

「どうしても、慣れませんわ」

 と会話をしながらも、客席廻りの仕度は、もう身体が覚えていた。

 二人とも紐ボンテージを脱いで、首輪と手枷と足枷とピンヒールのみという、裸体をより淫靡に強調する恥ずかしい姿。

 マコトたちのステージを鑑賞しに来る男性客たちにとって、ステージ上での紐ボンテージも魅力的だけど、ピンヒールと手枷と足枷と首輪という被虐的なほぼ全裸が最も似合うと、リクエストされてもいるのだ。

 いつも通り、金色のトレイに双乳を乗せて、客席廻りへと出発。

 ステージ裏のカーテンから、満員御礼の客席へ裸身を躍らせると、ユキの輝く笑顔とマコトの塩対応な美顔で、一つ一つのテーブルを廻る。

「ホワイト・フロールの二人ぃっ! 今日も最高のぉっ、ゆりオとゆりエットだったよぉっ!」

「本当のホワイト・フロールのヌードダンスを見ているみたいで、そっちもドえらくドエロく興奮しちゃうぜっ!」

 と称賛しながら。男性客たちは二人のトレイへと、オヒネリを乗せてゆく。

「ありがとうございますですわ」

 お金を乗せるのを言い訳にと言わんばかりに、巨乳へと指でツンツンと触られたり、大きなお尻をサワりと撫で上げられたり。

「タッチは禁止です」

「おおおっ、ホワイト・フロールのおっぱいとお尻ぃっ!」

 裏社会に関わる、しかも下っ端の男たちに全てを晒し、身体を触られ、お金を受け取る。

(本物のヌードダンサーより サービスさせられてない?)

(いつか全員 逮捕して差し上げますわ)

 穏やかに目配せで答えるユキの怒りは、いづれ実現するだろう。

 憤慨を隠して客席を廻る全裸の二人のイヤリングに、ラン捜査官から小さく、そして真面目な通信が入った。

『マコト、ユキ、落ち着いて訊いて…! ターゲットが入店しているわん!』

「「!」」

 武器密売組織のリーダー、アルバート・アルバトロス。

 恥ずかしいヌードダンスを下っ端の男たちに晒し続けて来たのは、全て、この男を捕らえる為の潜入捜査だ。

 二人の鼓動が、強い使命感で熱く燃えてくる。

(どこにいるんですか?)

 マコトの質問に、ラン捜査官は静かに答える。

『壁際のぉ、最後尾のボックス席よん』

 マコトとユキがチラと視線だけを送ると、入り口に最も近い壁際のボックス席に、髭の男性と、禿の大柄な筋肉男性が座っている。

 二人はヌードダンスを鑑賞しながら酒を飲み、今は何かの商談をしているようだった。

 マコトとユキが知っているアルバートは、髭でも禿でもない。

 しかし、解る。

『アルバートはぁ、髭の男の方よん。あなたたちのショーの前に入店をしていた…という事だけどぉ、髭の変装がありきたり過ぎてぇ、逆に確定するのにす、時間を要しちゃったわん』

 潜入捜査官は、ダンサーの責任者でもあるラン捜査官だけではない。

 男性スタッフとしてフロアーや受け付けを担当していた新人捜査官でも、ギリギリで入店を見落としてしまいそうになった。

 という話だ。

 そして髭の男を怪しんだのは、マコトもユキも一緒だ。

(ユキ)

 マコトの目配せに、ユキは無言で小さく頷く。

 二人は客席を廻りながら、ターゲットから目を離さず、さり気なく接近を試みた。

 男性スタッフとして潜入している捜査官から、金色のトレイと交換する格好で、新たに銀色のトレイを受け取る。

 金色のトレイがオヒネリで一杯になったので、トレイを交換した。

 という恰好である。

 そして、受け取った銀色のトレイは、もちろん普通のトレイではなかった。

 数組の男性客たちの席を廻って、ボックス席へと近づいてゆく。

『ステーション警察にもぉ、協力を要請してあるけどぉ、慎重にねぇ』

(ステーション警察って 信用できるんですか?)

 マコトの問いに、ラン捜査官は薄く微笑みの声を乗せて、答えた。

『地球連邦の名前を聞いてぇ、悪党に加担する警察組織なんてぇ、流石に地球領では存在できないものねぇ♡ ふふふ』

 悪徳ステーションの警察だからこそ、目の前の悪党と中央を天秤にかければ、中央しか選択肢はないのである。

(接触いたしますわ)

 ユキが緊張の声色で、ラン捜査官へと伝えた。

 ボックス席の縁まで近づくと、禿と髭の小声な会話も聞こえてくる。

「……それでは、ブツを確認してから残りを払う。という事で」

 禿の男が、武器を購入しようとしているようだ。

「ふふ…ブラッド・デビルズに煮え湯を飲まされたとはいえ、俺の販路はまだまだ健在だからな」

 マコトとユキは、犯罪者リストでアルバートの顔を知っている。

 人工の髭とサングラスと、僅かに顔の形が変わる特殊なカモフラージュもされていて、密かに入り口で設置されている人相判定のチェッカーでは、認識できなかったのも頷けた。

 それでも、訓練を積んだ捜査官たちの観察眼までは、誤魔化せない。

(午前零時三十八分 アルバートを確認)

(同じく 確認いたしましたわ)

 特殊捜査官の二人が、ターゲットを確認したと、ラン捜査官へ伝える。

 対してアルバートは、宇宙船での戦闘と敗北と逃走を体験しているものの。ホワイト・フロールと直接対面した事はない。

 だからであろうか。

 前髪などの一部に色付けをして、しかもヌードダンスを披露したソックリな二人をまさか本物だとは、ステージを見たからこそ、想像できなかったのだろう。

 逃走を許した犯罪者を相手にヌードダンスを見せて、更に恥ずかい秘処まで晒した恥辱が、頭の中でシチューのようにグツグツと煮立つ、マコトとユキ。

 この怒りは、絶対にアルバートへと向ける。

 そういう決意を、二人は目配せで頷き合った。

 ラン捜査官から、通信が入る。

『警察の包囲は完了したわん♡ あとはぁ、あなたたちのタイミングよん♡』

 ようやく、この時が来た。

(行くよ)

(ええ)

 マコトとユキは油断なく、ヌードのままボックス席へと上がり、ターゲットへと接近。

「こんばんは」

「私たちのショーは いかがでした?」

 塩対応のボーイッシュダンサーと、優しい笑顔のゆるふわダンサーが話しかける、その寸前。

 なんとアルバートは、二人がボックス席へと上がったタイミングで、慌てたように席を離れたのだ。


                     ~第十三話 終わり~

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