第十二話 客席サービス


 剥き出しな紐ボンテージのまま、二人は品の無い金色なトレイを持たされて、客席の中へ。

「そのトレイでぇ、お客様からのオヒネリをお、受け取ってくるのよん♡」

「オヒネリ…」

「ですの…?」

 太古の昔から、舞台演者に対する評価の一つとして、おひねりという文化が、銀河のどこにでもある。

 オヒネリという名前自体は、地球連邦の文化圏で一般化している言い方で、地球本星の地方によってはチップという呼び方も、現存している。

 このオヒネリの時間が、次のダンサーの準備時間であり、生演奏が間を持たせる一役も買っていた。

「あの こ、この格好のままですか?」

「当たり前じゃな~い♡お客様はぁ、あなたたちのステージを評価してぇ、オヒネリをくれるんだからぁ♡ さ、早く早くぅ♪」

 と二人を急かす金髪美女の笑顔は、潜入捜査官というより、むしろヌード劇場の舞台責任者の如くである。

 とにかく二人は、潜入捜査を失敗させないためにも、巨乳も巨尻も剥き出しな恥ずかしいステージ衣装のまま、男たちでひしめく客席を廻らなければならなかった。

 トレイは両手持ちだから、どうしたって肌を隠す事なんて出来ない。

 二人は目配せで頷き鼓舞し合って、男たちの中へと裸身を歩ませた。

 紐ボンテージな二人組が、スポットライトを浴びて歩み出てくると、男性客たちはワっと熱い視線を集中させる。

「ユキ 行くよ」

「ええ」

 教えられた通りに、客席を満遍なく歩むコースを、歩き始める。

 金色のトレイに巨乳を乗せるようにも、指示されていた。

 客席に近づくと、男性客たちがトレイの上へと、コインや紙幣を置いてくる。

「二人とも、エロくて良かったぜ!」

「そのオッパイもお尻も、デカくて綺麗でヤらしいぜっ!」

 客としてもヌードダンサーとしても褒め言葉なのは解るけれど、真面目な美少女捜査官の二人からすれば、拳を以て返礼としたい言葉である。

「ど どうも」

「喜んで戴けて 何よりですわ」

 そんな怒りを笑顔で隠し、マコトもユキも、トレイの上にオヒネリを受け取ってゆく。

 男性客たちの視線は、歩み寄る二人の美顔や双乳、裸の腰に集中をして、挨拶をしている間は全身をジロジロとイヤらしく眺め、席から離れると裸のヒップを奥まで観ようと凝視してくる。

「ちょっと待っててな。えーとぉ」

 客の中には、二人の裸を少しでも長く見ていようと、オヒネリを取り出すのにワザと時間をかける輩もいたり。

「それにしても、綺麗だねぇ。うひひ」

 更にタチが悪くなると、オヒネリを置くタイミングでお尻や乳房に、本人的にはさり気なく、しかし大胆にもハッキリと触れてくる中年もいた。

(痴漢男め)

 普段の二人なら、片手で捻って逮捕しているだろうし、そもそも痴漢なんて実行させる隙はない。

 タッチも、鷲掴みなどしようものなら有無を言わさずスタッフたちによって叩き出されてしまうので、指先でツンと突いたり指の腹でス…と撫でたり。

 その一瞬で柔らかい触れ方で、井用がイラっとして、肌がピクんっと反応をしたしまったり。

(マコト ガマンですわ)

 ユキは、男たちのタッチに軽く笑顔で目配せをして、諫めてみせる。

 こういう時の適応力の高さは、マコトでは遠く及ばない。

(つくづく、ユキってすごい)

 トレイの上にオヒネリを受け取りながら、客席を廻っていると、やはり、こういう客もいる。

「二人とも、本当にホワイト・フロールにそっくりだねぇ」

 バレはしないかと内心でドキドキしながら、やはりユキは、上手に対応をしてみせる。

「うふふぅ だってわたくしたちぃ、ダンスユニット名もぉ、ホワイト・フロールですものぉ」

 いつもの自然な敬語をワザとらしく雑に強調しながら、ニッコリと微笑む。

 ユキの返しに、問うた男は笑い出した。

「ハッハハハ! 随分と肝の座ったお嬢ちゃんたちだ! 気に入ったぞっ!」

 言いながら、更にオヒネリを上乗せしてくる。

「せいぜい、本物に見つかるまで頑張って欲しいモンだ。もし見つかったら、ステージの途中でも逃げる事だ」

「あありがとうございます」

 犯罪者の逃走指南に、内心で怒りを燃やしながら、塩対応な美顔を凛々しく引きつらせるマコトであった。

 他にも。

「しかし、お前さんたち よくやるねぇ。俺はあの二人を知ってるがよぉ、本物はもっと殺気だってて、恐ろしいやな」

「そうですか」

「っても、お前さんたちはよく似てるし。なあ、ちょっと二人とも、マコトユキって名乗ってみてくんねぇか?」

 正体に気づいた。

 と思って肝を冷やしたものの、まだ確信は得ていない。

 二人は大きく頷き合う芝居で目配せし合って、勉強したけど間違った、みたいな自己紹介をする。

「ち、地球連邦所属、特別捜査官のマコトです」

「同じく、特別捜査官のユキですわ」

 そして、男たちが一瞬、シンとなる。

(バレた…?)

 あんな適当な名乗りなのに。

 乱闘騒ぎになる覚悟をしたら。

「うおおおおっ! まるで本物みたいじゃねーかっ!」

「本当に、あの二人がヌードになってるみたいだぜっ!」

 裏社会に関わる男たちは、歓喜している。

 普段、上役や警察などに怯える生活をしているからか、恐ろしいホワイトフロールが裸でダンスを披露しているという幻想に、縋るような喜びを隠さなかった。

「ああもう! 俺っ、この二人がホワイト・フロールって事でいいやっ!」

「俺もだっ! あんたたちをホワイト・フロールって、素で呼んでいいかっ?」

「え、はい」

「嬉しいですわ」

 二人の了解に、客席の男たちは更に歓喜。

 偽物と理解させた事で、あえて本物として接する事で、客たちの信頼を勝ち得る。

(ラン捜査官の言ってた通りだね)

(本当ですわ)

 こうして二人は、ニセモノのヌードダンサー、ホワイト・フロールとして、男性客たちに受け入れられた。


 翌日からも、ヌードのステージへと上がる二人。

 ターゲットであるアルバートが来店して二人が目視をするまでは、ヌードダンサーとして潜入し続けなければならない。

「~~~っ!」

 毎日のステージで、見ず知らずの男性客たちに裸身を晒し、魅せ付けるように巨乳やお尻や裸腰をアピールし、最後は純潔の証まで自ら公開。

 二人のダンスは人気を集め、イヤらしい男性客が増えると同時に、ステージの順番も後ろへと順位が上がっていった。

 ステージが終わると、客席を廻ってオヒネリを受け取る。

「やっぱ、二人はその恰好が一番、似合ってるよな!」

「ありがとうございます」

 三日目あたりからラン捜査官の指示で、紐ボンテージを脱いだ、首輪と手枷足枷とピンヒールのみという、ほぼ全裸の姿で、二人は客席巡りをさせられていた。

 手枷と足枷が偽装された組み換えハンドガンである以上、装備しているに越した事はないので、それが不自然にならないよう、首輪も着けたままなのである。

「ホワイト・フロールのおっぱい、エロいなぁ」

「いやいや、この尻こそ至高だろっ!」

 裏社会の下っ端たちを相手に、裸身や秘処を公開させられているだけでなく、全裸のバストやヒップをさり気なく触られたり。

「! タッチは禁止です」

「うおおっ、ホワイト・フロールに痴漢して叱られたぁっ!」

 マコトとしては限界まで怒りを押さえて対応しているけれど、男性客たちは本当のホワイト・フロールに痴漢をして叱られているつもりである。

「くうぅっ、これが本物だったら死んでもいいいっ!」

(本物だけどね)

(マコト、ガマンですわ)

 本当に、ユキがいてくれて良かった。

 マコト一人だったら、潜入捜査初日の時点で、大乱闘になっていただろう。

 受け取るオヒネリも、日を追うごとに増えて行く。

 潜入捜査から一週間が過ぎた今日では、トレイ一つでは受け取れ切れず、フロントの青年が予備のトレイと交換する程である。

 二人の首に、紙幣で編んだレイがいくつも下げられたり、裸身の各所に付箋で紙幣が貼り付けられて、その際にお触りされたり。

「なんであんなに 触るかな」

 中性的な王子様を想わせるマコトが、美顔を美しく曇らせる。

「みなさん、マコトの綺麗な裸が 大好きなのですわ」

 無垢なお姫様を想わせるユキが、愛らしい媚顔で微笑んで応える。

「ユキ、ボク以上に 身体に貼られてるよ」

 そんな会話をしながら楽屋へ戻ると、二人へのオヒネリで、テーブルは溢れかえっていたり。

「なんだか、やましいお金な気がする」

 労いに来たラン捜査官に、訊ねてみた。

「こういうお金って、どうすれば良いですか?」

 裸で稼いだお金でもあり、素直に受け取る気がしない。

「貰っておきなさい♡ あなたたちへの評価とぉ、称賛である事はぁ、間違いないのだからねん♡」

 自分が面倒を見ているダンサーが大人気で嬉しい。

 という笑顔だ。

「どこか、募金を預かるような銀行などは ありませんでしょうか?」

 ユキの正しい判断に、しかしラン捜査官の答えは。

「そんな善良な人たちがぁ、この街にいると思うぅ?」

 ウインクで訊ね返されて、言葉もない二人だった。


 そして翌日、待ちに待った事態が起こった。


                       ~第十二話 終わり~

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