第十一話 ステージの裸身


 ヌードダンス劇場ドラッグ・ネイキッドが開店の時間を迎える午後五時を前に、今日のステージへ上がるダンサーたちが、入店をしてきた。

 初顔である二人が挨拶をすると、殆どのダンサーたちは、やはり同じことを言ってくる。

「アンタたち、なんかあのホワイト・フロールに似てるね」

「はい。ボクたち、ダンスユニット・ネームもホワイト・フロールなんです」

 と、ある意味で正直な返答をすると。

「あはは、それは大胆な名前を付けたね。アタシが今まで会ったニセモノの中でも、アンタたちはダントツに似てるよ。ま、本物に睨まれないよう 気を付ける事だね」

 と、笑っていた。

 ラン捜査官の言う通り、逆に誰も、本物だとは思っていない。

 もっとも二人が知らないだけで、二人の名前を名乗っているヌードダンサーたちは、裏社会にはチラホラいたりする。

 ただ本人たちの活躍のおかげもあり、やはりみんな、ニセモノだと知ってて楽しんでいたりする。

 これも、有名税みたいなものだと、先輩たちなら笑うだろう。

「なんか複雑だけどね」

「うふふ、こういう状況も 楽しめませんと」

 美しい王子様フェイスを憂鬱に美しく曇らせるボーイッシュ美少女捜査官に比して、愛らしいお姫様フェイスを楽しそうに輝かせる、ゆるふわ媚少女捜査官だ。

 二人とも既に肌の露出が過ぎるステージ衣装で、劇場の備品である大きなバスローブで身体を隠している。

 ダンサーたちとの会話で、さり気なく劇場について訊いてみたけれど、本当にステージの事しか知らないらしかった。

「やっぱり 裏取引に関わっているとすれば、スタッフとか支配人レベルの人たちだけだね」

「ですわね。つまり、Aがいつ来るかは 探りようが無い。という事ですわ」

 舞台袖で、小声で現状を確認し合っていると、緞帳の向こうから賑わいの空気が感じられる。

「開演時間、近いね」

 これからマコトとユキは、ステージに上がって、男性客たちへとヌードダンスを披露しなければならない。

 恥ずかしいし逃げたいけれど、これも全て、アルバートを捕まえる為にガマンしなければならない、潜入捜査だ。

「マコト、笑顔ですわ」

 こういう時のユキは、すぐに肝が据わる。

「ユキ、つくづく偉いね」

 幼馴染みの褒め言葉に、ユキは頬を染めて笑顔を輝かせた。

 開演の時間がやって来て、ステージ後ろの生演奏が始まる。

「いよいよだね!」

「ええ!」

 息を飲む二人に、ステージを任されているラン捜査官が、励ましに来た。

「二人ともぉ、練習通りで行けるからねぇん♡ お客さんの男性たちを全員ん、あなたたちの虜にしてやりなさぁい♡」

「「はい!」」

 アドバイスを決意に、マコトとユキはバスローブを脱いで、女性の部分を隠さない紐ボンテージ姿になる。

 舞台の中央には、金色に輝くポールが、淫靡な空気と艶を醸し出していた。

 ステージに上がって、ポールを挟む背中合わせで、ピシっと綺麗にスタートのポーズを取る。

 二人の曲の演奏が始まって、静かに緞帳が上げられた。

 フロアには、男性客たちが満席状態で、しかし客たちの顔は暗くて見えない。

 ダンサーたちの話では、二人のデビューは早々に、常連客たちなどへ宣伝されているらしい。

 それを楽しみに、仲間を誘って足を運んだ客も、二人の予想以上にいるのだろう。

(けっこう、いるね)

(みなさん マコトの素肌に興味津々ですわ♪)

 背筋を伸ばした姿勢で、乳房もお尻も腰も露わな姿を、男性客たちに見られている。

 なのに軽口を叩けるユキの度胸は、マコトからすれば凄すぎる。

 スポットライトで二人の顔が照らされると、男性客たちの視線が、顔や乳房やお尻や股間部分に、ぎゅうっと集中してきた。

(…っ!)

 男性客たちの視線が突き刺さってきて、羞恥心が容赦なく、刺激をされてしまう。

(み、見てるし)

(マコト、綺麗ですわ)

 緞帳が上がりきると、ラン捜査官のMCがフロアに響く。

『今宵のファースト・ステージは~、なんとぉ、新人ダンサーのバージン・ステージでぇす♡ ヌードダンスユニット「ホワイト・フロール」の初舞台ぃ、存分にお楽しみくださいぃ♡』

 二人の美顔が、ライトに照らされた。

「「「「「!」」」」」

 ユニット名のみでの前宣伝からの予想よりも、はるかに美しい二人組に、男性客たちの間で一瞬、緊張が走る。

 嬉しい喜び、だけではない。

 この店の客層が、叩けば大なり小なり埃の出る裏社会の男たち、という証左でもあった。

 男たちの目で二人の全てがジっと注視され、そしてすぐに、言われて見れば似ているステージの二人は、なるほど強気なユニットネームだと納得をして、空気が安堵した。

「しかし、選りにも選って ホワイトフロールを名乗るとは」

「確かに似ているが、本物はもっと、恐っそろしいぞ!」

「ワシも見た事あるがな、ありゃあホレ、もう本物のウォーリアーだっだぞい!」

 などと、安心したからか、みんな好き勝手な噂話を囁いている。

(誰がウォーリアーさ)

(ですが、本当にバレてませんわ)

 相変わらずな悪党たちの評判にムカムカしながら、二人のヌードダンスが始まった。

 スポットライトの下、紐ボンテージなマコトが、捕らえたユキの首輪を引いて、足下に跪かせる。

 肘を突いて裸尻を突き出すユキは、弱々しくマコトを見上げて、白いウサ耳を屈服でペコんと垂れさせる。

(…っ!)

 幼馴染みの、こんな被虐的な表情を、マコトは初めて見た。

 弱々しくて愛らしくて、庇護欲を強く刺激される。

 なのに、もっと責めて恥ずかしくさせて、自分だけのモノにしてしまいたくも、なってしまう。

 マコトのネコ尻尾が、興奮とドキドキでピンと立った。

(………)

 首輪を引かれるユキも、自分を支配して見下ろすマコトに、モジモジとドキドキが高まってしまう。

 このままマコトに支配されるなら、きっと抵抗できずに受け入れてしまう。

 そんな危うい感情が、愛らしい眼差しを更に、魅惑的な涙で濡らす。

(い (今はダンスに集中…!)ですわ…!)

 二人は、初めて知る自分の感情を押さえつつ、捜査官としての使命を強く意識した。

 女体を魅惑的にくねらせて、巨乳を弾ませてアピールし、裸尻を振って魅せ付けて、秘さない裸腰を突き出してグラインド。

(…!)

 照らされる美顔や閉じられた秘処に突き刺さる男性客たちの視線が恥ずかしい、というだけではない。

 二人が全裸のダンスを公開させられている相手は、みな脛に傷持つ不遜な裏社会の男たちである。

 人々の平和を護る捜査官にとって敵でしかないうえ、しかも大物とは程遠い下っ端レベルの悪党たちだ。

 そんな小悪党たちを相手に、本当のユニットネームを名乗るニセモノとして、身体の全てを晒して下衆に楽しませている。

 ステージと客席のホール空間の中にあって、スタッフも男性客たちもみな当たり前に着衣をしていて、自分たちだけが女性の全てを晒す恥ずかしい姿。

 恥辱すぎる状態なのに、ナゼか身体が熱くなってしまう事にも、頭にきたり。

(いまに 全員、捕まえてやるから…!)

 強すぎる羞恥のヌードダンスの中で、二人はお互いへのドキドキと、犯罪者へのヌードサービスという屈辱と、捜査官としての忍耐との、三つ巴の戦いを、心の中で強いられていた。

 演目が進み、ウサギゆりエットを捕らえたネコゆりオが、仰向けに転がした恋人と身体を重ねる。

 ラン捜査官のダンスレッスン通り、二人の巨乳がむにゆり、と重ねられて柔らかく変形をさせて、男性たちへとアピール。

「「ん…っ!」」

 小さな桃色の先端同士が重ねられて、触れ合い擦れ合い、細い背中がゾクんっと甘く痺れたり。

「マコ…ト…」

 冷静なユキが、思わずステージ上で、使命を忘れかけたらしい。

「うん…落ち着いて」

 アドリブで、キス寸前にまで唇を近づけて、小声でパートナーを励ます。

「はい…」

 マコトの言葉で意志を強くしたユキの眼差しは、しかし誘うように濡れていた。

 演目のラストで、二人はゆっくりと立ち上がる。

 女体同士と唇をギリギリまで重ねるゆりオとゆりエットは、お互いのゆり心の重ね愛を観客たちへと伝える演出で、ポールを挟んだ背中合わせのまま、客席側の脚を横へと大きく、更に頭上まで開く。

 裸の少女腰を限界まで魅せ付けながら、背中を反らせて天を仰ぎつつ更に自らの指で、閉じられた柔肉を左右に開き、愛の頂点である「ゆり死」を表現。

((…っ!))

 自分でも驚く程に、熱く柔らかい媚肉が左右に開かれると、鮮やかに艶めく桃色の秘密部分が、男性客たちへと晒された。

「「「「「!!」」」」」

 開かれた粘膜の前から後ろまでの全てを隠す事なく公開し、更に純潔の証まで、正面下側のライトを浴びて、晒される。

 客席の各所で大きく展開している立体映像では、綺麗で無垢な処女秘処が、超アップでの拡大映写。

 本来であれば、ホワイト・フロールに会う事もないレベルの下っ端な悪党たちに、マコトとユキは乙女の証までの全てを、自ら公開させられていた。

 二人の純潔の証に、男たちの視線が遠慮なく注がれて、息が熱くなるのがわかる。

 ラン捜査官の言っていた「ヴァージンに価値のある世界」とは、こういう事だったのだと、二人はしたくもない納得が出来てしまった。

 数秒の恥処公開で演目が終えられると、スポットライトが細くなって照明が落とされ、ステージが終了。

 客席からは、二人のダンスやヌードを称える男性客たちの拍手が、盛大に湧き上がった。

 ステージから降りる際、恥ずかしさで小さく震えてしまう二人。

「はぁ…恥ずかしかった」

「ですわね…うふふ」

 そんな二人を、金髪美女が絶賛の笑顔で抱きしめる。

「二人ともぉっ、ダンスもヌードも最高よんっ♡ 特に恥ずかしそうな表情なんてぇっ、本当に宝石だわぁっ♡ 正直ぃっ、ここまでの原石だなんてぇっ、想像も出来なかったわぁ♪」

「いえ その」

 恥ずかしい表情は演技ではない。

「さ、それじゃあぁ、早く早くぅっ♪」

「「?」」

 下っ端相手の恥辱のヌード公開は、まだ終わっていなかった。


                       ~第十一話 終わり~

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