第九話 採用試験
案内されたダンサー用の楽屋は、二階フロアの奥に、意外と広く用意されていた。
広い物置きを改修した部屋のようで、窓は小さく鏡は大きく、シャワースペースもユニットで増設された造り。
ダンサーたちの荷物が部屋の隅々で適当に纏められていて、カーテンの向こうの収納スペースには洗濯済みな下着なども、吊り下げられていた。
ステージ衣装も下げられていて、みな露出の高い衣装だから女性用かと思ったら、男性用の衣装も見られる。
「ヌードダンサーって、男性もいるんだね」
「ああ、それはそうなのでしょうね。観客には きっと女性もいらっしゃる、という事なのでしょう」
当たり前だけど、そういう知識に乏しい年頃な二人からすれば、男性のヌードダンスを観に来る女性というものが、あまり明確に想像できない。
さりげなく室内を見廻しても、隠しカメラらしき機器は見当たらず、ユキが自作のセンサーで探っても、やはり反応はなかった。
「意外だね。いかにも 覗き魔が好きそうな場所だと思うけど」
「ですわ」
などと話をしていたら。
「女性のヌードダンスでぇ、お客を楽しませる劇場だからねぇ♡ お金を払わない覗き魔を許していたらぁ、ナメられてぇ、商売にならないのよん♡」
そう教えてくれたのは、劇場入りをしたラン捜査官だ。
昨日のモーテルよりも少し肌を隠したワンピース姿で、しかし派手なアクセサリーが眩しい。
「ランそっ–こほん…ラン、どうも」
顔見知り、という感じの芝居で、挨拶をする。
「よく来たわねぇ♡ もうすぐぅ、支配人が到着するだろうからぁ、私が話を通してぇ、すぐに試験が始まるってぇ、考えててねん♡」
「「はい」」
「それじゃあ、ま・た・ね♡」
そう言いながらウインクをくれると、大きなアクセサリーをチャラチャラ言わせつつ、事務所へと向かった。
二人が楽屋で、荷物下ろして全身を柔らかく伸ばしていると、ラン捜査官が呼びに来た。
「支配人がぁ、いらしたわぁ♪ 二人とも♡」
「「はいっ!」」
ラン捜査官の後ろについて、ステージへと向かうマコトとユキ。
これからが、潜入捜査の入り口と言える。
(かにかく、まずはダンスで認められないとね…!)
(私とマコトでしたら、大丈夫ですわ…!)
と小声で微笑むユキだけど、声には緊張が隠れている。
一階に下りてきて、舞台袖から上がったステージは、ウエノシティーのストリップ劇場よりも倍以上に大きくて、天井やステージ袖の照明器具も、より多種で本格的だ。
ステージはフロアより一メートル程の高さで、フロアは壁際などがボックス席で占められていて、客席の大半は複数人で座れる自由なテーブル席が、十セット以上も設置されていた。
営業の準備で、色々な惑星系の男性従業員たちがテーブルや床の掃除をしていて、ステージ目の前のテーブル席に、支配人と解る男性が座り、何やら書類に目を通している。
痩せた大柄な支配人は、名前に違わず鋭く尖った髭を左右にビシっと伸ばしていた。
ワンピースの金髪美女が、髭の支配人へと、艶を魅せる歩みで近づいてゆく。
「支配人ん♪ さっきお話したぁ、二人ですぅ♡」
「ふむ…」
支配人は、椅子に腰かけたまま若い二人へ視線を寄越すと、ガードマンのチンピラとは全く違う品定めの視線で、マコトとユキの全身を、上下何度も舐め回して観察。
「…なるほど。キミたち、名前は?」
「マコです」
「ユキです」
応えながら。マコトはチューインガムをぷぅ…と膨らませて見せた。
「…ふふん」
ランの情報通りというか、マコトのガム風船に、カイゼルはニヤと下卑た笑みだ。
「ランくん」
支配人の指示を受けた金髪美女が、二人に声を掛ける。
「それじゃあ、マコとユキぃ♡ 音楽ぅ、かけるわよん♪」
二人は無言で、ポーズを取った。
「スタートぉ♪」
ラン捜査官の合図で、ラン捜査官が手にしているミュージックポットから、ノリの良いハードな音楽が流れる。
ポットのスピーカーから流れる大音量のリズムに合わせて、マコトとユキは、身体を躍らせた。
激しく全身を動かして、指先まで神経を集中させて、一つ一つの躍動を綺麗に決める。
ヌードダンスのステージだから、巨乳や巨尻を見せ付けるように、しかし下品にはならないように、アピール。
「は…は…」
「ふ…ふ…」
約十分のダンステストを、二人は殆ど息を乱さず、最後まで綺麗なパフォーマンスを見せ続けた。
「ストップ。解った」
音楽を止めさせた支配人は、立ち上がってステージへと上がってくると、軽く息を弾ませる二人を、あらためて見下ろす。
痩身の支配人は、二人よりも頭一つ分以上も、背が高かった。
「二人とも、脱ぎなさい」
「は…え…っ?」
今この場で、裸になれと言っている。
ステージの周りには、複数の男性スタッフたち。
二人のダンスに見惚れていたスタッフもいるのに、支配人の声で、フロアのみんなが注目していた。
(こんな ところで 脱ぐの…?)
恥ずかしいけれど、もし失格になってしまったら、アルバートの逮捕どころではなくなってしまう。
「「…!」」
二人は目配せで決意を確かめ合うと、男性スタッフたちが注目するステージの上で、脱衣を始めた。
「………」
マコトのシャツが解かれ、ユキのミニスカートが下ろされる。
下着姿となった二人は、更に脱衣を進めて行った。
ユキのブラが外されて、大きな白い双乳が露わにされる。
マコトのショーツがステージに落とされて、丸い巨尻が晒される。
「………っ!」
全裸になった恥ずかしさと心許なさで、思わず裸身を両腕で隠してしまう。
「ここはヌードのステージだ。身体は隠さない!」
支配人の命令口用で言われ、二人は気を付けの姿勢をとらされた。
(が、がまん…!)
男性スタッフたちの遠慮ない視線が、羞恥に染まる美顔や白い巨乳やその桃色な先端、大きなお尻や艶めく前側などへと、遠慮なく突き刺さってくる。
マコトの中性的な王子様フェイスが羞恥で上気し、ユキの愛らしいお姫様な愛顔が恥ずかしさで朱く染まる。
ネコ耳やウサ耳がピクっと震え、尻尾も恥ずかし気に震えていた。
支配人は、二人の周りを歩いて全身を観察すると、納得をした様子。
「いいだろう。申し分ないな」
ダンサーとしてはギリギリ合格だけど、スタイルなどは特級。
という意味だと、後にラン捜査官から聞かされた。
「ランくん。二人についてはキミに任せる。ステージは今夜の最初だ」
「はぁい♡ それじゃあぁ、二人ともぉ、ついていらっしゃあい♪」
「「はい」」
「それでは よろしくお願いいたします」
恥ずかしさと悔しさで挨拶を忘れてしまったマコトに比して、ユキはそれらを隠した笑顔で挨拶をして、追い打ちアピール。
マコトも気付いて、頭を下げた。
「うむ」
それなりに挨拶が出来るウサ耳少女と、ガムを噛んだまま舞台に上がったガサツなネコ耳少女。
全裸のまま衣類を拾って、舞台から速足で楽屋へと向かう二人を、支配人はかなりの掘り出し物だと、ニヤついた。
楽屋へと向かいながら、ラン捜査官が二人に話す。
「合格ぅ、おめでとう♡ 支配人の言った通りぃ、今夜から早速ぅ、ステージに上がって貰うわよぉ♡」
「「はい」」
「それとぉ、昨日は訊きそびれちゃったけれどぉ、二人ともぉ、ヴァージンん?」
「「はい」」
ドクター・チューブによる恥ずかしい性感体験はあるものの、ロストヴァージンはされていない。
「それはぁ、良かったわぁ♡」
楽しそうに話すラン捜査官へと、マコトは素直に疑問をぶつける。
「ヴァージンが 何か影響、あるんですか?」
乙女の質問に、金髪美女がウィンクをしながら応える。
「そういう事にもぉ、価値を見出す現場もぉ、あるのよん♡」
もしかして、ベッドの上で男性の相手をさせられるのだろうか。
と、二人の当然な不安視を、ラン捜査官は見抜いて笑う。
「大丈夫ぅ♡ 男性のお客をぉ、取らせるような事にはぁ、な・ら・な・い・か・らぁ♡ たぶんね♪」
「「多分…」ですの…」
ラン捜査官の余裕なイタズラウィンクが、少し恨めしい気持ちの二人だった。
~第九話 終わり~
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