第八話 潜入行程
二人はそのまま、潜入捜査官であるランの部屋へと、案内される。
「適当に 座ってぇ♡」
キッチンでドリンクを用意しながら、金髪美女がセクシーな感じで促した。
ランの部屋は、造りこそ二人の部屋と同じだけど、旅行客にはない生活感がある。
潜入捜査官として、このホテルで生活をしているコールガールを装っているのだろう。
さっきまで男性を相手にしていたためか、窓を開けて換気されているけれど、肌を交えた熱気と空気が残っていた。
「潜入捜査って、大変なんだね」
「私たちには想像もできない苦労も、多そうですわ」
「それはぁ、私たちにとってもぉ、同じよん♡」
三人分の冷たいドリンクを用意してくれたラン捜査官が、官能的に微笑みながら、テーブルに腰かける。
三人で向き合って座ると、ラン捜査官はアイスティーを戴きつつ、笑って話す。
「二人から見ればぁ、コールガールのマネまでさせられてってぇ、思うでしょうけれどぉ、私ねぇ、こういうのがぁ、好きなのよねぇん♡」
と言いながら、少し照れくさそうにウィンクをくれる。
「逆にぃ、あなたたちみたいなぁ、最前線でぇ、犯罪者と撃ち合うとかぁ、私には怖くてぇ、とうてい出来ない仕事だわぁん♡」
と、苦笑いも官能的な潜入捜査官である。
「そ、そうですか」
適材適所なら、特に遠慮とかする必要もないのだろう。
「それで、今回の事案なのですが…」
ユキが仕事の話を始めると、ラン捜査官も真面目な表情になる。
「ターゲット『A』はぁ、近々にこのステーションにやってくる事はぁ、間違いないわぁ。ドラッグ・ネイキッドでぇ、裏の取引があるのはぁ、確実な情報だからねぇん♡」
ダーゲットAとはもちろん、アルバートの事だ。
ついでに、真面目でもセクシーボイスな金髪捜査官だ。
「それが いつなのかは、解らない。という事ですよね」
「ええ。残念だけどぉ、私たちもそこまではぁ、掴めてないのよねぇん」
それでも、近々にここで取引がある事だけは、確実なのだ。
「ですから、ボクたちがダンサーとして潜入をして、Aが来るのを待つ。という作戦ですよね」
「その通りだけどぉ…噂のホワイト・フロールが本当に来るなんてぇ、ついさっきまでぇ、信じ難かったのよねぇん♡ だってぇ、ヌード・ダ・ン・サー、ですものねん♡」
専門でもない二人が裸になるなんて大変ね。
という労いセクシーな表情だ。
「お恥ずかしいお話なのですが…私たちは一度、Aを、目の前で撮り逃してしまいました」
ユキの告白に、ラン捜査官は納得をした様子だ。
「あぁ…。それは確かにぃ、一肌脱いででもぉ…。と、思うわよねぇ♡」
ラン捜査官によると、この一帯を仕切っているのはドラッグ・ネイキッドのオーナーの老人で、Aとはそれなりの繋がりはあるらしい。
正体を隠して潜入しているラン捜査官も、オーナーの許可を得て、コールガールをしているのだとか。
「私はぁ、劇場に所属している女性ダンサーたちのぉ、相談役もぉ、以来されてるのよん♡ だからぁ、あなたたちが潜入の為にぃ、ダンサーとして劇場に来る時にはぁ、私の後押しも重要視されるのねぇ♡ もちろん~、最終的な決定権はぁ、劇場を任されている支配人にぃ、あるけどねぇ♡」
劇場の支配人は、ヒゲー・カイゼルという、初老の男性らしい。
「つまり、ラン捜査官とヒゲー支配人に認められれば、潜入ダンサーとしてステージへ上がれる。という事ですね」
「そう♡ でもマコトぉ、ラン捜査官はぁ、いけないわぁ♡」
咄嗟の時に、そう呼んでしまいかねない。
「私の事はぁ、ランって呼んでぇ♡ あなたたちぃ、お名前はぁ?」
偽名についての話だ。
「ボクはマコ、ユキはユキで 行こうと思ってます」
「おっけぃ♡ 劇場はぁ、月曜日が定休日でぇ、営業時間はぁ、午後八時から明け方四時までぇ♡ 一日にぃ、だいたい七組のダンサーがステージに上がってぇ、ヌードダンスを披露するわん♡」
「「はい」」
つまり二人は、一日一回のステージで、客たちにヌードダンスを披露する事になる。
「一回のパフォーマンスは三十分くらいだからぁ、生演奏との交代制でもあるのねん♡ その外にもぉ、細かい事はあるけれどぉ…まぁ、まずは採用試験にぃ、合格してからの話ねぇ♡」
「「はい!」」
ダンスに関しては、多少なりとも自信があるマコトとユキ。
「あらん、良い返事じゃないの♡ でもぉ、あなたたちみたいな若くて美人な女の子がぁ、ステージで脱いだらぁ、男性客たちは大盛り上がりだわぁ♡」
と言いつつ、ラン捜査官自身も、女性のヌードダンスが嫌いな様子はない。
「明日ぁ…そぅねぇ♡ お昼過ぎくらいにぃ、劇場の裏口にぃ、いらっしゃい♡ ガードマンが一人立っているからぁ、彼に話せばぁ、劇場に入れて貰えるわ♡ 紹介者とか聞かれたらぁ、私と友達になったとか言えばぁ、通して貰えるしぃ、モメそうだったらぁ、大声で私の名前を呼んでくれてもぉ、大丈夫よん♡」
「「はい」」
ラン捜査官は、支配人やオーナーの信頼をかなり得ている。という事実だ。
心強い味方である。
「あぁ、あともう一つぅ、マコト♡」
「はい」
何か不味いところがあるのだろうか。と、ネコ尻尾をピクんとさせつつ身構えたら。
「劇場に来る時にはぁ、チューインガムをぉ、噛んできてねん♡」
「ガム ですか?」
「あなたのスタイルも服装もぉ、カイゼルの好みとかなり違うの♡ だからこそぉ、カイゼルのツボな『人前でも平気でガムを噛んでいるだらしない女』の方がぁ、騙しやすいのよん♡」
そう言いながら、ラン捜査官はセクシーなウインクをくれた。
翌日。
並んだベッドで裸のまま目を覚ましたマコトとユキは、シャワーで汗を流して、朝食を調達しに街へ出た。
昨日とは違うファストフード店で、昨日とは違うバンハルト・バーガーを戴く。
「昨日のお店の方が 美味しかったね」
「ですわね。このようなメニューにも、お店ごとの特色が 現れるものですのね」
食事を終えると、雑貨ストアーで適当な雑誌やドリンクを選択し、ラン捜査官にアドバイスをされたチューインガムを購入。
「こういうの、ボクは食べないからねぇ」
何種類かのガムの中から、色味的に抵抗感の少ない、薄緑色のガムを選択。
陽の射さないビルの間の、空き地のまま放置した感じの広場らしき場所で、ガムを開けてみる。
派手なパッケージの筒状ケースを振ると、小指の第一関節ほどのサイズな球体が、コロんと出て来た。
「意外と小さいんだね」
言いながら、一粒食べると、ガムは口の中で倍くらいの大きさになった。
「んむ…口の中で おっきくなった」
「あら、 マコトったら なんだかHな感じですわ」
「へ、ひょう?」
ミント味のガムが大きくて、上手くしゃべれないのも、ユキには可笑しいらしい。
美しい王子様なフェイスを口一杯のガムで困惑させているマコトを、無垢なお姫様フェイスのユキが、輝くような笑みで見守っていた。
お昼になって、二人は念のためにともう一度、モーテルのシャワーで裸身を流し、潜入目的であるヌードダンス劇場、ドラッグ・ネイキッドへと向かった。
マコトはガムを噛みながら、裏通りを確かめる。
「いた」
ラン捜査官の話どおり、劇場の裏口には、いかにもチンピラ風な痩せ男が一人、ダラダラと警備をしていた。
「あの見張り役に、話を通すのですわね」
「うん。それじゃあ、ユキ いい?」
「ええ。行きましょう、マコト」
これから、上手くゆけばステージ上で、裏社会の男たちにヌードダンスを披露するのだ。
緊張を隠しながら、二人は痩せ男へと近づいてゆく。
「んん? なんだお前ら」
男はダラダラしていながらも、鋭い眼差しを二人に向けた。
頭から爪先まで、淫らな基準で値踏みしているのが、ハッキリと伝わってくる。
「ダンサー募集してるって、聞いたんだけど」
「お前らがか? んー…?」
ヌードダンサー志望だと聞いて、大胆姿な二人の裸でも想像しているのだろう。
痩せ男の視線が、ハッキリとイヤらしく熱を上げてゆく。
念のため「ランとは昨日、モーテルで知り合った」という、半分は事実である設定も、考えてある。
痩せ男は、二人のボディーラインに興味を惹かれているらしい。
「まずは、ボディーチェックだ。いいな?」
「ええ、お好きなだけ」
ユキが了解をすると、両腕を上げた二人の身体に、痩せ男が両掌を伸ばしてくる。
衣服の上から、マコトのバストが撫でられ、ユキのお尻が撫で廻されて、内腿にまで指を這わされる。
イヤらしい男の優しい指ざわりで、肌がピクっとしながらも背筋がゾっとして、怒りがゴォって湧いて来る。
(こいつ!)
暫しの痴漢行為を許すと、更に二人のポーチの中身もチェックをされて、痩せ男がニヤニヤとイヤらしく、納得をしてくれた。
「武器は隠してねーな。OKだ。支配人はあと三十分くらいで来るから、大人しく楽屋で待ってな。ランって女がいるから、色々と聞いとけ」
痴漢行為のしつこさはともかく、性格的には真面目な男だ。
「ありがと」
「では」
笑顔で返しながら、しかし痴漢をされた二人の心は、怒りで燃え盛っていた。
~第八話 終わり~
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