第七話 現地捜査官との接触
まずは潜入目的地であるダンスバー「ドラッグ・ネイキッド」へと向かう。
モーテルから少し離れたダンスバーは、宿泊施設よりも更に裏通りな感じの煤けた薄暗い路地で、堂々と派手な看板を掲げていた。
上品ではないカラーのデシダル看板を見上げながら、今の時間は閉ざされている正面入り口を見る。
「本日休業…だってさ」
「月曜日はお休み という事でしょうか」
さり気なくバーの裏などを探ってみるものの、人影は無し。
「本当に休みなんだね」
「致し方ありませんわ。今日は大人しく ホテルに泊まるとして…ね、マコト」
お姫様のような愛顔が、ワクワクでキラキラと輝いている。
「OK、街の調査は、しておかなきゃね」
「ですわ♡」
街を散策したいというユキのオネダリを、マコトは中性的な王子様フェイスを美しく微笑ませながら、了承をした。
繁華街の中でも裏通りといった雰囲気の街は、遊び目的な若い男女もチラホラ見えて、少なくともマコトたちの知り合いにはいない遊び好きなタイプだと、大胆な服装でもよく解る。
「みんな、こういう場所が好きっぽい感じだね」
「犯罪に巻き込まれさえしなければ、個人の自由ですわ」
小さなお店が並んだ通りでは、バンハルト名物らしいジャンクフードが目に付く。
「戴きましょう」
「そうだね」
作る事と食べる事が好きなマコトは、食べる事が好きなユキに促されて、名物らしいバンハルト・バーガーを、屋台で注文。
出て来た食べ物は、旧世紀の地球で発明された、熱々ハンバーガーだった。
肉らしき物体が緑色で、野菜らしき物体はショッキングピンクで、とても食欲が減退させられる彩り。
「うわ 本気、だよね」
「戴きますわ…ぱく」
大体に於いて、マコトよりもユキの方が、躊躇いが無い。
「どう?」
小さな一口をモグモグさせているユキの姿は、ウサ耳と相まって、本当にウサギのような愛らしさだ。
感想を問うパートナーに、ウサ耳少女は、イタズラっぽく微笑んで解答。
「うふ 召し上がれ♡」
「う…ユキのイジワル」
言いながら、香りはキツいけどなんだか香ばしいハンバーガーを、マコトも思い切ってパクっと一口。
「んん…ん? あれ、意外と…」
キツめな香りと濃い味付けだけど、パンチの効いた見た目に反して、味はなかなか濃厚で繊細な感じ。
「このナゾのお肉も美味しいし、野菜もシャキシャキしてて香りもうるさくない…。パンも表面がカリっとしてて 中がフワフワで、ちょっと凄いかも」
見た目はキビしいハンバーガーなのに、お肉の香ばしさと野菜の香り、全ての歯応えが上級な感触。
なぜこれが、ジャンクフードとして成立しているのか。
「なんか、すごくショックな感じ」
「ですわ♡ ちょっと、クセになりそうな感じですわ」
美しい王子様と愛らしいお姫様が、高貴に輝くその雰囲気とは真逆とも言えるジャンクフードを、美味しそうに頬張っている。
二人の姿は、大胆なヘソ出しファッションと相まって、どこか淫靡で背徳的な光景にすら、感じさせた。
通り過ぎるカップルの男が二人を見て、思わず二度見してしまう程である。
サングラスを掛けていてもこの調子だから、銀河に名を知られる二人ならなおさら、素顔だったら一瞬で顔バレしていただろう。
その後も、街を散策していると性的な裏稼業の様々なスカウトたちが、どこへ行っても二人に言い寄ってくる。
二人が無碍に冷たい視線で断ると、胸の谷間や、ジーンズやミニスカートのお尻ポケットへと、遠慮なくデジタル名刺を差し込んできた。
スカウトたちは、ただ差し込んでいるだけでなく、さり気なく二人の身体に触っている事も、もちろん解っている。
「まったく。潜入捜査でなければ みんな痴漢で逮捕してるのに」
「それだけ マコトが魅力的なのですわ」
イタズラっぽく微笑むユキに、マコトも反論。
「ユキだって 触られてるでしょ」
「ええ。ですので みなさんのお顔を覚えて、後で纏めて逮捕して差し上げますわ」
こういう時のユキは、結構本気だ。
暫く街の様子を見て、意外に広くて長い中央車道の大通りや、どこにどんなお店があるのかを、頭に叩き込む。
「やっぱりステーションの中だから、惑星上ほど広い街では ないね」
「おかげで、万が一のアルバートの逃走経路も 想像できますわ」
モーテルへ帰ってくると、隣の部屋から、大柄な男性が出て来た。
「………」
思わず目が合うと、ややイカツい男性は悪びれる風もなく二人を値踏みして、勝手につけたイヤらしい値段を勝手に納得して、ニヤニヤしている。
(まったく)
マコトが呆れていると、同じ部屋の宿泊客らしい女性が、男性を見送りに出て来た。
「楽しかったわぁ。またねぇ♡」
「ああ、また指名するよ」
案の定、この女性はモーテルの部屋で売春をしていて、イカつい男性は客だろう。
男性客が階段で帰って行くと、女性はマコトたちに気づいて、軽く手を振る。
「ハァイ♡」
長い金髪をサラりと流す女性は、二人よりも年上に見えた。
美しい面立ちは、古い童話などに出てくるエルフを連想させる。
豊かでしなやかな肢体を露出過多な上下で纏めていて、いかにもそういう目的でモーテルを利用していると、一目で想像できた。
「「どうも」」
二人がそつの無い返事をすると、金髪女性は何かに気づいて。
「お二人ともぉ、素敵な遊園地をぉ、お探しかしらぁ?」
「「!」」
ハっとなって、マコトが返す。
「いいえ、有名なお花屋さんがあると聞いて」
マコトの返答に、金髪女性は納得をして、やや小さな声で、右手を差し出してきた。
「初めましてぇ、お二人さぁん。私はぁ、地球連邦政府ぅ、対外特別捜査本部ぅ、第二特別捜査課のぉ、捜査官ん、バンブル・ランブル・ランボル・コンドメ・ハングルー ですわん♡」
言葉に続いて、爆乳の谷間に隠していた捜査官の身分証を見せてくれる。
挨拶を返しながら、二人も身分証を呈示。
「は、初めまして。特殊捜査官の、ハマコトギク・サカドキと」
「同じく、ユキヤナギ・ミドリカワ・ライゼンですわ」
美しいコールガールが潜入捜査官である驚きと、挨拶の語尾と、名前の複雑さに、マコトは思わず言葉が詰まっていた。
~第七話 終わり~
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