第四話 ゲンジュリ・ストーリィ
翌日とその翌日。
二人はアンナマリーの選んだ曲で、ストリップの振り付けを叩き込まれた。
「マコトっ、そこはもっと力強くっ!」
とか。
「ユキっ、指先での小さな演技を意識してっ!」
など、鬼コーチの名前を納得させられる程、二人は朝から晩まで、ダンスの特訓を受けさせられる。
「演目の『ゲンジュリ・ストーリィ』は、あなたたちの為の演目なのよっ! あなたたちが完璧に演じられなければ、この演目そのものが死んでしまうのよっ!」
「「はいっ!」」
初日の穏やかさが幻だったのでは、と思われる程の、キビしい指導。
ちなみに演目は、太古のニッポンの古典「源氏物語」のゆりアレンジで、マコトは光源氏を、ユキはゆうぎりを演じている。
光ゆり源氏との愛に身を焦がす、ゆりゆうぎり。
という内容らしく、オリジナルの要素はもはや名前だけと言えた。
二人は太古の和装をアレンジした衣装で演目を開始して、二人の愛情が高まるにつれて脱衣をしてゆき、最後は全裸で疑似ゆりプレイっぽい感じで終了をする。
二日間のレッスンは、一日目は基本的な流れなどを徹底的に覚えさせられ、二日目は更に細かい調整と、舞台の閉幕後に実戦。
照明などを設定しながら、スタッフのみでの無観客とはいえ二人は初めて、ストリップの舞台で脱衣ダンスを披露した。
「OKOKっ! これならドコに出しても恥ずかしくない出来よっ! あなたたちっ、なんて才能なのかしらっ!」
「本当ですよっ、アンナマリー女史! こんな逸材、いったいどこで見つけて来たんですかっ?」
「肌もスタイルもダンスもっ、まるで全てがっ、ストリッパーになる為に生まれて来たような二人ですよっ!」
「ど、どうも」
「うふふ」
通しでのヌードダンスを、スタッフたちからも称賛されて、恥ずかしさが勝るマコトと、嬉しさが勝るユキであった。
そんな感じで三日間の訓練が終了をして、翌朝の四日目にはジャン捜査官が迎えに来て、訓練は終了。
と思っていたら、四日目の早朝。
「今日はこれから、あなたたちの本当の舞台よっ! 早くシャワーを浴びて、衣装に着替えてっ!」
「ぇえっ!?」
これから二人は、お客さんの入ったストリップの舞台へと上がるように、命じられた。
「あのでも…訓練は昨日でお終いなのでは…?」
と、鬼コーチへ恐る恐る尋ねたら。
「何を腑抜けたこと言ってるのっ! 訓練とはいえ、ダンサーは初舞台を踏んで初めてレッスン終了なのよ! さ、早く早くっ!」
「わ、私たちが、舞台へ…ですの」
これからストリップをしなければならないという事態に、流石のユキも、多少とはいえ戸惑っている。
鬼コーチに急かされるまま、シャワーで全身を流して衣装を纏った二人は、本日最初のステージへ上がるために、舞台袖へと連れられる。
緞帳の端を少し捲って客席を見たら、朝の九時だというのに、色々な宇宙種族の男性のお客さんで、ごった返していた。
あの男性たちの前で裸になるのかと思うと、恥ずかし過ぎて、今すぐにでも逃げ出したい気分である。
「あ、あの、本当に ステージへ…?」
「当たり前でしょう! 私もあなたたちも、本気でレッスンしていたのでしょう?」
言葉の強いアンナマリーの目は、いつにも増して真剣だ。
「私は捜査機関に協力しているだけだし、あなたたちがヌードダンスの訓練を受けた目的とかは関知しないわ。でも、ステージに上がる必要が無いなら、訓練だって必要ない筈でしょう?」
その通りだ。
「あなたたちが折角、身に着けたスキルなんだし、本番で失敗なんてしたくないでしょう? だから、一度はステージを体験しておくのっ!」
「はっ「はい」…」
ユキはアッサリと納得をしている。
マコトとしても、確かに潜入捜査での失敗は自分たちの命だけでなく、以前より潜入捜査をしていた関係者たちにまで、迷惑となってしまう。
何より、一度でも逃走を許してしまった犯罪者を、また取り逃がすなんて、捜査官として絶対に嫌だ。
ご先祖様に申し訳が立たない。
「わかりました! 特殊捜査官マコトと、同じくユキの両名っ、ステージへ上がらせて頂きます!」
覚悟を決めたマコトの中性的な王子様美顔が、ユキのお姫様愛顔が、強い使命感で美しく引き締まっていた。
「大丈夫。恥ずかしかったら お客さんをカボチャだと思いなさい」
「「はいっ!」かぼちゃ…? うふふ」
アンナマリーの例え話が、ユキには面白かったらしい。
開演のアナウンスが場内に響き、証明が落ちると、二人は男女混じったダンサーの先輩たちに勇気づけられながら、ヌードの戦場であるステージへと上がる。
「頑張ってね!」
「練習通りにな!」
「「はい! 行ってきます!」」
二人は、トクトクと高鳴る鼓動で耳が五月蠅く感じながら、舞台の中央へ。
『それでは本日のステージ、スタートです! 本日のトップを飾りますのは、このステージがデビューの新人二人組「ピンク・フロール」ですっ!』
静かに緞帳が上がり、脱衣しやすい和装で背中を合わせている二人に、スポットライトが当たる。
(ユキ、始まった…!)
(マコト、カボチャですわ)
小声で囁き合いながら、恥ずかしくて俯きそうな心を叱咤して、客席へ凛々しく美顔を向ける。
(客席、意外と暗いね)
(ええ…あら、マコト!)
ユキが視線を向けた先をマコトもチラと見たら、迎えに来たジャン捜査官が、客席の後ろに立って、笑顔で手を振っていた。
(ジャン捜査官! なんで–)
(マコト、曲が始まりますわ)
知り合いが見ているという恥ずかしさで気が逸れて、出遅れそうになったマコトを、ユキがリード。
「ありがとう ユキ」
(こうなったら…っ!)
アンナマリーに言われた通り、とにかく舞台に集中するしかない。
二人は静かでムードのある和風な曲に合わせて、肢体を躍らせた。
男装女子である光ゆり源氏が、儚げで麗しいゆりゆうぎりと出会い、惹かれ合い、想いが高まり、やがて肌を重ねる。
というアレンジ物語の演目を、二人は無言で、時に静かに、時に激しく肉体を躍動させながら、幻想的に表現。
マコトのネコ耳とネコ尻尾が、ユキのウサ耳とウサ尻尾が、緊張と羞恥で何度もピクっとわなないた。
曲が進むと、マコトがユキの衣服を一枚はだけさせて、ユキがマコトの衣装を一枚脱がせて、剥いてゆく。
手足まで隠れる和装が解かれてゆくに従い、マコトの白い腕が、ユキの滑らかな肌が露わになり、男性客たちの視線が集中されてゆくのが解った。
(すごく 見てる…!)
男性たちの熱い視線が、舞台に上がった時よりも恥ずかしいけれど、それだけ強く認めて貰えているような、不思議な充足感へと昇華されてゆく。
もっと綺麗に。
もっと華麗に、魅せたい。
その想いは、特にユキの方が強かった。
ステージが進み、二人は最後の上着を、はだけさせ合う。
ユキの巨乳がライトに照らされ、マコトのバストも観客たちへと晒される。
曲がクライマックスへ盛り上がってゆくと、ユキがマコトのマイクロフンドシを解いて、マコトがユキのはだけた極薄襦袢をスルりと落とす。
スポットライトに照らされながら、二人の特殊捜査官は、客席の男性たちへ向けて、舞台の上で一糸まとわぬヌードとなった。
「「「「「「っおおおおおっ!」」」」」」
という男性たちの熱気と集中力が、心の中で響き渡る。
この空間で、自分たちだけが全裸になっているという、恥ずかしさと心許なさ。
裸のユキが仰向けに転がされ、裸のマコトが重なる。
「……マコト…」
「…ユキ…」
自ら裸体を晒しているという強すぎる羞恥と、肌を重ねている気恥ずかしさで、お互いに名前を呼び合ってしまった。
ステージの中央がゆっくりと回転をして、二人の裸身の全てが観客たちによって鑑賞をされる。
白い肌を照らすスポットライトが絞られて落とされ、盛大な拍手を貰いながら、演目は無事に終了をした。
「あなたたちぃっ、なんて完璧なステージを演じきったのよおおっ!」
ステージから戻ってきた裸の二人を、アンナマリーは、初舞台としては百二十点だと感激しながら、抱きしめる。
「ありがとうございます♡」
「とても、恥ずかしかったですけれど」
舞台を演じた二人に、ダンサーたちも称賛をくれる。
「とても綺麗だったわ! レッスン三日だなんて、嘘でしょう!?」
「二人とも、身体の見せ方も上出来だったし! 今度は、俺たちとも共演しような!」
マコトもユキも全裸のまま、着衣しているヌードダンサーたちに握手や記念写真を次々と求められる。
握手はともかく、写真はヤンワリとお断り。
更に、お客さんたちからの拍手にも応える為、二人は全裸のまま再びステージへと上がり、羞恥しながら笑顔で手を振り続けた。
~第四話 終わり~
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