第三話 二人の身体


 八階のフロアは、丸ごとレッスンスタジオだった。

 エレベーターを降りた床は、全てが木製の肌触り。

 表通りに面した左側の壁は大きく窓になっていて、開閉も出来るし、クリアなガラスにも完全遮光にもできる標準タイプだ。

 反対側の右壁は一面が鏡になっていて、自分のパフォーマンスなどを確認できる。

 エレベーターの向かい壁には扉があって、シャワー室などの装備らしい。

 高い天井には、収納式の照明器具やプロジェクターなどが装備されていると、アンナマリーは教えてくれた。

「広いですね」

 天上までの高さは五メートル程あるし、スタジオの床面積はテニスコートよりも広い。

「これでも手狭なほうよ。ダンサーが思いっきりレッスンするには、この倍くらいは欲しいところだわ」

 旧世紀のストリップは、ダンサーさんと衣装、多少の小道具などで済んでいたけれど、現代の劇場はジャンプや飛行、レーザー光線でのエフェクトなど、派手で煌びやかな演出を好むダンサーも多いらしい。

「裸で空を飛ぶんですか?」

 ストリップ劇場そのものが初めてな二人。

 想像すると、あまり格好良いとは思えないマコトである。

「うふふ…ちょっと ドキドキしそうですわ♡」

 対してユキは、裸で空を飛ぶ解放感を想像して、楽し気に頬を染めている。

「前に飛んだでしょう? レイの時」

 さる惑星の大富豪のお嬢様に指名されて護衛を務めた時、二人の専用航宙船「ホワイト・フロール号」の上に全裸で乗って、廃墟の上空を飛翔した事があった。

「あのような、危機的状況の事ではありませんですわ♡ 産まれたままの姿で空を舞うなんて…きっと天使のような気分ですわ」

「そうかなぁ」

 無垢なお姫様のような愛顔を夢見るように微笑ましく輝かせるユキと、中性的な王子様のような美顔を美しい憂鬱に曇らせるマコトだ。

「ふふ…それじゃあ二人とも。まずは、身体能力を見せて貰おうかしら」

「「はい!」」

 アンナマリーがリモコンで操作をすると、天井からスピーカーが降りてきて、リズミカルな音楽を流し始める。

「適当でいいから、この音楽に乗せて、身体を躍らせてみて」

「「はい!」」

 軽快な音楽に合わせて、大胆スーツのままな二人は、それぞれに身体を躍らせる。

 マコトは直線的に、しゃがんだり伸びたり、手足も元気にパンチやキック。

 拳のたびに タプんっと巨乳が弾み、蹴り上げる動作でヒップがプルるっと揺れた。

 ユキは全身をくねらせるような、セクシーなダンスを披露。

 全身を屈めたり背筋を伸ばしたりするたびに、突き出された巨乳がプルんっと揺れて、丸いお尻がしなやかに前後。

 セクシーなスーツに身を包んだケモ耳美少女二人の創作ダンスを、アンナマリーはジっと見つめる。

「ふぅ~ん…思っていた以上に、リズムが取れるみたいね!」

 引退しているとはいえ、ストリップ劇場を運営し、若いダンサーを育てているアンナマリーの目が、嬉しそうに輝き出す。

 二人は三十分、休まずダンスを続けた。

「はいOK。音感も体力も、申し分ないわ!」

「「ふぅ…ありがとうございます」」

 基本は合格らしい。

「それじゃあ次は、身体の柔軟性を見せて頂戴!」

 なんだか興奮気味なアンナマリーに言われて、二人は前屈と後屈をする。

 身体がペタんと折れて両掌が床に着く程の前屈と、腰に手を宛がわなくても膝を伸ばしたままで、ほぼ九十度まで曲げられる後屈。

 日ごろの訓練を真面目にこなしている二人には、全く苦痛ではない。

「まあぁっ、素晴らしい身体じゃない! 二人ともダンスの経験、あるのかしら?」

「え、いいえ…ああ、田舎で高校生の時 とかに」

「授業で教わっていた。くらいですわ」

 それも飛び級だから、年齢的には十代になる前である。

 二人の話に、アンナマリーは、また興奮を高めてゆく様子。

「あらぁ~っ、音感もあって体幹も鍛えられているのに、ダンスの経験自体は殆ど無いなんてっ! しかもそのボディーラインっ…まるでヌードダンサーになる為の素質だわっ!」

「えぇ…」

 ダンサーに憧れてレッスンを受ける女の子たちが泣いて逃げ出す程の鬼コーチにそう言われた以上、すごく褒められている事だけは、よく解る。

「二人とも座って! あ、スーツは脱いで!」

「はい–ぇえっ?」

 いきなり裸になれと言われて、聞き違いかと思った。

「早く早くっ! ヌードダンサーはステージの上で一糸纏わぬ姿で最高のパフォーマンスを披露するものなんだからっ! 早く脱ぐっ!」

 気持ちの高ぶりだけでなく、語気も強まってきた。

「は、はいっ!」

 とにかく、潜入捜査に必要な事である。

 マコトとユキは、大胆なスーツを全て脱いで、レッスンスタジオの隅に畳んで、全裸のまま中央まで戻ってきた。

「そ、それで…このまま、何を…?」

 相手が女性とはいえ、室内で自分たちだけ裸になるのは恥ずかしいマコトと、恥ずかしくてもマコト程ではないらしい大胆なユキ。

 アンナマリーは、二人の裸を上下から前後からくまなく見廻しチェックをして、また瞳を輝かせた。

「うんっ! プロポーションも肌艶も申し分ないわっ! あぁ~、なんて逸材が隠れていたのかしらぁっ!」

 ヌードダンサーの本能なのだろう。

 二人の秘められた才能や裸に興奮しているけれど、イヤらしさなど微塵もない。

「それじゃあ、二人とも床に座って、股割りしてっ!」

「股割り ですの…っ?」

 訓練でも実戦でも、柔軟性は地味に重要な能力だ。

 二人も訓練で、股割り角度二百は鍛えているけれど、それは訓練スーツなどを着ていての事。

「いいから早くっ! お客様の前で恥ずかしがっていたら、ダンサーなんて務まらないわよっ!」

「はい! ん…っ!」

 ダンサー志望ではないけれど、レッスンの先生に逆らっても意味が無い。

 脚を伸ばして座る二人は、両脚を伸ばしたまま左右へと大きく開いて、百八十度の開脚をする。

 更に身体を前へ倒し、床に両掌をついて、肘をついて、大きな双乳を床へと降ろす。

 柔らかい乳脂肪がぷにゆり…と重そうな柔変形をして、マコトは顎先まで床に着く。

「ふうぅ…」

 その隣では、更に柔らかいユキが、双つの巨乳を床に押し付けて両腕を伸ばして、顎の下まで床に着けていた。

 百八十度開脚をする二人のお尻は、普段は合わさっている柔頬が左右に引かれて開ききり、秘すべき柔肉が全て、室内灯に晒されている。

 二人のお尻は通り側の窓へ向けられているけれど、もし遮光してなかったらと思うと、恥ずかしくて消え入りたくなる。

「まああっ、なんて柔軟性なのかしらっ! ね、あなたたちっ、捜査官とか辞めて、うちのステージ専属にならないっ?」

「いえ、それは…」

「ああん、勿体ないわねぇっ! まぁいいわ。もう少し、見せて貰うわ!」

 それから二人は、全裸のまま両掌を繋いで左右に引っ張り合ったり、背中合わせで背負い合ったりと、柔軟性や筋力などをチェックされた。

 全てが終わると外の陽も落ちていて、二人の身体も流石に汗が流れ、息も乱れる。

「はぁ…はぁ…」

「ふうぅ…」

「お疲れさま♡ あなたたちの事 大体わかったわ♪」

 二人の運動を見ながら、アンナマリーはダンサーとしての訓練メニューを組み立てていたらしい。

「今日はこのまま、七階にあるダンサー用の控室で休んで。明日は、二人に合ったテーマ曲で、ダンスのレッスンに入るから!」

「「はい!」」

「それじゃあ、二人ともシャワーで汗を流したら、夕食にしましょ♪ 今夜は腕によりをかけちゃうわよ♡」

 とにかく、ダンスの才能があるマコトとユキに出会えた事が、よほど嬉しいらしい。


 アンナマリーは上機嫌で、七階のキッチンで料理を作っている。

 マコトとユキはシャワーを浴びながら、あらためて思った。

「なんだかすごく褒められたけどさ。でも ヌードダンサーとして、だよね」

「あら、それはそれで 素敵な才能ではありませんか♪」

「ユキ ヌードダンサーになりたいの?」

「私たちは、特殊捜査官ですわ♪ ですが、なんであれ才能があるに越した事はありませんし、それが女性としての職業でしたら、悪い気持ちではありませんもの♡」

「んんん…」

 マコトにはよく解らないけれど、ユキらしい感じ方だとは思う。

「お腹すいたね」

「ええ♪ いっぱい身体、動かしましたもの♪」

 二人はアンナマリーの夕食が楽しみだった。


                        ~第三話 終わり~

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