第一話 もたらされた情報
本部ビルの主任室では、いつもどおり、クロスマン主任が優雅に書類へと目を通しているだろうと、緊張しながら二人は予想していた。
特殊捜査官として二人に支給されている制服は、他の特殊捜査官とも違い、とても大胆な特別スーツ。
銀色のビキニなメカスーツで、グローブとブーツはメカアーマーっぽいデザイン。
大きなバストを支えるメカビキニのトップは、谷間も乳肌も大胆に露出をしていて、激しい動きをするとバストトップが零れてしまうのではないかと思える、ギリギリ加減。
ボトムはハイレグマイクロなフロントに、お尻がほぼ隠れていない極細Tバックであった。
健康的な肌を限界で秘する特別スーツは、地球連邦政府の広報活動の一環でもあり、マコトもユキも着る以外の選択肢など、なかったりする。
そんな特別スーツの、ユキは右腰に小型の、マコトは左右に大型なガンホルダーを下げていた。
主任室の扉自体がカメラにもスピーカーにもなっていて、マコトは小さく咳払いをしてから、登庁の挨拶をする。
「んん…失礼いたします」
『うむ、入りたまえ』
入室許可を貰って入ると、思った通り。
いつも通りの主任室のデスクで、いつも通りの優雅さで、いつも通りの冷静な表情で、いつも通りなポーズで書類に目を通している、クロスマン主任。
まるでレディコミから抜け出してきたような美中年の男性主任は、シンプルだけど上質なオーダーメイドの黒いスーツでキメていた。
「ハマコトギク・サカザキ、登庁いたしました」
「ユキヤナギ・ミドリカワ・ライゼン、同じく登庁いたしました」
「うむ、掛けてくれたまえ」
上司に促された二人は、ソファへと、丸くて大きなヒップを降ろす。
暫し待つ間、ヒソヒソ話。
「…マコト、何か叱られるような事、いたしまして…?」
「ボクは覚えがないけど…ユキは?」
「私だって、身に覚えなど ありませんですわ…!」
ならば一体、なぜ呼ばれたのか。
「待たせてすまない。寛いでくれたまえ」
「「は、はい…」」
クロスマン主任がソファの対面へ腰を下ろすと、テーブルから淹れたての紅茶が出現をする。
主任がティーポットを手にしようとしたタイミングで、ユキが気遣った。
「私が 致します」
「そうか、すまないね」
立ち上がってティーポットを手にしたユキが、三人分のティーカップへと、暖かい紅茶を静かに注ぐ。
(ユキ、少しでも主任の怒りを鎮めようと…)
オシャレやおもてなしなどが得意だけど料理の苦手なパートナーの健気な献身に、マコトは心の中で涙する。
「そ、それで…今日はその…ボクたちが、何か…?」
マコトの問いに、ユキの手元もピクっと怯える。
叱られるなら自分からと、マコトは思い切って、主任へ問うた。
「ん? ああ、今日はキミたちに、相談すべき事案が出来てね」
「「相談…」ですの…?」
「ん? なんだと思っていたのかな?」
「ぁあいぃえ、その…」
クロスマン主任は、決して恐ろしい上司ではない。
穏やかで優しく紳士的で、低くて痺れるようなボイスや恐ろしいまでの先見性など、二人も含めて部下たちからの信頼も厚い。
ただし、二人はいつも、報告忘れや犯罪者に対する過度な攻撃など、主任の怒りを誘発するような失態があまりにも多かったりする。
そんなときに呼び出されると、怒鳴られる事など無くても、静かな笑顔で怒る主任のオーラが恐ろしくて、二人は心底から命乞いをしてしまうのだ。
なので、色々と身に覚えのありすぎる二人は、クロスマン主任には出来るだけ呼び出されないように祈りながら、日々の任務をこなしているのであった。
「本日、キミたちに来て貰ったのは 他でもない」
「「…!」」
優しい口調に、二人はホっとする。
失態さえなければ、クロスマン主任は親しみのある優しくて頼もしくて尊敬される上司であり、マコトもユキも、主任の前では必要以上に緊張する事など、全くないのだ。
「見て貰った方が、早いだろうね」
と言いつつ主任が差し出したデジタルペーパーを受け取って、二人は映し出される立体情報を注視
「「……これは…っ!」」
その立体映像は、初老の男性。
白髪交じりの地球人で、なかなか上質な白いスーツを着こなしている。
「アルバート・アルバトロス…っ!」
「主任っ、もしや この犯罪者についての情報が、もたらされたのですかっ!?」
珍しくユキまで、強く食いついていた。
アルバート・アルバトロス。
銀河を股にかける武器密売組織「アルバトロス」の創立者であり大ボスで、銀河に多くの支部を持つ、広域密売組織の元締めである。
銀河連邦の各惑星国家には、それぞれ厳格な憲法や法律があり、国家領域によっては違法となる物資や物質、更には武器なども、当たり前に異なっていたりする。
そしてそれらの大半は、武器や兵器に転用可能な、薬品や機器や物質でもあった。
もちろん、アルバトロスの魔の手は地球連邦の領域にも、伸ばされている。
特に辺境の惑星では、近接する敵性な惑星国家とのイザコザもあり、密輸入のターゲットや温床にもされていた。
二人はパトロール中、アルバトロスの密輸船を何度か発見し、摘発あるいは轟沈していて、ある意味で対策の最前線の一翼を担ってもいるのである。
「この密売組織に関する情報ですか?」
「と言うよりも、その男 アルバート本人に関する情報だね」
地球連邦に所属する特殊捜査官マコトとユキ、チーム名「ホワイト・フロール」は、この組織にとっても、目の上のタンコブと言える。
特に、二人がパトロール中に見つけた、農業コロニーに偽装した密売の倉庫及び中継ステーションへの、勧告と攻撃と撃滅。
これはアルバトロスにとって大きな痛手となり、ホワイト・フロールへの組織の敵愾心を決定的にした、一つの事例でもあった。
「キミたちの活躍も含めて、この地球連邦の領海に於いてのアルバートの勢力は、著しく減退をしている。その事実は、他の惑星国家に於けるアルバトロスの影響力の減退にも影響していると、調査結果は出ている」
「「はい…っ!」」
「そんな事情だからなのか…近々アルバート本人が、地球領域の辺境ステーションへとやって来て、大きな取引を目論んでいる。という情報が、調査班を通じてもたらされた…というわけだ」
「アルバート本人が…!」
「この機会に、いかなる初段を以てしても、捕らえなければ! ですわ!」
二人が怒りに燃えているのは、一度、アルバートが乗った高速航宙船を取り逃がしてしまった悔しさだけではない。
この組織は、相手かまわずどんな武器でも密売をするという、節度も筋も無い、拝金と混沌の下僕とも言える組織である。
その為、まだ年端もゆかない不良少年少女たちが、悲惨な事件に巻き込まれる事案も発生していた。
マコトとユキにとって、絶対に許せない犯罪組織でもあるのだ。
二人の強い正義感を理解しつつ、クロスマン主任は、順序立てて話を進める。
「本来、潜入捜査は我々の専門外であり…この男の逮捕等は専門の部署が行うべき懸案でもある」
「「…はい」」
つまり二人は外される。という話かと、息を飲む。
「しかし 相手が相手であり、今回は捜査の手が多い方が良いという判断もある。それに、アルバートが現れると思わしき場所が複数個所あり、その中には女性捜査官であればなお適している と判断された場所もある。つまり…」
「ボクたちが、その場所へ潜入する。という事ですか」
「そうだね。もちろん専門の捜査本部としても、キミたち外部の参加に関しては、本人の意思を尊重する とも、譲歩してくれている」
つまり、潜入捜査専門の部署から、ぜひホワイト・フロールに参加して欲しい。
という意思でもあった。
一度は逃してしまったこの犯罪者アルバートを、出来れば自分たちで逮捕したいと考えていたマコトとユキにとって、願っても無いチャンスである。
二人は視線だけで頷き合うと、自らの意思を表明する。
「ボクたちは」
「ぜひ捜査チームに、加えて戴きたいですわ!」
中性的な王子様みたいなマコトの瞳が、お姫様みたいに愛らしいユキの瞳が、正義の意思で熱く燃えていた。
「…解った。捜査本部には、二人の意思を伝えておこう。捜査チームも喜ぶだろう」
「「はいっ!」」
クロスマン主任の口調には、確かめるまでもなく二人の意思を確信していた自信が伺えた。
そして、クロスマン主任から告げられた命令は。
「それでは本日早速、ウエノシティーのストリップ劇場へと、向かってくれたまえ」
「「…すとりっぷ…?」ですの…?」
~第一話 終わり~
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