第7話 仕事

 夕方トウコが自宅に戻ると、ちょうどマリーとリョウも帰ってきたところだった。マリーが淹れてくれたコーヒーを、ソファで飲む。

マリーが1人掛けのソファ、リョウとトウコは向かいの3人掛けのソファにぴったりと寄り添うようにして座る。リョウがトウコの腰を抱くようにして座り、それを少し迷惑そうにしながらも何も言わないトウコという、いつもの光景だ。


「で、何かいい仕事あったのか?」

リョウがマリーに聞く。

「明日から商隊の護衛の仕事。往復で6日よ。」

「げえ。護衛かよ。つまんねえ」

「我儘言わないでちょうだい。他にロクな仕事がなかったのよ。街のドブさらいや、人探しよりましでしょう?」

「どのくらいの規模なんだよ?」

「荷馬車が5台で、商人の家族と使用人の計10人が乗った馬車が1台、護衛は最低でも30人募集されてたわね。」

「その規模だと、他のチームと組まされる可能性もあるわけだ。あーなおさらやる気でねえ。」

「トウコとリョウっていう頭のおかしい人間がいる、うちのとこ組みたがるとこなんていないわよ、どうせ。」


 定職を持たない人間を支援するための組織、職業斡旋組合。

仕事を斡旋してもらうには組合員になる必要があるが、組合員になるのに特に審査等は存在しない。

斡旋される仕事も、店番に子守や買い物、ゴミ拾いからマリーが言ったようなドブさらいに人探し、護衛に魔物討伐、環境調査などもある。

様は何でもありで、要人暗殺といった後ろ暗い仕事もある、という噂もあるがそれが真実なのかは分からない。


仕事の難易度によって報酬も変わる。ゴミ拾いや買い物など、子供でも出来るような仕事の報酬はもちろん安く、護衛や魔物討伐といった命にかかわる仕事になるほど報酬は跳ね上がる。

報酬の安い仕事は、孤児や未亡人などの弱者救済の意味合いが強い。

逆に報酬の高い仕事は、まともな職に就ける程の学や後ろ盾がなく、かといってまっとうに生きる気がない暴力しか能のないような人間を、野盗や盗賊などの犯罪者になってしまうくらいならば、街の暴力機関として使ってしまおうという側面があった。


もちろん、組合員には最低限のルールが課され、その中には年に一度、奉仕活動的な仕事を請け負わなければならなかったり、治安維持のための拒否が認められない魔物討伐が課せられることもある。

それを厭い、野盗に成り下がる人間もまた一定数存在した。


仕事を受ける人数は自由で、個人で受けても複数人で受けてもよい。魔物討伐などの報酬の高い仕事を1人で受けてもよいが、そのような仕事を受ける者のほとんどが、複数人でチームを組んでいる。

トウコも、マリーとリョウの3人でチームを組んで仕事をしている。


「トウコだって護衛の仕事なんてつまんなくて嫌だろー?」

「別に?往復6日の距離なら危険な魔物は出ないし、出ても盗賊の類だろう?」

「だからそれがつまんねーじゃん。」


マリーがこの話は終わりとばかりに、手を叩き言う。

「つべこべ言ってないで護衛の仕事は決まりよ。明日南門に8時集合だからね。」

リョウは不服そうな顔をしているが、コーヒーと一緒に文句を飲み込んだ。

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