第6話 生きる術

 トウコが物心ついた時、既に両親はいなかった。トウコという名前は、養親である男が付けた。この見た目だからか、山の中に捨てられていたところを養親が拾ったらしい。

小さい頃、何故自分を拾ったのか聞いたら、

「売れば金になると思った」

と返ってきた。


それでも売らずに育ててくれた理由をトウコは知らない。養親もまた孤独な男だったから、忌み子でも側に置いておきたかったのかもしれない。

養親は弱い魔力しか持たず、これといった才能もない男で、誰でも使える身体強化の魔法しか使えなかった。

養親に魔法を教わったトウコもまた身体強化の魔法しか使えない。マリーやリョウに教われば、他の魔法を使えるようになるかもしれないが、トウコは覚える気がなかった。


身体強化のみとはいえトウコの魔力量は多い。

膨大な魔力によって肉体を強化し、殴る。

それがトウコの戦闘スタイルだ。


養親は腕の立つ男ではなかったが、学もなく他に出来ることもなかったのでほそぼそと護衛の仕事で食いつないでいた。

トウコが幼い頃は知り合いの娼婦にトウコを預けて仕事に出ていたが、トウコが少し大きくなってからは雑用としてトウコも仕事に連れて行くようになった。


トウコが9歳の頃、護衛として街から街へと移動している最中に、魔物に襲われた。

その近辺ではあまり出没しない強力な魔物で、護衛も護衛対象の人間も全員死んだ。養親も食われて死んだ。


トウコも食われそうになったが、その頃には身体強化の魔法が大分使えるようになっていたため、素早さを最大まであげてかろうじて逃げ切れた。トウコの背中にはその時の魔物につけられた傷が残っている。


命からがら当時住んでいた街まで戻ったトウコだったが、養親が死んだと知った大家はそのままトウコを娼館に売った。

忌み子であるトウコを嫌っていたため、当然と言えば当然だったのかもしれない。


半月ほど下働きをしていたが、ある日客を取らされた。

しかし、トウコは客を殺してそのまま逃げた。

スラムへと逃げ込み、しばらくゴミを漁って暮らしたが、娼館の追っ手に見つかり街の外へと飛び出した。


しかし9歳の子供が街の外へ出て無事でいられるわけもなく、トウコは魔物の群れに襲われた。

今のトウコにしてみれば脅威でも何でもない魔物だったが、当時のトウコが敵うわけもなかった。それでも1体を辛うじて倒し、娼館でゴミのように死ぬより魔物に食われて死んだ方がマシだと、トウコが命を諦めかけたその時、偶然通りかかった護衛団がトウコを助けた。


忌み子だとは気づかずに助けたようだが、護衛団の団長がトウコの魔力と身体能力の高さに目を付け、そのまま護衛団に拾われた。

最初は忌み子であるトウコを気味悪がっていた団員達も、時間が経つにつれてそれも薄れていき、それなりに可愛がってもらえた。

それでももちろんトウコを避ける団員はいたが。


力のない者は食われるだけだと知ったトウコは、ここで貪欲に戦う術を学んだ。

覚えの早いトウコに皆、様々なことを教えていき、トウコは強くなっていった。


13歳になった頃、団長から手籠めにされそうになったトウコは、ここでも団長を殺し、再び逃げた。


生きる術、戦う術を手に入れたトオコは街から街へと移動し、今の場所へと流れついた。


それからマリーと出会うまで、トウコは独りだった。

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