第2話 ブラディ・ジョーカー

『足○区の猪狩野は我々、パンドラの命令を無視したので【ブラディ・ジョーカー】に処刑されるだろう!!』

 不気味な笑い声がスピーカーから流れてくる。


「な、なにィィィーーーー……!!

 ふざけるなァ〜ーー!!」

 なにを言ってるんだ。この電話の相手は。



 狂ったような暑さに頭が可笑しくなったのか。


 カ○カの『異○人』じゃあるまいし……。

 不条理にも、ほどがあるだろう。



 セックスをしなければ殺されるなんて、とてもじゃないが正気の沙汰とは思えない。

 



「おい! もしもし、なんの目的があるんだ!! 無関係なボクに……。

 いきなりセックスorデスってェ……?

 お前は、どっかの風俗店の回し者か!!

 それとも、そっちの指定する『デリバリー彼女』でも指名しろッて言うのか!!」

 新手の押し売り風俗営業だろうか。



 気の弱い童貞チェリーボーイをコロスと脅迫して無理やり風俗ギャルと関係を持たせ、金品をおどし取ろうと言うのだろうか。




『ケッケケェ、目的……?

 そうだな。いて言えばかなァ……』

 あっけらかんと笑って応えた。



「ぬうゥ!! ヒマつぶしだってェ……。

 お前は、たかだかヒマつぶしのために猪狩野さんを処刑するつもりなのか!!」

 バカバカしい虚言癖のイタズラ電話に付き合っているほど、こっちは暇ではない。



『ケッケケェ……、そりゃそうだろう』

 当たり前と言った感じだ。



「お前なァ……!! 開き直るなァ!!

 悪質過ぎてジョークにしても笑えないぞ!!」

 だんだん腹が立ってきた。


『祐真だって、ヒマつぶしにシューティング

ゲームでモンスターやゾンビを殺していくだろう!!

 バァンバァーーンッて!!』



「そ、それはシューティングゲームは現実の殺人とは違うじゃないか!!」

 なにを言っているんだ。



『ケッケケェ……、ンなじ事さ。

 我々、パンドラにとってはバーチャルだろうと、リアルだろうと!!』



「なッなにィィーー……!!」

 大丈夫なのか。コイツの頭は……。

 バーチャルと現実の区別がつかないのか。



『ケッケケェ……!!

 さあァ、ゲームの始まりだ!!』



「うッ、るせェ……、この暑い最中さなか、お前の下らないヒマつぶしに付き合っていられるかァ!!」

 これ以上、パンドラの相手などしていられない。



 ボクはバカバカしくなり、早々に通話を切った。



「ぬうゥ……」

 着信画面を睨みつけた。怒りで、かすかに動悸が早くなっている。



 気分転換にテレビをザッピングしようかとリモコンに手を伸ばした。


 ニュース番組が映っている。相変わらずコロナ関連の報道だ。




 あ!! そうだ。

 どうせ今のパンドラはジョーダンのイタズラ電話だろう。


 確かめようと彼に電話をした。

 つい先日、電話番号を交換したばかりだ。



 何度か、呼び出し音がしたあと電話が繋がった。



『もしもしィ……』少し警戒するようなジョーダンの声だ。


「あ!! ジョーダンか? 僕だ!!

 祐真だよ!! 高原祐真だ!!」

 早口で、まくし立てるように怒鳴った。



『あン、なァンだ? 祐真か。どうしたよ。

 いきなり電話してきてェ……。そう言えば、借金の返済ならもう少し待ってくれ!!

 これからちょうど彼女とメイクLOVEラブ合体するトコなんだ!』



「はァ、メイクLOVEラブ合体ッてェ……。

 どんなエロいロボットアニメだよ!!」



『今ちょうど彼女が風呂に入っててさ!!

 こっちはパンツの中でポ○ットドラゴンがビンビンなんだよ!!

 頼むから合体の邪魔すんなよなよなァ!

 俺のポ○ットドラゴンが暴れて白いほのおを吐き出すぜェ〜……』

 相変わらず下品な下ネタだ。



「うるさい!! 知るか!!

 お前のポ○ットドラゴンの事情なんか!!

 そんなことよりジョー!! お前、いま『パンドラ』だとか言って、僕のトコに変なイタズラ電話かけて来ただろう!!」

 ようやく本題だ。


 コイツ以外、【パンドラゲーム】なんてイタズラをするのは考えられない。




『オレがァ『パンドラ』ァーー……?

 おいおい、ジョークだろう!!

 なんで彼女とお楽しみの真ッ最中に、わざわざ祐真にイタズラ電話しなきゃならないだよ!!』



「え、それは……」

 言われてみれば、ジョーダンの言う通りだ。


 いくらナンでも彼女とセックスの最中に、僕へイタズラ電話を掛けてくるほどヒマではないはずだ。



『じゃァな!! これからお楽しみの深夜の合体ジョイントライブなんだ!!

 お前と下らない電話してるヒマはねえェンだよ』

 冷たく言い放つと勝手に通話を切った。



「チィ……ッ」どうやらジョーダンは『パンドラ』ではないようだ。

 では、いったい誰なんだろう。



「ン……」

 何気なくリモコンでチャンネルを変えようとした瞬間、女子アナウンサーが臨時ニュースを紹介した。



『臨時ニュースです!! 都内足○区在住の猪狩野長太郎さんが亡くなりました』



「な、なにィィ〜ーー……!!

 猪狩野が……!! 亡くなった?」

 思わず僕は身を乗り出した。


 慌ててリモコンで音声のボリュームを上げた。




『……なお猪狩野さんの手元には、真っ赤なジョーカーが置かれていた事から一連の【ブラディジョーカー】による犯行との関連があるのか。捜査が進められています……』

 女子アナウンサーは淡々と報道している。




「ま、まさかマジでェ〜……?

 真っ赤なジョーカーだってェ……。

 マジでパンドラは、ブラディジョーカーにこの猪狩野ッて被害者ヒトを処刑させたのか……!!」

 一瞬、グラッと目眩がしたみたいだ。



 その時、また着信音が聞こえた。








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