第193話 前進期③ 警棒

エイトがささやく言葉にA3が反応する。


「【さばきのつぶて】か。その年で日本語もマスターか?小さいのに賢いな。」

外人と思ってるのか?そもそもエイトは日本人だけどね。


「I just happened to know.」とエイトが返事をした。


「たまたま知ってただけっていってエイトさんは誤魔化してますね。」とアーク。


A3は

「いいネーミングだな。スリル。俺達もそう呼ぶか。」

とペアであるハイエンドドライバー序列第3位の子供に向かって言っていた。スリルって名前なんだ。


その後「じゃあなフォース。上位に上がるまでおっぬんじゃねーぞ。」と日本語で話してA4と暫く話し込み、程なくして去って行った。




奴が去って小屋から出て飛行場を目指しているようだ。アークが

「ありがとうございます。ショウさん。」と歩きながら話した。


もちろんショウは恩着せがましくするような態度は見せず、

「あいつはあいつでヤバそうに見えるが元は普通の一般人だったんだ。」と話して来た。


「どんな方か聞いても?」

小さな滑走路に着いてプロペラ機の出発まで待機予定だった僕らは因縁の相手、元A4についての情報を教えてもらったのだが・・・。


「これから言う情報がすべて正しいとは限らないが。A3は金田かねだと言う名の日本人だ。」


そうだな。一度顔を見た事があるけど日本人だった気がする。


「エージェントになったのはあいつの粘着質な復讐心が生み出したんだろう。

俺にはそんな感じの印象だった。


俺たちより少し後にハイドラに入教して、他人を蹴落とす狡猾な手口が多かったけど、それなりに成果はきちんと出していた。確か、ゼロのスカウトでやって来たはずだ。」


狡猾と言う言葉を聞いてか「そんな感じがします。」とアーク。


「嫁と子供がいたらしいが、どちらももういないんだと。」


アークが「捨てられたんですかねぇ?」と聞くと、ショウは


「いや、死んだらしい。議員が起こした交通事故が原因だったみたいだ。」


「それはお気の毒です。」


「任務の隙間に勝手な行動を取るからやむなく同行した事があったんだが、俺が見たものは単純な復讐だった。その議員は金の力で何の罪にも問われずのうのうと生きていたんだ。」


それで復讐を。


「A3は議員の隠蔽に関わった奴等を抹消している。次から次へと。彼らの言い分は上の命令だった。だとよ。怒る気持ちもわからんでも無い。」


「そこそこ日本も腐ってますねー。」


「そうだな外から見ると余計わかる。目先の事しか考えない老人によって大半がボケきってる、なんも変わっちゃいない。金田も心底嫌っていたよ。そんな国だ、日本は。」


「・・・そういえばショウさんもこちらに来て10年ですね。」とアークが言う。



ショウは

「あぁ、10年か、あっという間だった。」



少し上を向いて考えにふけるようなショウを見て

10年か。そりゃ人間10年もありゃ変わるよなぁ。金田もどうしようもない理由があってああゆう奴になったのかなぁ。考えるつもりは無かったけどそんな事を考えてしまった。



その日の夜半過ぎ、僕らは金田が乗って来たプロペラ機に乗り込んでその地を後にした。パイロットは全員の帰還を心から喜んでくれて機内ではみんな疲れたのか直ぐに睡眠に入り会話が無くなった様だったのだが、1人。


「遠足の終わりはお家に帰る迄!」と言わんばかりに気を抜いていない奴が僕に話しかけてきた。



「カガミ。今回は恐らくお前のおかげで死者なく帰還することが出来そうだ。感謝する。」とA4にそう言われた。


KPが隣でいびきをかいていたので話づらかったのかA4が指を指す方角に足を運び、促されるまま飛行機の前の方に僕らは腰を掛けた。



「さて、落ち着いた事だし。」そう言ってA4はクチバシマスクを外し、2度見た事のある顔をさらけ出した。


「知ってると思うが、フォースとエイトの父親で、」

A4は手にしたビスケット化していない状態の武器である【ダンゼツ】を見やりながら


五月さつき 勝利しょうりの警察学校の同期、桃山ももやま 太一たいちだ。」と言った。そこには【五月】と刻印されていて、


そうか、この黒い武器ダンゼツ。握り手がゴリ先の警棒と同じだ。昔、2人は警棒を交換した、と言う事を以前ゴリ先に聞いた事を思い出した。


「酷な選択肢をさせた、悪く思っている。ただ、これからお前の未来は希望だらけじゃない。


俺は俺の生きてる家族を必死で守り抜くことが出来れば十分だが、先行視覚のお前をハイドラから逃すと一家を人質にされてるような俺達は。


人によって守るものが違う事だけは知っておいて欲しかった。」


僕はA4の話しの凄みに思わず頷いてしまった。


「俺の都合のいい事を言っているのはわかっている。が、現段階ではハイドラからの逃亡は考えないで欲しい。」そう言ってA4は鋭い目で僕を見つめる。


しかしアークは反論をする

「それを言うならカガミさんにも守るものがあります!あなたの言いなりになる義務は無いのでは!?」少し怒った口調のアークに対して


「アークか。そうだな、では交換条件を出そう。ハイドラを抜け出さない事を条件にここで今回のチーム全員にカガミのイチゴサイダーである事実を他言しない、させないと言うのはどうだ?」


アークが返事を待っている。

スマホに指を滑らせる、アークは僕を早く日本に帰還させたかったのかすぐには返事をしなかったが結局、僕の意見を優先させて。


「わかった。」と僕の声で返事をしてくれた。



正直いうと日本にはいち早く帰りたい。だけどここで僕は父さんの善意が少し混じっているとは言え、ハイドラで死と隣り合わせの生活を強いられているショウに。妹のヤエちゃんに会ってしまった。

そして母親を亡くした子らを必死で守る父の凄さを生で見てしまったんだ。















〔さすがに桃山家を引き裂く事なんて僕には出来ないよ。そんな権利、誰にもない。〕

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