第190話 希鏡期⑩ MOH

東京でハイドラに誘拐され、今日までハイドラに居続けた壮絶な一家の1人、アッシュグレイの髪のフォース。

本名、桃山 ショウ


そしてもう一人、それを追いかけてハイドラのエージェントにまで登り詰めたその父親のA4。

本名 桃山 太一


その奇妙な運命は実は、僕の父さんが世界の終わりを防ぐ為に生贄として仕向けた純粋な被害者だったんだ。


ショウも親が桃山夫婦だったばっかりに平和な日常をたった5歳で奪われ、今日まで死と隣り合わせのハイドラで必死で生きてきてる。

僕はその話を聞いた時、親は恨まれてもしょうがないんじゃないか??と思った。


親が責任を取るべきじゃないか?と。


でも、だったら、その考えを通すならば、父さんの過ちは僕が償うべきじゃないのか?


親が子の、子が親のごうを背負うべきじゃないのか?


【今ここで全てを話して謝るべきじゃないのか?】


そんな事を考えているからか急に呼吸が早くなってきた。



「カガミ!!大丈夫か!?」ヒカルが心配してくれてる。


と、A4が話し出した。

「あの後、サクラは腎臓の腫瘍が見つかって出産後すぐ摘出されて元気になったよ。誰かがハイドラにリークしたんだろうが恨んじゃいない。あの時はハイドラに任せて良かった。あの奇病に気づける医者が日本には居なかったんだ。」


サクラ?奥さんか??


ゴリ先は「じゃあ全員生きてるんだな?!太一!帰ろう!!サクラちゃんも取り戻す!日本に戻るんだ!!!カガミとショウも一緒に!!!」


「全員??あぁ3人ハイドラに行って、3人生きてるな。そりゃ全員だ。フッ。」A4は鼻で笑ったがすぐゴリ先を睨みこう言った。


「サクラは2年前に・・・死んだよ。」何故かゴリ先を睨みつけるA4。


「え?!サクラちゃんが!?なんでだ!今3人生きてるって・・!!!2人目の子供か!!!」


「あぁ、サクラの死因はガンだった。そういう運命だったんだ。特攻薬が作れると聞いてイチゴサイダーを探した!血反吐ちへどを吐きながら世界中這いつくばって何でもした!!!


それがぁだ!!それがサクラが死んだとたんひょっこり日本で現れたんだぞ!!アティウスがかくまっていたんだろ!?なんでお前がそのアティウスと一緒にいるんだ!!!!」




そんな。父さんはもしかしてショウの母さんを救う目的でハイドラに紹介したのか??



「太一、俺は・・・そうだな、なんにも知らなかった。すまない。」俯くゴリ先に通信が入ったのか耳に手を当てだした。小声でOKと言っている。


いつの間にか難民キャンプの方角からゴリ先に縄を解かれて自由になったアティウスのメルドとその他3人がこっちへ来たんだけど、その輪の中にはエイトが捕まっていたんだ。


笑いながらメルドが

「難民キャンプにハイエンドドライバーを探しに行ったら弱そうな子供を捕まえたんだ!!いい交渉材料に、」


話している最中さなか

「10秒後にしゃがむわ。」とでエイトは呟いた。


メルドは

「何をしゃべった!!!勝手にしゃべるな!殺すぞ!」と脅していてそれに対してA4が青筋を立ててキレたんだ。


「子どもを人質か。それは勝利の指示か?アティウスのクズめ。死ぬのはお前たちだ!!!!」



その直後、ビジョンで追いつけるかわからない程の速度でメルドに切りかかる鬼を見た。

僕は咄嗟にナイフを構え、彼の剣撃を弾き、メルドの首が飛ぶビジョンを回避した。


その瞬間ショウが動き出す!

他のアティウスのメンバーはショウのファンファーレによってパタパタと倒れ、しゃがみ込むエイトだけをきれいに残して全員地に伏せた。メルドは尻もちを付いて腰が抜けた様子だ。



そしてA4がダンゼツをこちらに向け、

「カガミ、お前はどっちだ?選べ。」と聞いてきた。


走っても無いのに息が荒くなる。


「1、日本へ戻る。」


「2、ハイドラに残る。」


今ここで僕が日本に帰る選択をすると間違いなく戦闘が激化する。パワーバランスを考えると、ヒカルたちが殺される危険性が高くないか?


呼吸がどんどん早くなる中、全員に見つめられながら、ビジョンと相談しだした。そして、1を選択したビジョンを見た途端、胃から口に向かってムカデが這い上がってくるような強烈な不快感を感じ、すぐその場でゲロゲロと吐いてしまう。


吐瀉音を聞いてアークが

「どうしましたか!!大丈夫ですか!カガミさん!!」と言っている。


A4の選択肢1を返事した瞬間にエーコちゃんの体に投げられたダンゼツが胸を貫き、すぐに叫びながら寄っていくヒカルの頭に銃が撃ち込まれて倒れるビジョン。


そうか、A4にとって他人の命とはこんなの様な軽さなんだ。


口に吐物が残る中、震える手を出し慌てて2本指を立て返事した。



ショウが割って入って来た。

「お、オヤジ!ヤエも無事だ!一旦冷静になれ!!」  ヤエ?? 誰だ?


「ああ。」クルっとゴリ先の方へ眼をやって


「勝利、カガミに救われたな。今度会う時は俺と戦える心構えをしておけ。今回は引き分けで済ましてやる。」


ゴリ先は劣勢だったことをいち早く理解していたんだろう。僕の返事次第でヒカルとエーコちゃんが危険に晒される事もわかって最後に僕にこんな言葉を言ってきた。


「太一すまない。天道。いつか必ず取り戻す!!」


僕は先生の悔しがる顔を見る事が出来なかった。


離れていくヒカルを見ると何かブツブツ言っていて、フードを被ってこちらを警戒しながらエーコちゃんを担ぐ姿が最後に見えた。










僕らは揃って砦を下りた。


下りの道でヘリの遠ざかる音が聞こえ振り返った時、

まだ怒りが収まりきっていない様子のA4は僕に向かって


「ハイドラを選んだお前に、帰る場所なんてないぞ。」と言われそこからしばらく悩み続けた。








難民キャンプでは朝の炊き出しをする人がいなくなっていたから少し混乱が起きたみたいだったけど、食材はあったので有志が活躍し難民全員が協力し合って朝ごはんを食べていたらしい。


敵か目的が一つならこうやってみんな協力し合えるのに。


そんな光景を見ながら

〔僕って日本に帰っても居場所なんか無いよね?〕と急にネガティブになって充電ギリギリのアークに意味のない質問をしてしまった。



そしたらビックリする答えが返ってきたんだ。



「実は離れるギリギリまでヒカルさんのイヤホンにハックしてBluetoothで会話をしていました。」


!!!!!


「彼らの今の組織、【MOH】何の略だかわかりますか?」

僕は首を振った。


「【ミラー オブ ホープ】ですって!あ、初めのミラーは、みかんさんがウッカリ間違えてお名前の【カガミ】を【かがみ】って書いて提出したから誤植ではあるんですが、訂正できない位に世間に浸透しちゃってるらしくってそのまま使ってるって(笑)私も大好きな言葉です!!」


母さんのバカ!!




でもそうか。


急に心が晴れて涙と笑みが溢れ出た。


みんな待ってくれてる、僕の居場所を用意してくれてるんだ!!!



組織名で僕の名前を使ってくれたんだな!いい響きだ!


















MOH、ミラー オブ ホープ。

【希望のカガミ】か。












第四章 完

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