第187話 希鏡期⑦ 残10%

今の所、協力隊の人達は配給で忙しそうだったし、尾行はされていない感じだった。僕はトゥーマとファルマの間に挟まれて砦を目指した。


直線距離にして100m程。臨時の難民キャンプから近いは近いけど切り立った細道を登っていくルートしか無くて時間にしてわずか数分だったのにかなりの距離を感じた。


砦について崩れた階段を下るとLEDランタンの光が見えて来てそこには昨日、日本の情勢について教えてくれた協力隊の彼がいた。


「やぁ!昨日の配給はおいしかったかい?僕は【メルド】だ。よろしくね!」

悪びれる様子もなく軽い感じで謝って来た。


アークさん、使う声色迷ってるんだな、僕の声か、バイト先の店長の声か!さぁ!!どっち!!


「・・・。」

言わんのかーい!!


メルドは「怒ってるのかな??僕が何者かわかるかい?青年協力隊??それとも、」


トゥーマは話途中で

「アティウスってバレてるぞ。」と言うと


「あぁそうか、二人に説得された時点で伝わるよね。昨日は沢山しゃべったし、アティウスに興味を持ってもらえたかな。やっと単独でコンタクトを取れたよ。しかも強そうな2人を引き剥がす事が出来た。君の名は??」


「ハッピークリエイターだ。」でた~地声!僕の声。おっとワインみたいだね!


「昨日の声じゃない!?同一人物か?!いや、この背格好は一人だけだった。ボイスチェンジ?」とメルドの警戒心が一気に上がる。


トゥーマとファルマはなんのこっちゃって顔でこっちを見て来てる。まぁそんなに見るなよ。ハズイじゃん。


メルドは驚いているがすぐ取り繕って


「で、どうする?アティウスは君のいるテロ組織の様にトカゲの尻尾切りをするような薄情な組織じゃない。こちらに協力すれば平和に暮らせると思うけど。元ハイドラの奴らも何人かいるし。」


アークはそっと「ウソじゃ無ければ日本に帰れますかね。」と言ってきた。


でも何だか彼の動きや表情が平和を愛するってよりも姑息な感じに取れるんだよなぁ。


また返事を渋って、考えたふりをしていると


「ちなみに君はハイエンドドライバーだよね?」と聞いてきたんだ。


僕は鼻をすすってアークに

「NO。僕はただの一般ペーポーさ!」と言ってもらった。


そしたらだ、舌打ちが聞こえたんだ。そして


「チェッ、またハズレかよ。」と言ってスマホを持って通信を始めたのだが。


「おい!こちらメルド。お前たち!こっちへこい!・・・。」


アークが僕に「ジャミングをかけてます!5m以上離れられるとメルドの通信が復旧しますので!!急いで行動を!!」と言われた。アティウス全員集合するつもりだったか!!ドッヂボールかよ!!


メルドはやや怒りながら

「誰か!返事しろよ!・・・え?何で繋がらないんだ?」と困惑気味だった。



んん~~しょうがない。すぐさまナイフを抜刀してメルドと敵対する。


驚いたトゥーマとファルマは何か叫んでいるけど

アークによって説明が入る。


「ハイエンドドライバーでなければ用無しって事だ!!始末される前に逃げろ!!」と言ってくれて、ようやく理解した2人は逃げずに銃を構え共闘の姿勢を見せた。




メルドは気が動転して、力が発揮できず更に3人に囲まれたもんだから銃を抜くもすぐ手を上げさせられて鎮圧出来た。今は僕のナイフを向けられて悔しそうな顔で静かに座っている。



アークがトゥーマとファルマに

「彼を縛れる縄か何かを貰って来てくれ。籠城できる様に食事や毛布、焚火も欲しい。

その後一人ずつアティウスの人をおびき寄せて捕縛するぞ!あと3人だ!!」と言ってくれた。


思ったより忙しい夜が始まった。僕はナイフで威嚇してるだけなんだけど。


これって絵面的にヴィランじゃね??




2人の働きで深夜過ぎには砦の一室で焚火をしながら仲良く捕縛されたアティウスの4人組と温かいお夜食を食べる事が出来た。無駄な抵抗だと諦めたのか素直だった。


アークが思いの他盛り上がる話をみんなにしてくれて、僕は縄で縛られた4人にスープの入った紙コップを口まで運ぶ介護的な作業を繰り返しながら黙って聞いていただけだけど、


「そんな過去があったんすね!!」って最後にはアティウスの一人が僕に同情してもらえるいい形に。


まぁ話していた内容はゲームのストーリーを僕風に再現した作り話だったんだけどね。あとでレトロゲーだって伝えたらみんな興味を持つかな??


まだ僕を睨むメルドが

「おぃ!ハッピークリエイター!」と声を掛けてきた。


「俺達は戻って来たハイドラの奴らに拷問されて始末されるのか?」

他の3人はうつむき気まずい雰囲気が流れる。


「僕が説得する。」とアークが言うとすぐトゥーマとファルマが

「俺達も!!誰もまだ傷ついてない!!話し合おう!」と言ってくれた。


それに心を動かされたのかアティウスの1人が

「避難民に隠れて実はもう1人いるんだ!明日の朝にハイエンドドライバー回収後ここに来て合流する手筈だった。


異変に気付いて早々にここに来るかも知れない。そいつの目的は俺たちと違いハイエンドドライバーでは無いと言っていたが…どのみち朝には来るぞ。助かるならお前らに協力する!頼む!」と言ってきた。


後ろでメルドが

「余計な事を言いやがって!」と顔を顰めた。


「まだアティウスが潜んでるのか?」とアークが質問すると


「違う。MOHだ。今の所、対ハイドラと言う点において我々と協力関係にある。」と言った。


!!!!!日本のMOHも部隊を持つ組織なのか!?


ヤバい油断してた!!

こんな時に「カガミさんバッテリーが!!万が一に備え10%残して電源を切ろうと思います。」

僕はYESの咳ばらいをした。


「トゥーマとファルマ!急いでキャンプに降りるんだ!避難民の護衛を続けてショウたちとコンタクトが取れたらここにいると伝えてくれ!!ここは俺が守る。」










アーク。カッコいいこと言ってるけどそれって全部これから僕がやるんだよね・・・。

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