第125話 伝心期⑩ 以心伝心

竜二が「カガミ、どうした?」と聞いてきている。

僕が道場で悶々とした気持ちで訓練を受けようとしていると、ゴリ先が寄って来た。


「天道。わかってると思うがこっちへ来い。」


あぁ、叱られる。


ゴリ先に付いて行くと階段を下りて個室を借りていたみたいだった、ドアを開くと去年セビエドと

戦った日に会った特殊捜査科の【特オジ】とうつむくツクモともう一人。大人の人がいた。


「天道、挨拶だ。」ゴリ先がそう言うので僕は一応


「天道カガミです。ご迷惑をおかけしました。」と言うと

ツクモが

「だからカガミは俺の口車に乗せられてっ!」


という言葉に被せる様に


「お前が悪いのはわかった。この度はうちのバカが天道君をそそのかしてすまなかった。

ただ、今回の件を天道君はどう考えてるのか聞きたいんだ。」と誰だかわからない大人が僕を少し睨んで話してきて


「あぁ、すまない。私は九重ここのえの父、津雲つくもだ。」と言った。

この人がアティウス副センター長。ツクモの父ちゃんか。


ゴリ先が僕に「座れ。」と僕に言い5人全員が席に着く。


特オジが話し出す

「今回は危険な賭けに出たね。九重ココノエ君の行動は決して褒められたものじゃない。どうして私達大人三人が怒っているのか?わかるかい??」優しいけど、目の奥は全く笑っていなかった。



「俺が、警察の指示に従わずにカガミを騙して母さんの消息を聞き急いだ事だ。です。」場面をわきまえ丁寧語に言い換えるツクモ。


「僕もそれを止めずに話に乗ってしまった事です。」

そう言いながらも、ツクモが言ってこなかったらこんな事にはならなかったのに。と思う気持ちも出てきてしまっていた。


特オジが

「今回は我々の部隊で歯が立たなかった。いや見積もりが甘かったと言うべきか、敵はハイドラで間違いないようだがどうも。納得がいかない事が多い。実際、津雲氏の情報が無ければ奴らがハイドラだと想像もできなかった。何か得られた情報はあるか?」



「あ、あります!あります!」僕がアークを立ち上げようとした時、突然、机を片手でドォン!!と叩く音と共にゴリ先が立ち上がった。他人事の様に軽いノリで返事した僕にムカついたんだろう。



「天道ぉ!!俺はお前は信用してた!!なぜ止めれなかった!!なぜ竜二や佐井寺に相談できなかったぁ!!!!なんで俺に!!!俺に言わなかったんだぁ!!!!!!!!」



ゴリ先はキレていてツクモ達はあからさまにビビっていた。



僕はいつも通りコワくなかった、言われる通り反省はしてたけど五月蠅うるささにイラっとした。



「先生。」僕はそんなに大きな声を出さなくても聞こえます。と言おうとしたんだけどまた怒られるかな。っとそう思い、その先のビジョンを見る事にしたんだ。もし言ったら。


そこに見えたゴリ先は悲しい顔で涙を流してこう言うビジョンだったんだ。


「コワさが無いお前は、のか???」


そう言いながら机を叩いた右手からは少し血が出ていた。


僕はそれを見てハッとなった。





まだまだガキだったんだ。人の気持ちがわかならい、わかろうとしないのを感情欠損のせいにしようとしていた僕がいた。


自分勝手を病気のせいにして正当化して、

友達がそんな僕を許してくれるから甘えて、

認めてくれるからいい気になって、

何でもコワくないから楽観視して、

好かれなくてもいい、嫌われても良いと思って。


ゴリ先が泣くビジョンの中に


その言葉を受けた失敗ルートの自分を見た。


ビジョンの僕は突然僕の方を見てきて泣いた目で僕を睨み、後悔するような顔で


僕に向かって【なに】か言っていた。


これは、避けなきゃいけないビジョンだ!!未来の僕がこっちへ来るなと言っている。


一生かかっても取り返せない失敗ルートだ!

こんなのは、こんなビジョンは初めて見た!!一言で言うなら


【緊張】


ただそれだけだった。


僕の返事一つでこの後の人生まで変わってしまうんじゃないか?


色んな不正解を先生に返答して後悔し、死にゲーの様に悔しい顔をしながら脆くも消え去ってく何百パターンもの未来の自分と永遠の相談をするような。そんな気分だった。




「僕は、僕は、僕は。はぁ、はぁ」急に息苦しくなった。下を向いて息を整えた。



「ちょっと!五月先生!感情的になりす」特オジは年配らしく場をまとめる術を持っていたが、関係ない奴に濁されるより先生と真っ直ぐ話すべきだと感じたんだ。絞り出すんだ声を!気持ちを!!





「僕が間違っていました!!先生に、大人に頼るべきだった。ゴメンナサイ。」頭を下げてゴリ先の返事を待った。あまりにも長く感じるその数秒を耐えた時、


ゴリ先は怒りを一切消して、


僕の肩を掴んで、中腰になり、僕が顔を上げるのを待ってから話し出す。


「天道、お前に親父がいない事は知ってる。だが、親が1人いないくらいで、頼る大人が、仲間が居ないなんて思わないでくれ。お前もいずれ大人になる。その時の立場になって考えてくれ。俺たち大人を


。」と優しく僕の目を見て言ってきた。


「は・・・い。」


気付けば泣き崩れていた。先生に言われて人の気持ちを、その人が本当にの気持ちを理解しようと。情けないけど、






その時初めて思ったかも知れない。

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