第124話 伝心期⑨ フォース

何が切れたのかはわからない。一瞬、ほんの一瞬気を失った感覚があった。目の前が怒りの色で染まって気持ちが悪かった。でもすぐに戻った。おかげで逆にやるべき事が明確になった。他の事を考えなくていい分。思考がクリアになった。


ツクモの心配は、


こいつをどうにかした後だ。


僕は向かってくるエーフォーに向かって構えるでもなく避けるでもない、突撃していた。


僕に向かって蹴りの後、銃を抜いて殺さない様に足を撃ってくるビジョンだったから敢えて向かって行った。


予想外の僕の行動にエーフォーは驚いたのか、銃を撃つけど外してしまう。ビジョン通りだ。

チュンチュンと音を立てながら何発か外した。僕に当たりそうな銃撃もバイヤーさんがエーフォーの邪魔をして僕の壁になろうとしてくれていたおかげでエーフォーは撃てず助かったんだ。


「やめてやってくれ!話してわかるはずだろ!!」

バイヤーは身を挺して僕を庇ってくれた。


クチバシマスクのエーフォーはバイヤーに向かって

「お前もさぁ?殺してやっても良いんだぞ?」と言っていたが

フォースはすぐに


「2人とも無駄に殺すな!!」と言ってる。ツクモは無駄に殺したんじゃないのかよっ!!


僕はいつでも動ける様に木剣をだらんと地面につけて構えていたけど、模擬戦でツクモがやった木を折って使う事を考えた。鋭利にしないと使い物にならない。


次の弾道が僕の右足を狙うビジョン。


弾道を読んで僕の右足と木剣の位置をすり替える。木剣の切っ先に銃弾が撃たれ、手元から弾ける様に飛んで近くにカラカラと落ちる、先端は焦げ、一部が鋭利になったが、銃弾の衝撃を受けた僕の手が少し痺れた。


「何だこの速さ!この動きは!!お前は誰だ!!別の組織か?!」


エーフォーはまたもや外した事に疑いと焦りが見えた様だった。しかしシームレスに攻撃が繰り出されていて


代わりに腹を蹴られたんだ、「うぅっ!!」クソッ!っと思いながら後ろに飛んで威力を減らす事には成功した。


ゴリ先によくやられる腹への攻撃のいなし方を体で覚えていた。


焦りながら浮遊感を味わう中、ビスケットの硬化マントをON!


直後  チュンチュンチュン!!っと三発銃弾が撃ち込まれた。音は大きくない。サイレンサーか??


かなりイラついてたのか僕を殺す気だった。


重くて辛い。


僕は何やってんだよ。やるなら最後までやれよ!!!と思って


あと一発だけ喰らう事にしたんだ。


着地もワザとダサめにドサッと落ちて、撃たれてよろけるふりをした。案の定、エーフォーは

『ウザいんだよ死ね!』と言ってすぐ僕に撃ってきたんだけど、最後の一発は着弾した。

「ガキン!」


僕に当たった銃弾は全てこの音だった。今更ながらエーフォーは違和感に気づく。

「なんでだ?生きてるのか?」


至近距離の銃弾が防げなきゃ意味がないと言っていたネネちゃんの賢さが身に染みた。


ただ、銃弾は防げはするが、衝撃は体全体で我慢しなきゃいけない。


後ろでフォースと呼ばれた青年とバイヤーは僕を殺したかと思ったのか


「なんて事するんだ!!!!」「やめろ!!!!!何の為に殺す必要がある!!」と大きな声で制していたがエーフォーの耳に届いていたのかはわからない。


そして


カチカチという音を聞けた。銃弾が終わりを告げる音だった。

全部ビジョン通りだ。


いち早くマントの硬化を解除して5秒間倒れた振りをした。


そして、


僕は速攻で

銃で撃たれた木剣に向かって走り出し拾うと、すぐに角度を変えて接近する!

敵の見えないマスクの下にギョッとした感情が見えた気がした。


「ツクモを!かえせよ!!!!!!!!!!!!!!」

と言いながら次はエーフォーに向かってマスクと下顎のスキマに焦げて尖った木剣をブッ刺した。


「しまっ!!うっ!!!」驚きと痛み声を出して、倒れる前に何度かよろけていた。


僕はその足を蹴ってさっさと倒したんだ。ビジョンが最高に冴えていた。訓練で磨かれた気がしたんだ。エーフォーは喉を抑えて


「ウグァーー!!」叫びながら地面に臥してもがいていた。


僕は血を垂らして苦しむエーフォーを見て、もう、死んでもいいと思っていた。


次にフォースを睨むと奴は一歩下がり


「お前は何者だ?!」と聞いてきた。


バイヤーは急いでエーフォーの止血をしながら船に戻っていく。


僕は全く教えてやる気なんて無かった。

「は?関係ないだろ?言ったらツクモは戻ってくんのかよ!!!」


フォースは右手で何かを出そうとしていた。

「ツクモを返せよ!!!!早く!頼むから!!」僕は泣いてそいつに怒りをぶつけた、すると


「気絶してるだけだ!殺してない!お前もこっちに手を出した!どう落とし前をつける!」



僕は「へっ?」と急に冷静になった。ならざるを得なくなった。僕だけが相手に血を流させて勝手にキレてた。


「お前の勝ちでいい!もう手を出すな!俺たちは帰る!」


とその時、間の悪い事に、警察達が銃声を聞いて僕らを見つけてきた。先頭の一人が銃を構えてきたんだ。


「止まれ!警察だ!!」


警察は僕を見て、判断が付かなかったのか危険に感じたのか僕にも銃を構えてきたんだ。両手を上げた。


「え、僕はツクモと、」違うな、自宅で待っとけと言われたんだ。ここにいる事自体おかしい。


そこでフォースは何かの金属を構えてきた。


なんだ?あれは?


と、その時、またさっき聴いたキーンと言う音を感じた。

ビジョンで理解できなかった。

コンテナの隙間に並ぶ様な形で一列に突撃してきた特殊警察の強者たちがおもちゃのドミノの様に倒れていく!


すぐさまフォースを見直すと次はその金属が顔の前で僕に向けられていて

「おまっ!何をし」その言葉が最後だったのか






僕の意識はそこで消えた。




















「カガミさん!カガミさん!」

僕は咄嗟に「アーク、か。 !!!!ツクモは!!」と叫んだ。


周りを見るとツクモが

「あ、あれ?あ!カガミ無事か!」と起き出して

警察はまだ寝転んでいたんだ。すぐにツクモの傷を確認したが、僕の蹴られたお腹以外、2人とも無事だった。


「カガミさん。警察を起こしましょう!きちんと謝ってください。」


「そうだった!ツクモ!警察の人を起こして無事を確認しよう!」


「ああ!その、カガミ・・・後で謝るよ。」


僕は頷いて


警察を全員起こしに行ったんだけど8人いる警察とハイドラのバイトはスヤスヤ寝て気絶していて、全員起こすまで少し時間がかかってしまった。


警察は「状況を聞きたい」と自分達が通用しなかった事の反省と共に状況把握を希望され最後まで覚えていた僕が話す事になったが、なぜ自宅で待機できなかったのか?と聞いてきた時には


「俺が誘いました。あいつは関係ないです。」とツクモが全面的に庇ってくれて


離れて一人で座っていた。


暫く経つとツクモが寄ってきて、


「警察にはカガミが敵を傷付けた事は正当防衛で不問にされて、今回の件は自国民に被害はない為、内々で済ます予定。って言われた。あと、死人が出なかった。ありがとうとも。」


そして僕らはなんの収穫も無いまま、大した話も喋ることもなくそれぞれの自宅についたんだ。



母さんの顔色を伺いつつ、今日の話をしたのだが、アークが僕を守ってくれた。


「カガミさんの判断は誉められたものではありませんが、ツクモさんが拉致される可能性が非常に高い中、それを防ぐ事に成功しました。ちなみに警察では100%不可能でした。私たちAIから客観的に判断して、今回は成功した。と言えます。」



母さんは不機嫌になったが、母さんのアークも

「京介さんなら褒めたと思います。」

と言う【嘘】をついてくれて、なんとか納得してもらったんだ。



その夜はまたモヤモヤして眠れなかった。

あの後、僕の傷付けたエーフォーは、いやエージェントかもって言ってたな。【A4】か。

あいつは生きているのだろうか?

怒りに任せて人を、殺めてしまってはいないだろうか?

フォースは僕らの年に近かった。彼はハイエンドドライバーなんだろうか??

バイヤーは日本人だった。なんであいつらに協力してるんだろうか?

なんで僕を庇ってくれたんだろうか?

僕らは、一体何によって倒れて、どうして生かされたのだろうか?



後日

アメリカ行きのコンテナ船は海上保安庁の船に捕まって港に帰ってきたけど、ハイドラの2人は乗っておらず、消息は掴めなかった。

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