第123話 伝心期⑧ エーフォー
5月1日
ゴールデンウィークで混雑する中、渋る母さんの許可を得て電車で遂に港まで来てしまった。
コンテナがたくさん並ぶコンクリの波止場を僕とツクモは歩く。
「家から小一時間かかるとは、近いようで遠いんだね。」
一応、一般人を装う為、リュックに硬化マントと模擬戦で使った〔木の剣〕を隠し、僕は帽子姿で海をバックに写真を撮って、友達同士の散歩を装った。ハイドラに目を付けられたらたまらんからね。
「どうだ?」
「うん。良いポーズだ!」
靴下をひっくり返したような形の紐かけに片足を乗せて遠くを見るツクモは絵になっていた。アークに名前を聞くと【
「いや違うって!!」気が立ってるツクモにボケは禁物だね。
「冗談だよ、今の所順調にこっちに向かってる。正解みたいだね。敵を見るだけでも十分な進歩だ。無理だけはしないでくれよ!ツクモ!聞いてる??」
「ああ。」
「あのコンテナ船が目標の可能性が高いです。現在あのコンテナ船はアメリカと行き来していることになっておりますが、船長の名前の方が先日失踪しており、地元でニュースになっておりました。」とアークが言っている。
「海外ニュースまで把握してんの!?さっすがアーク様!!」
「アーク助かる。」ツクモはいつもとは違って緊張していた。
目の前の大きな船にはたどり着くまで何個ものコンテナが所狭しと並んでいて容易には近づく事が出来ない上に袋小路が多い。海に面した場所で釣り人か、写真を撮る観光客が一番自然だとの判断だ。
まぁアークとツクモが話し合って僕はカモメを見てただけだけど。
「そろそろ来ます。」僕も少し緊張してきた。
「ツクモ、変わった匂いは??」
「今んとこ!!!!」ツクモが見たコンテナ船の先、2人の人が船から出てきた。
「どうしたんだ?」
「はぁはぁはぁ、ちょっと待ってくれ、息を、はぁ、整える。」
「ツクモさん頻呼吸です!暫く口をふさぎ自身の呼気を吸い戻してください。息はゆっくりと!このままですと過呼吸になります!」
僕はツクモとリンクすることにした。身長の高いツクモの肩に手をかけて
「いい写真取れたよ!」と言おうとすると急に
危険な【匂い】を感じたんだ。初めてだった。言葉では言い表す事の出来ない恐怖の匂い。
死神に無い目で見つめられた様な吐き気のする匂いだった。
「なん だこれ????」
「カガミスマン!おかげで怖くなくなった!!!風下で良かった。さりげなくあいつを見ろ。」
そこにはフードをかぶった身長の高い男が、あいつだ!あいつから恐怖の匂いがする。ツクモのリンクか!?
あいつは今この場で、人を殺そうとしているそんな気配だった。
しかしその隣の小柄なアッシュグレーの頭髪の青年?顔は東洋人か?そいつは
『まぁまぁ落ち着いて』、と言った感じでフードの奴を宥めていて一気に空気が元に戻った。
胸ポケットに入れてカメラを通じて進行方向をみることのできるアークは無音でカメラを撮っていたみたいで。
「写真に納めました。お二人の反応から、彼ら2人がハイドラの可能性大です。」と小さく言った。
「よしっ!」ツクモはそう言うと僕に
「ここで待つか、隠れるか、逃げるか、何でもいい!安全なとこに行ってくれ!」と言った。
「ちょっとまって!おかしいよ!!賢いツクモのとる行動じゃない!!」と言ったけど掴もうとした手は空振りして服を掠っただけだった。
どうする!!ツクモが何か、いつもとは違う切迫感を持ってコンテナ船に近づいていく。
その間、僕はあたふたしか出来ていなかった。
「そうだ!アーク!ツクモのスマホで音声を盗めるか!?」臆病で卑怯かもしれないが隠れながら僕は必死でない頭を回転させる。
「仰せのままに。」アークがそう言うとスピーカーでツクモ周辺の音が聞こえてきたんだ。
遂にツクモが2人と対峙して
「カスガ イノリは無事か!!どこにいる!?」と怒鳴る様に聞いたんだ。
くそ!ツクモ!お前クレバーじゃなかったのかよ!!家族の事で冷静さを欠いているだけか?!
2人のビジョンに集中しろ僕は一度隠れて、コンテナを登り、コソコソと木剣を投げれる距離まで隠れて近づく!
たのむ何にも起こらないでくれ!!
と登っているコンテナの近くの方で足音と声が聞こえてきた。
ハイドラのバイトが
「この先迄、連れてきたらお金はもらえるんだって言うから。簡単な仕事だったよ!お兄さんにも何かご馳走しようか??」
囮警官は「いやいい、もうすぐか?」と聞いていて
「この角を曲がったらもうすぐだ!」
とちょうどコンテナ船の近くまで来たんだ。
やった!ここで何とか警察が押し寄せれば!均衡を保てれば逃げるスキはできる!
とまた楽観的に考えてたんだけど、
「イノリさんの知り合いか?どうする?」と青年が聞くと
「殺そう。」とフードの男が呟いた。
マズイマズイマズイ!!!コンテナからバレない様にそいつを見た。
その時フードの中身が見えたんだ。それは一度見た事のあるモノだった。
足元から虫が這い寄る様な鳥肌が僕の体全身を隈なく覆う。去年の夏、エーセブンが付けていた
クチバシマスクだったんだ。
ツクモが
「イノリさんか。知り合いみたいに呼ぶじゃねーか!」と言い放つが、
2人は返事をせずツクモを挟む陣形に流れるように移動する。
「まて、殺すかどうかは俺が決める。時間まで待つんだ。」青年はそう言っていた。
ヤバい。僕は落としそうな胸ポケットのアークをズボンのポケットに入れると自分の保身だけを考えた。一目散に逃げて!!・・・・。
逃げてどうする?????
僕はそこでふと考えた。ここでツクモを見捨てると、確実に【後悔】が待ってるな。と。
コンテナの上で仰向きになりながら空を睨んだ。
おもむろにリュックから取り出したマントを羽織り、フードを被ってマスクをした。そして武器になるかわからない
歯をギリっと噛み締めた時、味もしないのに血が出たのがわかった。
ツクモのスマホで拾われる声にもう1人の新たな人物が現れる。
「あー、日本は平和ボケしてるんであんまり騒ぐと面倒ですよ~穏便に済ますなら俺がやりますけど。」
なんだかゆったりした話し方で聞いてて悪意が無い。けど船から出てきたんだよな?奴らの仲間か??
アッシュグレイの髪の青年は
「【バイヤー】か。部外者は黙っててもらおう、
エーフォー!ヘルサイはよせ。こっちに寄こすんだ。エージェントはみんなそうなのか??エーセブンは短気だった。」と言った。
「OK。ほらよ。だが次に7位なんかと俺を比べたら許さないからな。」とクチバシマスクが【ヘルサイ】と呼ばれる何か武器の様なものを手渡しながらそう言い返した。
ツクモは完全に取り囲まれた。
しょーが無いな。
一番近いコンテナから棒を掴んで猫足で降り僕は声を振り絞る。
「帰ろう!僕たちのいて良い場所じゃない!」
そこで対峙したのはクチバシマスクと東洋人の青年、後から出てきた船乗りの様な逞しい体つきの【バイヤー】と呼ばれたおじさんだった。
ハイドラと思われる2人は僕に気づき睨んできたが、バイヤーは僕を見ると真剣な顔になって首を振った。
それは【子供が来るな!】って感じだった。
エーフォーが口を開く
「だとよ!だが何でここにいるかだけは教えてもらわないとな。なぁ【フォース】!」
グレイアッシュの青年フォースは
「ああ、ママからはこんな話は聞いてない。注意しろ!受難の相が出てたらしいぞ。俺が金髪を、【エーフォー】がそっちを。」そう言うといきなり二人は動き出した!!
くそっ!どのビジョンで安全は確保できる!?僕はゴリ先に言われた高速で動く目線を見られない様に意識して、突撃してきたエーフォーと呼ばれた男の蹴りを躱す。
「ピュ~!」躱した瞬間口笛を吹かれた。
「おい!!何だこいつ!!ガキだと思ったらこの手ごたえ!!日本なんてっと思ってたが、来てよかった!楽しめそうだ!!」
バイヤーのおじさんは「おぃ!!子供に手を出すのはよせっ!!」といいながら僕のフォローに入ってくれた。
そう言ってエーフォーはまた僕に向かってくる!!
と、その時!キーーーーーーン!っていう耳鳴りがしたんだ。
直後ツクモが膝から崩れて倒れていた、
「え?」こ、殺した??
「殺したのか??」僕の中の何かがプツッと切れた音がした。
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