第115話 惜春期⑮ 惜春の6時
行きしなに通った長ーい橋を3人で話しながら渡り切った後に見えるショッピングセンターを目指す。
去年の冬に竜二と佐井寺兄妹で行ったショッピングセンターだ。
あの時アオリちゃんも来てたんだなぁ。
気を失ってエーコちゃんにすら会えなかった。んん~注意せねば。
母さんとアオリちゃんが前に二人並んで、僕はひもで引っ張られた散歩犬の様に歩く格好だったんだけど別に彼女の軍門に下ったわけでは無いし彼女のパチモンになったわけでも無い。あ、パチモンはパートナーだからリードなんて付けないか。いやいや元サイフォーンレーサーのサキさんはリードを付けてたぞ!!あれはレース用か。
なんでひもを引っ張られてるかと言うと、アオリちゃんの希望でリンクラインを使ったままだったんだ。
僕は少し会話から離脱して橋の下を見下ろした、下には道路があってビュンビュン車が通っていて、ここからもし落ちたらって想像したんだけど、リンクしてるのにやっぱり何にもコワくなかった。
つまりアオリちゃんは僕と一緒で【恐怖】の感情が無い。感情と強化能力は紐づけされているのか?
ゼロは恐らく僕と一緒だった。たまたまなんだろうか??なんで奴が、年上のゼロが、強化能力を持ち合わせているんだろう、しかも同じ先行視覚を。
父さんの生き様を知れば知るほど父さんを殺したゼロが憎い。僕はいつか奴と会った時にどんな行動をとるんだろう。血が昇って勝ち目もなく、ただ返り討ちにあうのだけは避けたい。
「僕が今、出来る事を考える。か。」なぜか父さんが言った言葉が頭をよぎって口に出してしまう。
暗い気持が急に晴れてきた。アオリちゃんがケタケタ笑ってる。口にてをあてて
「フフフフフ。」って言ってた。
「どうしたの?」
「いや、あのね今カガミが中学校に持って行った釣りホタルの話を」
「言うな言うな!!!」ってか笑ってるって事は事後ですね。
アオリちゃんは笑っちゃいけなかったと思ったのか僕に気を使って
「大丈夫よ!カガミ君!セーフだから!!限りなくアウト寄りのセーフだから!!!」って言いながら目をつぶって両手を胸の前でブンブン振っていた。
「じゃあ変態紳士って呼ばないで下さい。」アウト寄りなのね。
母さんは自分で言ったくせにまだ笑ってた。
橋が終わり水族館を通り過ぎて、ショッピングモールに着く前に観覧車の乗り口があった。
「あ、観覧車乗る??」と僕が聞くと
「乗ろう乗ろう!!噂によるとてっぺんからの記念公園の桜はヤバいくらいキレイみたいよ!!フォロワーさんがおススメしてくれたわ!!」と言い僕はメチャクチャ楽しみになってきた!
アオリちゃんも乗りたいらしくって白猫のポシェットからお財布を出そうとした所、母さんがドヤ顔で
「お嬢さんここは大人が。」と言って手を前に出して止まれのポーズをしてきたんだ。
僕も
「母さんに払ってもらおうよ。僕なんてこれぽっちも払う気無いよ。」と言うと
「カガミの分は来月のお小遣いから天引きで。」と返され、給与所得も無い中学生の時点で初めての天引きを喰らったんだ。
「まじかよ。」と言うか前借りで良くない?
そんなバカ親子のやり取りをずっとリンクをしたままのアオリちゃんはクスクス笑ってた。結果オーライだね安い安い!
リンクラインは纏めてポケットにしまい、母さんからチケットを渡されて順番に並んでたんだけど、観覧車の床が透明だったから母さんが
「なんか怖いね!」って言ってきた。
僕はアオリちゃんも【コワい】って感情無いんだけどと言おうとしたけど、まぁ母さん自身がが怖いんだし言わせておこう。と考えて「そうだね~」と適当に返事してトコトコ歩き、観覧車に乗り込んだ。どこに座ろうかな~と思いながらも外の景色を見た時、
「だましたな~~~!」ってビジョンが見えたんだ。
こんなところで母さんかアオリちゃんと言い合いになるのかなぁ?なんて思ってたらドアが閉められて振り返ると
「先にポテチ買ってくるから~。」と言いながら手を振っていたんだ。
みかんめ~~~~~!!
「だましたなぁ~~~!」母さん、これはマズいよ!結構ピンチだよ!閉鎖空間で女子といるのは初めてなんだ!!僕は脱出ゲーは嗜んでいない!!!
そんな僕を見てアオリちゃんは白猫のポシェットをぎゅっと両手で握りしめながら
「ごめんねカガミ君、いや、だった??」と心配そうな上目遣いで聞いてくるもんだから。
「いえ、アイム ジェントルマン。」と謎の返事をして
あ、リンクしてあげなきゃ笑っても涙が出るんだったね。
蓋を開ける迄、笑ってるのか、本気で泣いてるのか、どっちかわからない恐怖。
あ、コワく無いんで関係なかったよ。嫌われたらその時だね!嫌われてたら竜二の『腹』を何発か殴らせてもらってストレス発散させてもらおう。『原』だけに。
リンクラインをまた出そうとすると無表情で首を横に振って僕の手を握ってリンクしてきた。
「アハハハハ!!」笑ってたんだ!セーフ!!でも、
「あっ。」
チョット焦ってますよ!アオリちゃんからリンクなんてラッキーすぎる!!
父さんへの罪滅ぼしなのか??もう時効だと思うけど。
そして僕がドキドキしながら座ると隣に座ってきたんだ。んん~これはイミフだぞ別の事を考えよういつぞやの冗談じゃ無いけどホントにオオカミになりかねない。
そうだ素数もしくは、あいうえお作文だ!じゃあイミフの
【イ】! 今はまだエクセレント級だけど
【ミ】! 未来ではグレイトフル級に育つ
【フ】! ファンタジー級はその成長過程。
なに言ってるんだ僕め!!アオリちゃんの事しか考えてないのか??
いやむしろ胸の事しか考えてなかったんだけど。
「ちょっと寄って良いですか?」ムネですか??おっとぉ~!口にしそうになったあぶね~!!しかもリンクなう。雑念が伝わらなきゃいいけど。
「あ、そっち側見えにくかった??」
そう言ってアオリちゃんの位置から外を見下ろすと、
「うわぁ!段々桜が見えてきた!!」笑顔のアオリちゃんの視線の先には初めて見る景色が。
さっきまで近くで見ていた桜をドローン動画の様に上から、それもたくさんいっぺんに見る事が出来て、驚きと感動で結局二人して立ち上がって暫く眺め続けた。
「キレイ。」「スゴイね!」
こんな時、単純な言葉しか出ないのは僕だけじゃ無かった。
上から見下ろす桜は、幹が見えにくいおかげでたったの一色で眼下に広がって、まるで大量に上から落ちてきたピンクの綿菓子が誰にも手を付けられずにそっと地面に広がっていて、神様もお菓子をこぼすのかなぁ。とまた脱線した考えで上を見上げたんだ。
まぁ見上げた上はただの青空で、バカな事をいつも通り考えてるなぁと思って下を見ると同じように上を見上げてたのか目を瞑ったアオリちゃんの顔がすぐ目の前にあって、ギリギリの所で当たらずに済んだ。
ちょうど観覧車が頂上に達した放送が流れる。
サッと僕が顔を引いた時「あっ、ゴメン!」と言うと、なんだか残念な気持ちが伝わって来た。
アオリちゃんはまだまだ見たかったんだなぁ。僕も桜を見足りない。残念なのは一緒だよ。
でもさっきは危なかった!ゴリ先の足の様にキスしちゃうとこだったよ。いや、ダメじゃ無いんだけど、アオリちゃんに限って僕なんかとキスしたくは無いよね。今この瞬間にヒカルに殺意が湧いたのはきっとイケメンだからだろう。
「あ、写真撮る?」そう言うとチョット不機嫌になった感じで声には出さず首を振ったアオリちゃん。
いや、伝わってしまった殺意はヒカルに対するもので・・・。リンクも一長一短だね。素直に嫌われよう。
僕は母さんに見せる為、一球入魂で一枚だけ写真を撮ってスマホをまたポケットにしまった。
なぜなら彼女は僕の手を放さずリンクしたままだったんだ。ん~~よくわからない女子の感情。ネネちゃんに今度聞こう。
ゆっくりと上昇だった箱の動きが下降に変わっていったが、僕らは窓際に立ってギリギリまで桜を見ていた。少ししてちょっと不機嫌なアオリちゃんが話しかけて来てくれた。
「私って凄くワガママなの。自分勝手で優しくない。」
「え??そう?優しいと思うよ。」
「めんどくさいくらい寂しがりやだと思う。」
あんまり知らないアオリちゃんの自己評価を聞けた僕は少し考えた。
小さい頃から恐怖が無いから周り子の気持ちがあんまりわからなかった。アオリちゃんも僕と一緒だ。友達もたぶん多く無いんだよね。
「しょうがないよ。恐怖が無いのは。でも友達ならエーコちゃんもいるし、他のイチゴサイダーも5人もいる!みんないい奴だよ!父さんが必死で救った仲間だ!これからは寂しくなんて」
元気づけようと無い頭でひねり出した言葉はアオリちゃんにどう伝わったのか、(無いよ!)と言おうとする前に返された返事は、
「私はカガミ君といたいの。」
遠くを見ながらそう言われた時、いつの間にかリンクは解除されてて彼女のホントの気持ちを、意味を、その時の僕は、知る事が出来なかった。
時計の六時の方向に観覧車が返ってくる寸前、最後に見えた桜はどうあがいても強制的に運ばれる観覧車のせいでもうこの先ずっと見る事が出来ない様な、そんな気がして。
キュッと胸を締め付け、味も分からないくせに僕は、
春を惜しむ気持ちを味わったんだ。
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