第110話 惜春期⑩ ファイル2

南側正門ゲートをくぐると圧巻の塔がそびえたつ。

もう50年以上も前に万国博覧会ってのがあってその時立てられた塔みたいだけど

青空の中、その塔だけは人間が消滅した世界でも何年も何百年も壊れずに残りそうなそんな威風堂々とした出立ちだった。


アオリちゃんを見ると

「うわ~~~。ちょっと苦手かも。」と言って【怖さ】は無いんだろうけど見上げててコワがってる感じ。


確かに怒った顔の部分は普通の人が見たらコワいのかなぁっと思って僕は小学校で習った社会の授業を思い出し話す事にした。


「あの塔のお腹の顔は『現在』背中の顔が『過去』を表してるんだよね?てっぺんの顔は『未来』だったと思う。社会の授業で習ったよ。


確かに現在と過去の顔は怒ってるみたいで僕もコワいような気がする。」


と言うとアオリちゃんが

「習った習った!わたしが一番苦手なのは・・・てっぺんなんだぁ。」と話して上を見上げていた。僕的にはマヌケな鳥の顔みたいで一番優しそうなのになんでかなぁと思ったんだ。



緩やかに右に登っていく坂道を歩き母さんがアオリちゃんにぺちゃくちゃ話しながら桜のたくさん見える所までやって来た。


そこには満開を少し過ぎた桜が並木道になって咲き誇っていて、はらはらと花吹雪が飛んで映画のワンシーンの様だった。


フワッと落ちてきてアオリちゃんの白髪の毛に舞い散る花びらの一枚が乗った。頭には何枚も既に付いていて僕も頭に乗ってる気がした。

後ろから見たアオリちゃんは初めて会った日のように青いリボンで髪の後ろをまとめていて、

僕は桜を見ながらなら正直な感想でもバレないかと思って。

「キレイだなぁ。」とボソッと呟く。


日本らしい筆絵がベースの【犬神】ってゲームでも真っ白な犬と桜はキレイに描かれていたなぁ。好きな人が多い理由がわかるよ。


しばらく続いた桜並木を左に逸れて

母さんは周りを見ながらシートを引き

「ここでいいかしら?」と言いながら座って、それに習って僕らも座る。


母さんは、アークと何やらコソコソ話していて、

「あ、カガミ、これ持って来たわよ。アークが持ってきてって。」と僕の部屋から持ってきたのかリンクラインを持ってきていて、スマホをポイっとシートの上に置いて靴を揃えていた。



「はぁ。」と言いながら預かって僕はリングに指を通してなんで持ってきたんだよって顔で母さんを見た。


アオリちゃんが持ってきてくれて途中から僕が持たされたバスケットを母さんはワクワクしながら

のぞき込んで「お弁当見てもいい!?」とキラキラした目でアオリちゃんに聞きくとアオリちゃんは小さく返事をする。


「お口に合わなかったらごめんなさいって・・・。」


「師匠のお食事に間違いは無いわ!あ、これ除菌ティッシュね。

ドコカラファイナルのオリジナルブランドでフォロワーさんのオススメで初めて使ったけど、厚手で安くってなかなか良いわね。」


母さん何言ってんだよ。あ、朝ドコファイ行ったんだ!敵陣だから行きづらいって言ってたけど遂に足を踏み入れたかー。そんな事はいいとして、


「花より団子系の母、みかんです。」と紹介しておいた。母さんはことわざあんまり知らないから

「どうもー♪」と言ってた。


アオリちゃんは

「寿 アオリです。今日はお誘い下さってありがとうございます。」


「こちらこそ突然呼んだのにお昼まで用意してもらっちゃって!ごめんね。」


と言いながら母さんは既にバスケットの中のサンドイッチに手をつけて一口食べていた。


「母さん!いただきますくらいしようよ!」


「あ、ごめんごめん。そーだ、カガミースマホ取って〜アーク起動、なんか音楽かけてー。」と言うとシートの上に横たわったスマホが起動して僕はそれを持って母さんに渡そう手を伸ばす。


渡すとき母さんのスマホの画面に反射した僕とアオリちゃんが一瞬だけど映った。


その時、母さんのアークが話し出したんだ。


「条件がそろいました。ファイル2 再生できます。」と言うと

母さんは僕らの方を見て少し考えてから、

「お願い。」と言い、

「ファイル2再生。」母さんのアークが動画を再生し始める。


スマホから流れてきた映像は



居酒屋だった。






「イエーイ!カガミ~!」「へイへーイ!アオリ~!!」そこに映ったのは僕の父さんと、たぶん隣で恥ずかしがってるアオリちゃんの、お父さんだ!


「え?天道さんこの動画どうやって未来に飛ばすんだい?」お酒を片手にアオリちゃんのパパが聞くと


「寿さんが知らない裏技があるんですよゲへへへへ。」と父さんは返事していた。カメラを向き直して、


「おーい!!お二人さーん!えっと寿さん中学生って何歳ぐらいでしたっけ??」と僕の父さんがアオリちゃんのパパに絡むと


「え~~全く頭回んないんですけどアハハハハ!!」「ギャハハハハ!!」と2人で大笑いしていてそれを見た母さんは

「京介君めっちゃお酒弱いんだけど、2人ともかなり酔っぱらってるわね。」と言い

「パパもです。帰ったら叱ります。」とアオリちゃんは真顔で呟いていた。


バカ親コンビの話は続く。


「十何歳かの君たちへ継ぐ!!

今日は嬉しいお知らせが2件もありま~す!!」

「いやっほぅ~!!!」と更に盛り上がっちゃってる。若いな二人とも。


「じゃあ心して聞いてくれよ~!ダララララララララララ!ダンッ!!

①カガミとアオリちゃんの手術の方針が決まりました!法整備が整ってドナーがいればですが。

「いえぇーーい!!」


アオリちゃんのお父さんもはっちゃけてるね!


②!これが一番ビッグなお知らせだぞーーー!

今日ここで君たち2人が




許嫁いいなずけになりましたー!」





「はぃ?!」素っ頓狂な声で驚いた僕がアオリちゃんを見た時、ほぼ同時に

彼女も僕を見て「えっ!!」っと驚いていたんだ。

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