第109話 惜春期⑨ お花見

結局昨日は口下手なゴリ先が仕切ってから、反省なのか今後の目標なのかわからず各々で口にした反省点を改善する為に、みんながんばれ~的な締めくくりで反省会を終えたのだが。


貰ったありがたい言葉といまだヒリヒリする愛の鞭、そしてハイドラへの警戒と注意を聞いた僕は今日昼前から母さんと市で一番大きな記念公園に向かっていた。


今日は母さんが当然思い立ったお花見の日だ!


お弁当はなぜか作って無くって不思議に思った僕は

「アークにお弁当の準備頼んで無かったっけ??」と聞くと

「なんと!!持ってきて貰える事になったの!すっごく光栄な事よ!!絶対おいしいんだから!!」

といって大興奮だった。


僕は最近流行ってるムーバーイーツかなぁと思いながらタクシーから見える記念公園の塔を眺めた。もうすぐ着くな。


何でこんなにテンションが上がってんだ??と思って母さんを見たけど、ウキウキしてる母さんに話すとまた意味不明な妄想の話を聞かされるような気がして放置しておいた。


タクシー降り場から公園南側の中央ゲートを目指してトコトコ歩いて

「だれか呼んでるんだっけ??」と母さんに質問をした。


記念公園には高速道路を下に見て200mくらいの距離で、横幅10mの橋を渡ってようやく着くから春の暖かい日差しで喉が渇いてきてる僕は、橋の下に見えるたくさんの車を眺めながら何の飲み物を飲もうかなぁ~と、母さんに質問した内容とは別の事を考えていたんだ。


母さんは

「そうそう!それがね!私もパンやカレーを開発する時に料理の本を洗いざらい読んだのよ!

それで実用的な電子レンジを活用した簡単料理の本を何冊も出してる料理コラムニストの方がいて、開発そっちのけでハマっちゃって!なんたってその人、料理系No.1ブロガーなのよ!!!テレビもバンバン出てて情熱アイランドにも出てたの!神よ!もう神レベルよ!!


【師匠】の料理のレシピ本をいくつか買ったんだけど、隙間に書いてるコラムもおもしろくって!!!最近ごはんおいしいでしょ!?あ、私その人を【師匠】と仰いでるの勝手に。」

勝手だなぁ。いつもの事だけど。


僕は

「ごめん、味わかんないんだけど、でも確かにいい匂いもするし、昔と比べてテイストが変わった気がするような。」と言っておいた。


「まぁカガミにどんだけおいしい料理出してもわかんないわよね~残念だわ。レベルアップしてるのにねぇ~。あ、で、それでよ!なんと今日はその方が直々に作ってくれたお弁当を持ってきてくれるの!!」


「え!本人が来るの!?呼んだの!?」そんなにNo.1ブロガーって身近にいるもんなのか!?


「いいえ。私知らなかったんだけどね、今日呼んだ子のお母さんがなんと【師匠】だったのよ!!!」


「えぇ~~!!」って誰だよ!そもそもその子。と思っていると不意に

角を曲がった後、記念公園の券売機の近くで僕がその子を見て喜ぶビジョンが見えたんだ!



母さんは「師匠はお忙しい身だから誘ったけど今日はキャンセルで、『今日はお弁当を持たせて娘だけ行かせます。申し訳ありません。』って丁寧なご連絡をいただいたの。母さんまたブログのネタが出来たわ!!」


僕はそんな事どうでも良くって母さんをほっといて「僕先に行くね!」と走り出した。


長い橋を見た時は結構遠いなぁと思っていたけど楽しみな気持ちだと案外すぐだった。

曲がり角を曲がるとそこにいたのは白と水色のワンピースに水タイプのパチモンがセンス良く刺繍された服を着て小さなポシェットとバスケットを持ったアオリちゃんが立っていたんだ!!


「アオリちゃん!!」

僕は柄にもなく大きな声で呼んでしまって

あ、アオリちゃん恥ずかしいかなぁ?と一瞬思ったんだけど、

「あ!カガミ君!!」

人にジロジロ見られて居心地が悪そうだった雰囲気が一転、知り合いが来て安堵の表情に変わって僕の方に手を振って寄って来た。白髪ってのもあるしカワイ過ぎてみんなに見られるもんね~。


「こんなとこでどうしたの!?」僕は嬉しさのあまり何て言ったらいいかわからずアホな質問をしてしまった。


「えっとね、えっと。あ、カガミ君のお母さん。」っとアオリちゃんもドギマギしてぶつけた質問を返される前に母さんを見つけた。残念ながら会話のキャッチボールができていなかった。


これじゃあ会話のキャッチボールどころか、もはやしてないけど。


遅れてやって来た母さんが、

「おまたせ~」って言いながら近づいて来て

「久しぶりね!アオリちゃん!カワイイ~~~~~!!!!今日は突然呼んじゃってゴメンね!」と言って両手を合唱した。


アオリちゃんは

「こんにちわぁ。」と言いながらも恥ずかしがって僕の後ろに隠れてアワワワワって感じで、

更に母さんが追撃する。


「あ!もしかしてそのワンピ新しく買った!?かわいいわ!!カガミあなたもなんか言いなさい!!キレイよ!それ払うわ!ごめんね。」

って話しかけてて、僕は何を訳のわからない事言ってんだよと思って


「こらこら母さん。突然喋りすぎだよ!」と叱っておいた。



「だって何年ぶりかしら?7歳くらいにカガミが自販機でフラついて倒れた時以来よね?なんと!!今日はこちらの可愛いアオリちゃんをお呼びしました〜!!さぁ散っちゃう前にお花見いこー!!」


と言いながら券売機で僕らの分も合わせて記念公園の入園券を買いに行った。


券売機と母さんが戦ってる間に僕は

「母さんがなんかお花見呼んじゃったみたいでごめんね?迷惑じゃ無かった??」

と聞くとキレイな青い瞳を僕の方に向けて



「ううん!すっごい楽しみなの!!」と言ってくれたんだ。

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