第106話 惜春期⑥ 音で心を鷲掴み

その日の夕方。一応訓練もするかも?と思い運動できる服も持ちつつ、とりあえず私服で道場を訪れた。

今日はネネちゃんも一緒の4人パーティ。


道場のある公園に付くと外でまだ肌寒いのに自販機のアイスを食べながら野良猫を見つめるゴリ先を遠くの方で見つけた。


「せんせー!」ネネちゃんが声を掛ける。

「お~佐井寺!と、その他大勢!」

「雑じゃね??」竜二はぼやいていたが「僕にはいつもの対応だよ。」と言って返す。


僕はネコに向けて舌打ちみたくチェッチェッチェッチェッと口から音を出して、今にも歩き出そうとしている猫を振り向かせた。


ヒカルに「猫ってなんであの音に敏感なんだろう。結構な確率でフリーズするよね。」って言うとマジメに

「猫にとって警戒すべき周波数のなんじゃないかな?」

かぁ。確かに。ヒカルはそういうのわかるくらい耳いいんじゃない??」


「あぁ、例えばこの周波数が聞こえたら頭クラクラするかも?って音あるし、息遣いとか声だったり心音とかが落ち着く人もいるよ。」


「あ~音でやられるわけか。【スーパーギャンランド】と一緒だね!」

「なんだ?【スーパーギャンランド】って。」ヒカルは初めて聞くって顔で僕を見てきた。


「ギャンランド知らないの!?ヒカル知ってた方がいいよ。【スーパーギャンランド】はスーハミのカセットで、ミドリ色の恐竜が『ワッ!!』ってで敵をフリーズさせて進む横スクロールアクションゲームだよ。」


「へ~聞いた事ないなぁ。」とヒカルが言ってくるもんだから追加説明が必要かと思ったんだ。


「難易度選択ができて最悪にして最強の【神様モード】に幾人ものゲーマー達がクリアできずに地に伏していったのは有名な話さ。ボスが強いんだ。」


「体力があるとか攻撃力が高いとかなの??」


「攻撃力が高いと言えば高いんだけど、いわゆる一撃必殺をしてきたりする。そもそもスーパーギャンランドのボス戦は【絵しりとり】とか【神経衰弱】とかのパズル系なんだけど。」


「そこはアクションじゃ無いんだ!そもそもパズル系に一撃必殺があってたまるか!って感じだけど。」


「絵しりとりに明らかに【灯台】の絵があるんだけど、その絵の他の読み方、通称、裏読うらよみが【海の道しるべ】なんだよ。」


「わかりづらいね。」

「だろ?」

「しかも【べ】で始まる絵が。これが一撃必殺たる由縁だよ。」


「なるほどねぇ~~。」こうして僕はスーハミが気になる人間をまた一人社会に生み出しました。

めだたしめでたし。





道場の近くに来るとゴリ先は

「南チームよく頑張ったな!竜二達が勝つと思ってたけど。あんな最後だとは。」と言って

はぁ~とため息をつく。


「あ!ゴリ先!!確か負けたチームにお仕置きあるんだよね??恥ずかしくて痛ーいお仕置きが待ってます。って書いてたよ!ケツバットでしょ!?ねぇ!やるの!?女子にもやるの!?かわいそうだよ!!」


僕はアオリちゃんとエーコちゃんが半ケツだしてペットボトルでおしりを叩かれてる姿を想像してしまい、ついついスマホを取り出してしまっていた。ツクモはもし映ったらモザイク処理をアークに頼もう。


「かわいそうって言ってるお前、なんかスマホ構えてるけど撮影するつもりなんじゃないだろうな?言動と行動が合ってないぞ。」

ゴリ先はそう言うと訝しげな顔で僕の方を見た。


「ら?」隣を見るとヒカルも構えてた。さすがエッチ代表ヒカルさん!考えてることが下衆いですね!!あ、僕もか。


ゴリ先は

「北チームにはそんな事、書いてないから安心してくれ。あの罰ゲームはお前ら専用だ。それにあっちは女子が二人もいたんだぞ。十分善戦したよ。」



「でも僕らも頑張ったんだよ!僕達だけペナルティがあって勝った時の賞品無いんだけどそれってどーなんですかねぇ?」

と僕はヒカルにバトンパス。


「たしかに。先生!僕ら勝ったのに罰ゲームだけしか用意されてなかったのはいささか」と言いかけた時に

ゴリ先が僕ら2人に寄ってきて2人の肩に手を掛けた。


「大人になったら良いとこ連れてってやるから。」

と意味ありげな笑顔でコソッと話してきて、僕らは二人して目を合わせてフリーズした。


と言う音によって僕ら2人の心をガッシリ鷲掴みし、離れていくゴリ先に揃って敬礼し、ネネちゃんと竜二に不思議な顔で眺められていたんだ。


そしてアイスのゴミをゴミ箱に捨てたゴリ先は

「道場の中で座って待つか。」と言って建物に入っていき、それに4人はついて行った。



道場に私服で入るのは初めてかも。いつも動ける服装で気合を入れてくるから今日は新鮮な気持ちだった。


今くらいは寝転がっても怒られないだろう、

と寝転がると、ここに来た初日を思い出した。アレから半年も経ったのか。初キッスはゴリ先の足だったなー。


・・・いやいや!あれはノーカウントだ!もっと口と口でチュー的な!

巷では色んな味が噂されてるけど、結局チューは何の味何だろう??人間の60%は水だからやっぱり水の味なんだろうか?うーん。知りたい。


僕は悶々と悩みながら道場をごろごろとローリングしていた。


楽しそうに見えたのかアホそうに見えたのか竜二も頭を向かい合わせて同じくローリングしながら、


「カガミー、この前の帰り道どうだった?」とローリング2往復目で聞いてきて、歩きながらヒカルも話に乗ってきた。


「僕は楽しくおしゃべりして普通にお家まで送ったよ。」

そういうと2人は

「カガミにゃ早いか。」「カガミって好きな人いるの?」と聞かれた。


この時僕はまたもや自分が「OMG!」と叫ぶビジョンを見てしまう。


「えっ?なんか解答間違えた感じ?何が正解なんだ?もしかして、


『2人になった瞬間に雑木林に連れ込んでオオカミになってやったぜ!』


とかが良かった?」と、言い終わる前に死角からカキゴーリの2人が来ててオオカミのくだりから全て聞かれていました。


「OMG!!」


エーコちゃんは

「ヒカルこの前はありがと!OMGって何?ってかカガミ君ってゴミだね。」と言われました。


ネネちゃんが竜二に「エーコちゃんとは気が合いそう!!」と喜んでた!


何のシンパシーを感じてだい?!


僕は「ぬ、濡れ衣だよ!」と言ったがエーコちゃんには届かず。


後ろにひっそり佇むアオリちゃんはほっぺたをピンク色にして目を合わせてくれませんでした。

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