第102話 惜春期② テスト1位は

「連れ去られた!?いつ!!何で!?」


起こった過去を冷静に、淡々と話す姿はやっぱりヒカルを思わせる感じだった。


「俺が10歳の時、アザレア教の書籍を図書館で見つけたそうだ。」

「ハイドラの撒き餌か!」そんなに前から潜んでいたのか!!

「カガミ知ってるのか?!」ツクモは目を見開いてこっちを見た。


「ああ、去年の夏、僕ら4人で図書館に行った時にたまたま見つけた!市内4ヵ所の図書館を探してすべて同じコーナーにあったんだ、中身は見てない。図書館管理じゃなかったんだ、気味が悪かった。警察沙汰にしても騒ぎが大きくなるから大人に相談して今も放置状態だ。」


「そうか、それを母さんが見つけて父さんに報告したんだ。過去に起こった市民病院の爆発事件知ってるか?」

「ああ。」


「あれは爆発事件なんかじゃ無かった。研究員が【ほろびのうた】って言うウィルスを打たれて隔離されたみたいなんだ。」

「たぶん人より知ってる。」

「カガミ。一旦情報を共有しないか?俺の力いっぱい調べ上げた事がカガミには何だかすんなり知られちゃってる。どこでそんな詳しく知れたんだ??」



僕はスマホを家に置いてきたしアークもなんて説明すればいいかわからなかったから、一番の原因を話そうと思ったんだ。すると、ツクモがビジョンが見えた。


このままだとツクモの気に障る事を言うに違いにない。僕は思いとどまって

【父さんが責任者だと言う事】を言わずに違う話題にすり替えた。


「母さんとか周りが何だか詳しくって。」ウソじゃない。



ツクモはもしかしたら僕の焦りを【嗅ぎ】取って気付くかもしれないが、まぁしょうがないかと思った。


不思議に思う顔も一瞬したけど

「他人にゃ言いにくい事もあるわな。」って納得してもらえたみたいだ。


「まぁ、俺の母さんの話なんだが、時系列で話そうか。俺の母さん津雲 いのりは父さんと同じ遺伝子研究所の臨時職員で俺の産後一年ですぐ遺伝子研究所の若手の【垂水哲也】研究員のアシスタントとして時短勤務ではあるが働きだした。」


垂水さん!!あのアークのビデオで見た父さんがゼロから庇った若手の研究職員か!!結局庇ったけど何故か一緒に亡くなったんだよな。




「母さんは先天性心疾患をわずらった俺の出産と育児の為に、もともとフルタイムで働いていた家政婦を産休にしてもらう間1~2年程、代わりに家政婦をしてくれる交代要員を探してたんだ。


佐井寺家は待遇がよくって交代要員はすぐ見つかるんだろうけど、出来れば信用のおける知り合いを希望されたそうだ。


結局、俺の病状も難病か奇病だったから看病に時間が割かれる事を危惧してあと、佐井寺家に迷惑を掛けない為にもやめざるを得なかった。それで代わりに妹の日和ひよりおばさんがメイドとなった。」


「えっ?今もその人、佐井寺家で働いてるの??」

「え?あぁ働いてるみたいだな。おととい植物園迄、佐井寺の妹を車で迎えに来てたし。帰る時見たわ。」

「春日さんなんだ!!!」


「そうそう。母さんの旧姓は春日かすが いのり日和ひよりさんのお姉ちゃんだな。俺からしたら日和おばさんだけど。」


衝撃の事実。ツクモがメイドファイター春日さんに何となく顔の雰囲気似てる気さえしてきたぞ。




「それで臨時職員だった。

父さんは新病院の研究施設を主に任されてて、

母さんは旧市民病院の垂水さんのアシスタントをしていた。そこであの事件だ。


ハイドラの殺し屋がジルアティウスを始末しに来た時、そいつに【ほろびのうた】をバラまかれて旧研究所は感染拡大を防ぐ為に閉鎖&封鎖。研究員2人が死ぬまでのその間に何かが行われていたみたいだけど秘密らしくって父さんは知らないみたいだった。」


「僕も。何が行われてたか知りたいなぁ。進入禁止区域に行かなきゃ詳細はわからないかもね。」


「そうか、やっぱりそんな所があるんだな。カガミの情報の多さに結構凹むわ。」

アーク様さまさまです。


「母さんは隔離された2人のサポートを死ぬまでの3日間献身的に行ったらしい。父さんはそんな母さんを必死で説得してウィルス感染源に近づく母さんを心配していたんだ。


母さんが頑張っていたのは【ほろびのうた】の抗体ワクチン作りかも知れないし、感染空間からの指示を聞いて副センター長さんと垂水さんの看取りをしていたのかもしれない。結局内容は父さんにすら話してくれなかったみたいだ。」


「それでこの話は一旦おしまい。」


「ん??ツクモのお母さんがハイドラに行った訳は?撒き餌の話は?」僕は何の話をしてたっけ??と思いハッと気づけたんだけど今度は質問で返された。


「すこし前に強力な造血作用を持つホルモンが薬事承認を通って最近市販化されたのを知ってるか?」


ヒカルが作り出した【薬】だな

「ああ。ヒカルから聞いたんだっけかな?」


「まぁそれが出来た時、父さんと母さんは研究所の資金繰りが厳しそうだったから、発売を急がされてたみたい。


何とか完成した薬の、先行販売先が海外だったと気付いて焦ったんだ。イチゴサイダー由来の薬剤と言う情報が洩れたら次に狙われるのは・・・。次の研究対象は自分たちの息子かも知れない。


そこで、俺たち家族は動き出した。俺は強く・賢くなる。何事にも対応できる人間に。まぁ早い話飛び級での進学だったり体力づくりだ。

そして、定期健診は受けるが研究対象から外れる事にした。両親がジルに懇願したんだ。テストの人数が減っただろ?ありゃ俺だ。」



「ツクモが知力NO.1だったのか~~~~!!僕は最下位なのに~~!」くやしい!!あ、口が滑った!


「あれ!?カガミが最下位なんだ!!ウケるな~!!」そう言って笑い合ったがまたツクモの話に戻った。


「まぁうちの親はマジメだから多少の罪悪感を感じたんだろう。ハイドラからイチゴサイダーが逃れられる方法を模索する中、図書館の【撒き餌】と出会ってしまう。」


「あれには何が書かれていたんだ??」


結構気になってたんだよね。僕の予想では本を開けたらモンスターのビブロスが出てきたりして!ありゃ古代図書館だっけか?


「内容は普通のアザレア教の聖書だったらしい。知ってるか?アザレア教は長い時間をかけて主神アザレアは風化し、今やキリスト教の思想がメインだとか。強いて言うならマイナーな思想違いの一派らしい。


ただそこには一枚の日本語で書かれたメモが入っていたんだよ。

 

『□□□□が咲く季節、施設前で待つ。」だそうだ。」


「四角に入る文字はアザレアだな。」


「そうだ。アティウスの前の道あるだろ?少し種類は違うが和名で言うところのツツジの咲きだす時期、4~5月。アティウス前で1人の男は現れた。」




    

「そこからは母さんとの通信が途絶えた。行方不明のまま。」


「え?」


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   

「俺個人としては誘拐と思ってはいるんだが、父さんは自分の意思で行ったって言う事にして何とか俺たちとの関係をハイドラに気付かせない様に働いてくれた。だからニュースで取り上げられず、行方不明だけど捜索もしてなくって。」


「ちょっと待って!あんまり頭で整理できてない。ツクモの母さんは何でハイドラと会う必要があったんだ??」


ツクモは納得できない顔をしながらも僕にこう言った。


「【2の為に復讐するの】。って言ってたのを覚えてる。」


死んだ2人か?垂水さんと僕の父さんか?


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