第99話 会遇期⑭ 模擬戦終結
「やっと会えたね!カガミ君!」
僕はその言葉を聞いて戸惑いしかなかった。目の前にいる敵はフードをまくり上げマスクを外して僕の方に口を開けた無表情で両手を広げてムササビの様に飛び込んできたんだ!
「え~~~!!」どうすればいいんだ!?ビジョン的に避ければケガするし、受け止めればその後、首を狙われてリタイアさせられるかも知れない!でも飛んでくる女の子を見て僕は気付いたんだ。
それは何度も僕が落ち込んだ時に見た、心の支えにしてた、いつも救ってもらってた合宿の時見た色。
いや、それはもっと前だったかも知れない。
雲と海の様な、真っ白な髪の毛に透き通ったキレイな青い瞳だった。そうかあの色は
「アオリちゃんだったんだ。」
言い終わるか終わらないかの瞬間、僕は飛んできた女の子をケガしないように優しくぽふっと受け止めた。
軽くていい匂いがして体が当たってドキドキしてた・・・気がしたんだけど、
何だか喜べない事に気付いた。何でだろう???
そこで妙に冷静な僕はフラッグを取り出した。
コアラの様に抱き着いて急にニコニコしだしたアオリちゃんを連れたまま
スタスタとゴールの傘立てに向かって歩いて行き、ついにはフラッグを刺して、ゴリ先の合図で模擬戦は終了となった。
何だか理解に苦しむあっけない終わり方にゴリ先は額に片手を当てて首を横に振っていた。
「竜二~ヒカル~フラッグ入れたよ~。」と言うと
「軽っ!!」と竜二に言われ
ヒカルは「今さっきやられたとこだった!ギリギリ助かった~~。」と言っていた。
ゴリ先が中央のウッドデッキに集合をかけて全員が集まろうとしてたんだけど、ヒカルの網状拘束用ビスケットに捕まったエーコちゃんはその時一緒に足を
ヒカルがネネちゃんと一緒に助けに行って少し遅れてやって来た。ヒカルにおんぶされた状態で。
「ヒカルさん女王様を運ぶ奴隷見たいっすねププッ!」
と茶々を入れるもヒカルは無視して、
ネネちゃんと双子らしく揃って僕の方を見ながら
「こっちにも!「カキゴーリの二人じゃん!」」って言ってきた。
僕は「えぇ~~!!そうなの?アオリちゃん。」と聞くとニコニコしながらウンウン!と声を出さずに返事された。
竜二は「カガミありがとな!」って言いながら寄ってきたけど僕の右腕に寄生する小さな白コアラに気付いて
「あ!!まじか!カキゴーリじゃん!なんで腕組んでんの??カガミなんか洗脳スキル覚えた??」と言っていた。
僕は首を傾げ
「ちょっとよくわかんない。」と答えて
「竜二、
「負けてゴメンはこっちだろ!今はありがとうで良いんだよ!」といって笑ってくれた。僕もだけどツクモに負けて悔しかったのに、やっぱ竜二お前はいい奴だよ。
ツクモはツクモで
「くっそ~全員に勝ったんだけどなぁ~~。あと30秒あれば〜!」と言いながらウッドデッキ横の芝生で天を仰いで寝転がって悔しがっていた。
ゴリ先が
「模擬戦は南チームの勝ちだ!途中色々あったみたいだけどみんなよく頑張ったな!明日は月曜日だが、火曜チームも道場に集合できるか?振り返りと自己紹介をしようと思う。
あと液体金属や矢の忘れ物が無いように各自この磁石で回収してくれ!それが終われば解散。女子は必要なら車で送ろう。男子は勝手に帰れ。じゃあ今日はゆっくり休んでくれ。お疲れさん。」
みんな「ありがとうございました!」と言ってたが
僕は言った後に「ヘイヘイゴリ先!男女差別かい!」と絡んでしまいお馴染みのアイアンクローを喰らいましたとさ。足浮いてるって!!(焦)
僕らはやっと竜二が安全に自転車に乗れるようになってきたからゆっくり自転車で来たんだけど、ネネちゃんは車で来て荷物もいくらかあったからメイドの春日さんを呼んでた。
僕の腕に寄生してた白コアラは胸の大きさに比例してなかなか根性もあって、エーコちゃんに引き離されるまで必死で僕に最後までしがみついていたんだけど、しまいには頭をチョップされて涙目になりながらボウガンと矢を入れた猫の柄のキルトカバンを持たされ矢の回収へと歩いて行った。
エーコちゃんと腕を組んで離れようとしていたアオリちゃんに
「カガミ君!またあしたね。」と言われた時、
え、僕今さっきまでめっちゃ幸せなシチュエーションだったんじゃないの?と思って
ぼ~っとアオリちゃんの方を見ながら
「アハハ~。」と脳内花畑状態になって手を振っていたんだ。
夢みたいだったから一応確認のために2人の姿が見えなくなった時
抱き着かれた方の腕をクンクン匂っていると、ネネ様に見られてて
「お疲れ!紳士!なんで美少女コンテスト優勝者とイチャついてるのか知りたいから明日までにレポートまとめてねー。眠たいからお先で~す。」と言われながらガラガラ荷物を積んだカートを引いて、あくびをしながら去って行かれたんだ。
やっちゃったね僕。
ヒカルのビスケット第二形態。網状拘束用ビスケットは硬化が終わり液体化した時、まぁまぁ散らばるから回収に3人がかりで10分ほどかかったけど取りこぼしなく回収できてその間、思った事を話し合っていた。
「まだまだ強くなれるのかな?」ヒカルはツクモに負けた事をけっこう悔しがっていた。
「なんなきゃ大事な人を守れないだろ。な、カガミ!」と元気よく竜二に聞かれた。
僕は竜二が負けた時悔しくて泣いたのを知ってた。そうだ、
「竜二、負けた時、泣いたね。」そのままの言葉でぶつける。
僕が茶化したと思った竜二は「泣いてねーし。」と返してきた。
でも僕は茶化してなんか無かったから言いたい事を言った。
「人の事ばっかじゃなくて、自分の事考えてよ竜二は。人が良すぎる。」
「俺よりも俺を知ってんだからスゲーよカガミは。いくら諦めが無くったって負けりゃリタイアのルールだ。
模擬戦の途中でヒカルが言った【本番だったら帰ってこない】って言葉、考えるだけで怖くなる。ずっと模擬戦って訳には行かなくなる日が来るかもしれない。それまでに俺たちは俺たち自身で大事なものを守れるのか?」
「僕は…竜二のそうゆう所が
諦めないはずの竜二ははなから自分を諦めてるように感じる。竜二には危ない目にあって欲しく無いんだ!もっと自分第一になれよ!」
ヒカルは「そうだな。竜二、カガミの言う事はもっともだ、悔しくて泣いたのは僕もだから隠す必要ないよ。見られてたからずっとネネにいじられる気がする。」
「なんだヒカルもじゃんか!!」
そう言って僕ら3人はケタケタ笑った。静かなはずの春の夜は急にざわめきだした様に感じた。僕らの笑いを契機に日の出が始まった。
「リーダー!ツクモが言ってたぞ!枯れるくらい泣いた涙は、きっとなんかの栄養になるって。あいつもきっとどっかのタイミングで大泣きしたんだろう!いつか追いつこう!目標が出来たんだ!僕らなら絶対追いつける!!」
「ああ。」
「そうだね!」
僕たちは着実に、確実に成長している。二人がいればいつまででも伸びそうなそんな気がした日の出だった。
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