第72話 修練期⑫ 降水確率0%の雨

10月に入ってついに僕の13歳の誕生日が訪れた!その日は竜二を呼んでリンクした状態で果物を食べてメチャクチャおいしかった!!


竜二からはプレゼントで森竹堂のフルーツ大福が来て、母さんもテンションアゲアゲだったんだけど、


悶々とした竜二の悩みと、表には出さない憤りがリンクで感じることが出来て、帰る時お礼じゃなくって

「こんな時にごめんな、竜二」って言ったんだ。


竜二もそれがわかってて

「俺もゴメン。でもさ、ここは諦めず乗り越えるんだ!」って返された。


そうなるとおチャラけ成分60%配合の僕は竜二を笑顔にしたくなって。


「この戦いが終わったら絶対みんなで笑って僕の誕生日リベンジをしよう!」と言って笑わせると


「おぅ!でもカガミそれ、死亡フラグな!」と言って笑って帰って行った。


やっぱりお前はいい奴だよ。




その頃、僕が1日のうちで唯一、ストレスを発散できるのは、朝のランニングだった。


朝早くから走っているつもりだけど、周りをボーっと見ながらいざ走ってみると、色んな人が公園の周りを利用してて、ランニングの人もいれば、夫婦でウォーキングしてる人も、犬を連れてゆっくり散歩している人もいた。


マナーか何かは知らないけど、軽く会釈すると同じように返されたり、「おはよー!」とか「頑張ってるね!」とか言って来てくれて、気持ちが良かった。


そんな中、初日に走った時、声をかけてきた金髪の兄ちゃんに声をかけられた。



「おーーす!少年!ここで走るのは長いのか!?」

僕は正直めんどくせぇ!と思いながらも

「いえ、9月からたまに走ってます。」と言って早く追い越してくれ~と思いながらまったりと走っていたんだが。

そんなときに限って並走して話しかけてきた。

「俺も最近だよ!お前中学生か?」

「はい。」


金髪兄ちゃんはそっけない僕を緊張してるんだと勘違いして

「アハハ!俺はこう見えて怖くないぞ!一緒に走ろうぜ!前も思ったんだがお前、結構走れそうじゃん?」


「いや、ホント遅いんで先どうぞ。」頼むからマイペースで走らせてくれよ~


「そっか、しつこいの嫌だから今日はここらでやめとくわ!また誘うな~。」

と言って走り去っていった。


僕はその時、見た目ほど悪いやつじゃないかもしれないな?と思った。


のだが、その翌日もそのまた翌日も、凝りもせず聞いてくる。

「へいへい!少年!一周だけ勝負しようぜ!」結構しつこいじゃん!!


「いや、そういうのやって無いんで、僕は軽い気分転換なので。」


何なんだよ!こいつ!シングルバトルで使う技じゃねーんだよ!!



「一人で走ってると張り合いが無いんだよなー。あ、名前言ってなかったな。俺は津雲ツクモ 九重ココノエ 高校1年だ。通信だけどな。」


高1か。見かけはもっと若そうだけど、童顔なんだな。僕は正直、全く覚えるつもり無いないけど相手に名前まで言われたので返事はすべきかと思って答える事にした。

「ハンドルネームでもOKですか?」


「なるほど、最近の子らは情報セキュリティマネジメントがなってるね。いいぜ!」


「【ドスコイ】だよ。ツクモの3つ下、中学1年だ。」


「おまえドスコイって・・・メッチャ痩せてる癖に逆にいいな!」


おっ!このセンスがわかるのか!?やるじゃんこいつ。まぁ気を許すつもりは無いけど。


ツクモと名乗った金髪の兄ちゃんは僕がタメ口で呼び捨てても何ら怒る事なく勝手に僕を友達認定してきたようだった。



このツクモは年上って事もあって外周を走る速度が結構速かったんだが、それでも本気の僕の方が早かった。


結局、毎日ではないが時間帯が被ることが多くって公園に着いた後、少し準備体操を長めにしたりするとツクモと会って、一緒に外周を話しながら3周ほど回る。 そんな日が続いた。



季節はもう夏が終わり秋本番だった11月になった事も気付かずただただ毎日イライラして過ごした。


どこかで絡まった糸をほどこうとすればする程複雑に絡んでいく感覚だけははっきりしてて、

いっそ両方から引っ張ってしっかり絡ませてやろうか?

引きちぎってやろうか?

とも思ったけど、そんな度胸も無く。

別に嫌われてもいいツクモに言いたい事を言うクズだと自分でも認識してる変な感じだった。


あいかわらずランニングだけはストレス発散になるんじゃないかと思い込んでそれを日課のように続けていた。同じ時期に走り出したツクモもいたから続けられたのかもしれない。

そんな一緒に走ってくれる仲間のツクモに僕はかなり強く当たっていた。


僕は最悪の場合T-SADで15歳以上生きられないかも知れない、高校に行ってる奴が羨ましい、なんて勝手にネガティブな被害妄想を抱いて


「いいよなツクモは高校に入れて。」と言ったら


「おぅ、色々頑張ったからな!」と返事され、何でもない言葉にもムカついて


「勉強を頑張っただけなんだろ。対人関係でヤな事も苦しい事も無かったんだろ。うらやましいよ。」走りながら思った事を口にした。完全に八つ当たりだ。


中学生が勝手に絡んできてるだけだし相手にされなかったのかもしれない。


ツクモは走りながら僕の事もよく見ていた。

「ドスコイ!お前なんかむしゃくしゃしてるなぁ。目にクマもできてる。受験勉強って訳でもないしどうしたんだ?最近、疲労とイラつきの匂いがプンプンするぜ!」



その頃、僕は竜二とヒカルとの関係に、置かれていた境遇に、精神的にも肉体的にも正直一番疲れていたのかもしれない。


夜は悩んで眠れないし、昼は気を使ってニコニコして2日にいっぺん訓練が襲う。ぶっきらぼうに返事をしても、友達でもないツクモにはいいか、嫌われてもいいか、怒って殴られてもいいかと思って。


「あぁ・・・ツクモには関係ない。ほっとけよ。」と言ったら

「そうか。」と返事された。


始めはこれならいっそ怒ってくれたらよかったのに。とまた誰かのせいにして怒る理由をさがしていたけど

ランニングをしながら年上に気を使わせてる罪悪感は、外周を走る距離を延ばすほど大きくなっていき。



夜が明けたての明るくなってきた町で、駅に向かう人や仕事を準備する人がたくさん目に付くのに、なぜだか孤独を感じた。


でも横を見ると一緒に走ってくれてるツクモがいて、

「あと一周だ!頑張ろうぜ!」と言ってきた。


僕は罪悪感が限界に達したんだ。

そして、自分に不器用さを感じて急に足を止めた。


上を見上げると空は少しだけ曇ってて、腕に雨が当たるのを感じた。降水確率は0%だったよなぁ不意に天気予報を思い出した。


雨が当たって前を向き、濡れてない手の平を空に向け、どのくらい振ってるんだろうと確認していたら、視野の下の方がぼんやりしてきて、濁った視野で周りを見渡しても


不思議に思い口を開けた僕は水がポトポト落ちてくる元を辿ってはじめて


「えっ?」

 自分が事に気付いた。


全てが嫌になった時、こんな時に限って、ツクモのやさしさに触れてしまったんだ。



こんなに我慢してたんだ。涙に気付く迄、涙腺の蛇口が開けっ放しになってるのに気付かなくなるまで僕は何かが壊れてしまっていた。


どんどん涙が溢れてくるどっから来るんだ!こんなにも!みっともない自分が、失敗だらけの自分が、

涙1つ我慢できない自分が嫌で嫌で堪らなかった。なんでこんな人間に生まれたんだそう思った時、胸が痛むビジョンが見えた。けどそうなる前に手が伸びてきた。



ワンワン路上で泣いて、涙が止まらなくなって立ち尽くしている僕を守る様に、ツクモの手が肩にかかってきたんだ。

そのまま安全な場所に座らされて借りたタオルで両眼を抑えて吐きそうになるまで泣いて完全に枯れ切ったと思ったその時。


「解決はできないが、話ならきくぞ。」と言ってくれた。優しさで辛かった。

僕は頷いて失いたくない大切な友達の事で悩んでる事をツクモに話した。



どこまでの何を話したか覚えていないけど、ツクモは一通り話を聞いた後、色々アドバイスを言ってくれた。



「もう誰も相談できる友達はいないのか?」


僕はハッと思ったんだ、なんでネネちゃんを頼らないんだ?自分ひとりで何とかしようとしてた、できると思ってた傲慢さを、高レベルで負ける気がしない、力技で何とかなるってゲームの様に思ってた自分を知って、人として恥ずかしくなった。僕が一番ガキだったんだ。


「いる。今日、相談してみる!」


「そうか、よかった。でもな、いいと思うぞ泣くのも。今日のこの枯れるくらい泣いた涙はさぁ、きっとなんかの栄養になる。俺はそう願ってる。」


「もうこんなに泣きたくないよ。」ははって照れながら笑うとツクモも一緒になって笑ってくれた。


「まずドスコイがどうしたいか?その意思を持て!できる事をなんだってやって、んで最後に絶対笑うんだ!」

簡単に言うなぁと思ったけど、案外こんな事の方が多いのかも知れない、そうだな。

聞いてしまえば、わかってしまえば簡単なんだ。


なんでこんな事できなかったんだって思う事はよくある。難しく考えて無駄な時間を過ごした。


ツクモは、しばらくして


「俺の知り合いによく当たる占い師がいるんだが、」


「えっ?」

僕も話してるうちにずいぶん落ち着けた。ここからきっと高いツボとか売られるんだろう。

話が怪しそうだ!でもここまで聞いてもらったから買おうかな、ツボの中に小さなメダルとか入ってたらいいなぁ。



「そいつが言うんだ、占いが当たるんじゃなくて、

私の言った言葉がその人の目標となって未来になるんだって


それで言って欲しくなかった言葉が

避けるべき目標となって運命を変えるきっかけになるんだよって。」


「ドスコイは、それって占いじゃなくて、結局本人の努力次第かよ!って思うか?

それとも最悪の運命を聞いても尚、立ち向かって変えてやれるチャンスだと思うか?どっちだ?」


「チャンスだな!」

ツクモは僕が正解を言う事に関して確信を持っていた、いや、持ってくれていた。そんなイタズラな笑顔だった。そして頷く。


「そーゆー事だ。ドスコイは泣くほど変えたい運命を理解できた。理解できずに立ち向かおうとしない、運命を見ようとしない奴の方が圧倒的に多い世の中でそれが出来たんだ!

そこからやっとスタートだ!その時点で、回避ルートを模索するんだ。必ず方法はある。」


ツクモが言い聞かせるように言った言葉は僕に言ったものなのか自分に言ったものなのか、よくわからないけど言葉自体に大きな熱量を感じたんだ。

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