第71話 修練期⑪ おいしいモノにはこくがある

放課後ポンコツ担任に捕まっていた事もあり、帰りが遅くなった僕は、家に帰って着替えてから道場に向かった。二回目の強化訓練が始まろうとしていた。


「おぅ天道!最後だぞ、さっきぶりだな!」

先生は先に車で着いて僕を待っていた。


「はぁ。遅れてすいません。一応、ありがとうございました。」


「何だよそれ?反抗期かぁ?まぁお陰で職員室の先生方とも仲良くなれたし、俺的には良かったよ。」


「それってまた僕の事を職員室でディスってたって事ですよね?しまいにゃ泣きますからやめてくださいよ!」


「まぁ訓練の方が泣けるからそれに比べたら大した事ないと思えるさ。さっ、まず走ってこい!2人はさっきスタートしたから頑張れば追いつけるかもな。俺はあそこのアイス食べとくわ。」

と言って自販機のアイスを指さしていた。


僕は冷たいアイス良いなぁ、と思いながら、自販機のアイスで何か印象に残ってた事があった気がしたけど、今は奴らを追い越したい!と言う思いに駆られすぐに出発した。


外周3周目になる頃に、やっと竜二とヒカルの背中を捉えて2人のお尻を叩いて追い越し、


「カガミ選手!カートゲームの先頭に躍り出ました!これはもうアレ付きの甲羅が無いと止められなーい!!」と実況中継を始めた。


「アレって何だ?」とヒカル

「ヒント!キレイなモノには?」


「【トゲ】だろ?ちょっとカガミーまってくれー!」と言う竜二の為に少し速度を落として

「正解!」と言って



「おそいおそい!!バナナがあったらよ!」

と言うと、ヒカルが


「あのゲームはバナナを置いてるんじゃ無いのか?」とぜいぜい言いながら質問してきて


「プロは屁をかの如くバナナをさりげなく置いていく。音も無くだ。つまりあのゲームにおいて、バナナは【こく】だ!

キレイなモノには【トゲ】があり、おいしいモノにゃ【コク】があるんだろ?」


「ちなみに【コク】つながりで言うとカレーとか?カレーって味わかんない人からしたら地獄なんだよね。絵面的に。


あとマヨネーズも【コク】って書いてて、【コク】と言うものの一貫性が実は僕はまだ掴めていない。本当にあるのかまだ疑問視している。ツチノコとかと似た感じだ。


僕は味覚がわかったら、いつかこの【コク】についてぜひ研究してみたいんだけど。」


「あっ!マヨネーズをごり押ししてくる販売促進目的の希少ゲーがスーハミであるらしいんだ!あれもやってみたいなぁ~~って事で!お先~。」



そう言いながら僕は奴らとの距離をさらに引き離し最速でゴールした。


離れて行く時に最後に聞こえた言葉は


「あいつバカだろ?」

「うん。なんであんなに走りながら喋れるのか。訳ワカラン」だった。



道場に3人で入って、ゴリ先のマネをして一緒にストレッチをする。


十分なストレッチが終わり、この前よりも体が柔らかくなっているのを実感できた。


ゴリ先の指導は何というか無骨な感じをそのまま指導にしたスタイルで一言で言えば、ストイックだった。


「樹脂畳が柔らかいから殴る事にした。」


3人は「えっ?」と「「は?」」だった。なんで過去形?そこじゃないか。


ゴリ先は僕らを無視して両手で拳を作り地面に向けて瓦割りの様に構えて樹脂畳をバッスーン!と殴った。


その後

「手首を折らない様に気をつけて、力いっぱい殴れ。当てた瞬間に引く。まぁ、、、真似してみろ!」


僕らは戸惑ったけどこーゆースタイルだと無理矢理理解して、掛け声と共に畳を殴り続けたんだ。



50回を越えたところで勝手に終わりと思ってたヒカルが遅れ出した。


100回を終えたところで既にもうパンチでは無くなり、竜二はこのままだと右手が危ないと思ったのか左手に替えてやり始めた。2人は温泉の温度をグーの手で測るぐらいの威力でしか畳を叩けてなかった。


僕はまだいける。セビエドって目標がこんな甘っちょろい訓練に泣き言なんか聞いてくれないと思って必死で叩いた。



120回を越えたところで汗だくの竜二が

「まだですか!?」

と言ってゴリ先が「不合格だな。」と言い畳叩きは終わった。竜二はもちろんイラっとしてた。


腕が全く動かなくなり3人ともだらりとなっていたのだが次にやるメニューはこれまたきついもので、



「目的はさっきと同じだ。」

と言ってあぐらをかいた。そして


「俺の目線の所より高くジャンプし続けろ20回。せーの!」手拍子を始めだした!


僕らは慌てて手拍子に合わせてジャンプし続けたが何回か目線が超えれないジャンプだったのかカウントしてくれないものがあり、多分50回以上はジャンプしてゴリ先がやっと

「20回!終了!」と言ってジャンプは終了。そしてまた「不合格。」と言われた。


正直、僕の意見を言わせてもらえれば【何でだよ!】だった。


僕は一番ついていってるし高くジャンプしていた。2人よりガマンしていたんだ!認められなかったジャンプなんて数回しかない。何だったら昼過ぎからずっとガマンの1日だった!


と、竜二を見ても煮え切らない顔をしてて、ヒカルは済まなそうな顔でぜぇぜぇ息をしていた。



その後、組手を前回同様して案の定、誰も有効打を与えられずにその日は終わりとなった。


総評は「初日の方がまだマシ。」だった。


「ありがとうございました。」

「ありがとう、ございました。」

「ありがとうございました!!」僕は悔しいから大声で言ってやったよ。



帰り道、僕らはあんまり話さなかった。疲れてたのもあるけど、お互いがお互いに不必要なストレスを抱えていたんだ。学校ではせめて忘れようと思ったけど、そう簡単には払拭できなくて、

その先、しばらくは同じメニューだったけど、ちょっと口喧嘩と言うか小さな言い合いが増えた。


訓練の翌日は決まってまぁまぁギクシャクした。ちょっとしたことで溜息が出たり、怒ったりした気がする。



ランニング中に新しい知り合いもできたけど、僕だけ交友関係を増やしてもいけない気がしてあまり歩み寄らなかった。

今、目の前のみえない壁を壊すために何をしたらいいか毎日悩んでいた。

夜は一人で星を見て溜息ばかりついていたらしくって母さんに心配されたよ。


その頃にはあんまり3人で話すことなく、昼ご飯はネネちゃんも含んで4人で食べるけど、また席に戻って昼休みが終わるのを待つっていう変な感じの関係になっていた。


でも僕は訓練なんかで友達関係が崩されたくないと思ってた。


父さんの望んでくれた【普通】はきっとこんなんじゃないって気がして頑張ってケンカする二人の仲を取り持ち、極力僕からはケンカ腰にならない努力をしだした。

ゴマすり鉢と太鼓を持って接待状態で何とか昼休みの4人でいる時間だけは守った。


これが後に言われる【カガミ守りの強化月間】である。(自分談)



ぶっちゃけ、訓練なんて辞めようかなぁとも思ったけど、多分竜二は「諦めない」しヒカルは「賢い」から、一番がんばってる僕が一番脱落に近んじゃないか?と勝手な妄想をして、何で僕が最初に脱落なんだよ!と考え直した。意地でも辞めないでおこう!そう思って必死で喰らい付いたんだ。

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