第68話 修練期⑧ オクトパス
アークは続けて
「一件は新聞の内容からの抜粋です。もう一件は当時のニュースの動画です。再生しますか?」
「昔のニュース再生できるんだ。すごっ!じゃなかった、たのむよ。」
「仰せのままに。」
そういうとアークはほんの少し画質の粗いちょっと昔のニュース番組を再生しだした。
「12月7日火曜日 午後のニュースです。
昨夜未明、東京都内で警察官の桃山巡査とその一家が何者かからの襲撃を受けました。
警察の発表によると妻と子供が失踪し、犯人はおろか、それを追いかけた巡査本人もいまだ足取りが掴めておりません。
現場の近くにはあちらこちらに血の跡があり、電話で駆けつけた同僚の五月巡査は桃山巡査と一瞬会話を交わしましたが、残った犯人の一人と争いとなり負傷。命に別状はありませんが現在都内の病院に運ばれ治療を受けているとの事です。拳銃などの装備品は盗まれておりませんでした。
巡査の妻は妊婦だった為、かかりつけ医の話ではその事も含めて安否を心配しているとの事です。
目撃情報があれば小さな情報でも構いませんので下記の電話番号までぜひご連絡ください。」
「以上です。カガミさん、何か気になりましたか?」
「もうバリバリ気になってるんだけどまず、あのゴリ先が・・・負けたんだ。」
今日あいつの強さを身を持って味わった僕は唖然としたんだよ。エーセブンとまぁまぁ互角に近い動きで戦ってたあのゴリ先が。
「ちなみに」
「え!これ以上情報来ても混乱するよー。」
「やめておきます。」
「いやいや、教えてよ!気になるし。」
「はい。その日の翌日の12月8日は旧遺伝子研究所が襲撃された日です。」
「そんな、事って。」
僕はさっき見たニュースを頭で想像してみた。
東京は行った事がないけど、ゴリ先がケガを負ってしまう程の強者。そしてすぐ後に、研究所の父さんが襲撃をうけた。翌日なら全然僕らの街に来れる。
脳内でピタリとハマったパズルはこれっぽっちも快感は生まず逆に嫌な汗が流れるだけだった。
唾を飲み乾いた喉を何とか使えるようにして声を出す。
「ゴリ先と交戦した奴は、ゼロ・・・か。」
「はい。可能性は高いです。」
「そのことを踏まえて、カガミさん、私が五月を呼んだ可能性があります。」
「はいはい。え?どゆことよ?アークさん。」
「みかんさんの【I-AMS】(インタラクティブ・アーカイブ・メモリー・システム)の凍結が解除された日、カガミさん専用になる前の私は設定に従い、凍結解除を知らせるメールをジル・アティウス宛に送信しました。」
「って事はジルさんがそこから協力者を探して、過去にハイドラと因縁を持つ人物を割り出し、五月さんをスカウトした可能性が高いって事か。そうかアークが呼んでくれたんだ。」
「恐らくは。 私の予測ですがこのタイミングで五月が警察を辞め、この街に来た理由としては一番筋が通っているかと思われます。」
あっぶねー!アークとジルさんが準備してくれなかったら、ゴリ先が来なくてハイドラの二人に
【進め肝試し!おチャラけ4人組!】は全員やられてる可能性だってあり得たな!
ていうかおチャラけ成分は50%だけど。それにグループ名だっさ、他の名前募集中。
まてまて、その前にゴリ先がいなかったら旧市民病院にハイドラが潜伏してる未来も無かったんじゃないか。まぁ確率論か、今更起こらなかった事にビビってもしょうがないよね。
あの時、母さん達から来た【市内の不審者メール】はきっとハイドラを警戒したゴリ先が警察に依頼したんだな。
「なんかとんでもない事に巻き込まれたなぁ。何とか隠れて社会から切り離されても良いからどっかでやり過ごせないかなぁ、ゲームさえ供給できるルートがあれば地下シェルターとかでハイドラがいなくなるまで籠れる気がする。よし!
「はい、そうですね、あ、一点だけ良いですか?」
「いいよ!」
「失踪した桃山さんの奥さんのかかりつけ医に当時の情報をメールでお聞きしても構いませんか?」
「?いいけど。」
「ありがとうございます。ではおやすみなさい。」
これはいつもの事かも知れないんだけど、ぐるぐる悩み事をしている時に必ずと言っていい程、寝れなかったり嫌な夢を見る。
その日のはそのどっちもだった。
アークに相談してたら余計寝れなくなるし睡眠は(ゲームの)パフォーマンスを左右するからある程度は取りたい。
「あー今日はゲームできなかったなぁ。これから訓練でこんな日が続くなんて思うとゾッとするよ。」
1人で静かに天井を見つめていたら疑問が秒針の音のたびに増えてくようで、そんなにうるさくないんだけど気になるから壁掛け時計の電池を抜いた。
ゴリ先はゼロと交戦してどう感じたんだろう?
助けに行った同僚とはどんな関係だったんだろう?
なんで桃山さんの一家全員が消えたんだろう?
その後死んだのか、まだ生きてるかどっちだろう?
桃山さんとどんな言葉を交わしたんだろう?
ゴリ先はどんな【後悔】をしてるんだろう?
ゴリ先の【
何個も疑問が出てきたけど、どっかの時点で記憶がまどろんできて夢との境目がわからなくなった。
それだけにリアルな感じがして朝起きた時、べっとりと汗をかいていたんだ。
昨日見た夢はたぶん【ミドリ】色の海に【アカ】色の大きな敵がいて、そいつを搔い潜って宝物を取りに行くゲームをリアルにさせられる夢だった。
動きを先読みしたいんだけど苦手な色だからか気持ち悪い僕は集中できず、敵の動きが全くビジョンで見る事が出来なくって、潜水服を着た顔の見えない仲間たちが次々と眠たそうな目の敵の餌食になって、とうとう自分の番が来た。
僕は知らんぷりして
やりやがったな!と思って船から落ちながらそいつを見ると、潜水服の奴と目が合った。
唯一顔が見えたそいつは息が出来なさそうに苦しんだ表情のセビエドだったんだ。
どうにかして助けなきゃ!という思いと、逃げなきゃ!という思いが交差して、混乱した僕は宝箱を目指していた。
いや、宝箱を、怖くて逃げる理由にしたんだ。
大きな敵よりもセビエドの苦しんだ姿の方が怖かったのかも知れない。【怖さ】があるってわかった時点で夢だと気付きたかった。
宝箱に今、僕に必要な【何か】が入ってる気がして必死で海底を進んだけど結局、敵の足に引っかかって潰されるように圧殺された。
そこで「うわーーーーー!!」って言って起きたんだ。
僕がこの先、父さんの言う【絶望】を耐えなきゃいけない程の救いようのない未来を潜在的に既に想像しているのか?
気付けば目覚まし時計の鳴るほんの数分前で、汗をぬぐって起きた後、止まった時計にまた電池を入れに行って片手に持ったスマホで時間を合わせた時、ふとこう思った。
あのゲームみたいなシチュエーション。止められた
その後、ほとんど無意識にスマホの写真を探して合宿で撮った【白】と【青】のコントラストがキレイな夏の雲と海の写真を見て暫く心を落ち着かせている自分がいたんだ。
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