第66話 修練期⑥ 何になりたいのか?
「イチゴサイダーだ!」と言う僕の言葉に対して
ゴリ先は「やっぱりな!」と言いながら二人に掴まれた腕を前に回して二人ごと安全に地面に叩きつけ、ヒカルと竜二を畳に沈ませた。
加減はされたし、咳き込んでるけどすぐ起き上がれるな。そんなビジョンを見て
「自己紹介まだ途中でしたね!」
僕はそう言って次の次の一手を物にする為、実戦で鍛えようと動き出した。
「先行視覚、動きの先読みが出来ます!」僕の攻撃を払う手を 逆にへし折るイメージ。
ゴリ先は ん?? って顔して考えていた。
普通は意味わかんないよな。
タゲが手だから小さく早くて難しい。
「味覚がありません!」潜り込んで水平チョップ!
も当たらないか!
払った手をアッパーしようとするも、大きく後退して逃げられる。足捌き迄見ないとビジョンとして成立せず見えない。全体を把握しなきゃ予想がつかなかった。
「恐怖が」 先生が唯一反応した返事は「えっ?」の一言。
僕が続けて「ありません!」
と言うタイミングでまたスライディング足払いしたんだが、空振りで回りながら僕は立ち上がる。
それと同時にキッとゴリ先の、目つきが、場を纏う空気が変わったような気がした。
酸素濃度が下がった と言う表現が妥当なのか、無意識に唾を飲み込んだその後、のどを突かれた気分になった僕は完全に狩られるものの気持ちを味わう。「ヤベッ。」
その時まで、僕の攻撃を払うとばかり思っていたんだが、ゴリ先の手がブレたビジョンが見えて
直後、ハッキリと僕の顔面に向かってヤバい速度の正拳付きが飛んでくるビジョンを見た。
あ、これ、死ぬかも。そう思って目をつぶっても・・・・・衝撃は来なかった。
そこで尻もちをついて組み手は終了となった。
ゴリ先は口をすぼめてふぅーと息を吐き、危なかったって顔をした様に見えた。
そして「悪い。」と呟いた。
本当にあと数ミリの寸止めだったんだ。風圧だけで倒れたみたいに尻もちを付いて、はぁはぁ言いながら額を右手で拭うと汗がボトボトと滴り落ちた。
ヤバいヤバいヤバい!こいつギリギリまで当てる気だったのか!?ビジョンを全て信じるわけじゃ無いけど、【怖さ】があったら数mlチビってたよ!
「とりあえず、実力は見えた。みんな弱いな!
でも俺にとってはこの悩んでいた何年間かにおいて、非常に有用な組手だった!自分の天井を決めてしまうとこだった。ありがとう。天道。」
元の雰囲気に戻ったのか無理やり戻したのか、会話の内容に違和感は拭えなかったけど竜二とヒカルは怖がっていたので今話す事じゃないと思った。
この短時間の組手でゴリ先と言う人物が急に気になり始めた。
キスしたからじゃないよ。
いったん休憩で座って輪になって話したんだけど、みんな汗が滝のように出て来てた、あんな短時間で喉がカラカラになってきた。
それを見た先生がスポドリを買いに行ってくれて、
買いに行ってるその間に僕は
「ありゃペンシルラケット20でも用意しなきゃ勝てんな。」と言ったんだ、するとヒカルは
「何なのそれ?」
と質問してきた
「ゲーム中の使い捨ての武器、バランスブレイカーだよ。」と言った。
ゴリ先が戻ってきて
「次からは自分らでなー。」って言ってスポドリをくれたたけど、なんやかんや言って子供好きな気がして、奢ってくれそうなので僕らはうっかり財布忘れました大作戦を計画した。今度やろう!
「ごちそうさまでーす!」
「すいません!頂きます!」
「ありがとうござます!!」あっ竜二噛んだな!
僕らはゴリ先を師として仰げるだけの人物として認めざるを得なくなった。モノに釣られちゃしょうがないよね。
スポドリを飲みながらゴリ先は
「まず、お前らは
教師の言う話ではないかも知れないが、正解・不正解は無い。答えは急がない。」
あまりに漠然とした質問だった。ここでプロゲーマーとか言ったらまたアイアンクローされるんだろうな~。
そっから、僕らのへなちょこ組み手の総評になった。
「まず天道、恐怖が無いって事は非常に危うい。今回は運が良かったが、気付いたら死んでる奴は安全マージンを十分に取れなかった奴に多い。」
運が良かった??僕は真剣な顔でゴリ先を見つめ返し別の事を考えてた。
「マーシー?・・・ダイムの塔の??」剣の伝説1だね!早く帰って2やりたいなぁ。
「マージンだよ!十分な安全値を取れって事。」とヒカル。
「天道は怖さの本質を見極めろ。動きは一番悪くない。あの時スキルって言ってたやつだな。
どんな風に見えるのかわからないが、対人に置いて先読みできるのは恐ろしく便利だろうがそれだけでは勝てないって事も今ので分かったか?」
「はい。色々足りませんでした。」竜二とヒカルは珍しく真面目に答える僕を見て二度見してた。悔しいんだよ僕も。
「天道に勝てる俺を見て思う事は何だ?佐井寺!」
「先読みされても勝てる。体力、技量、集中力、その他いろんなものが上回っていれば先生みたいにカガミにも勝てるって事ですね。」とすぐにヒカルは答えると
「お前らホントに中一か?頭の回転早すぎなんだけど。」と言われてた。いや簡単でしょそんなの。
「佐井寺は武器ありで戦うべきだと思う。さっきの話でそんなに音が良く聞こえるのなら、むしろ音だけに頼っても良いかもしれない。
視覚で得られる情報が全てでは無く、聴覚も同じ事が言える。が、
どちらも気にして迷うよりどちらかに特化すれば開ける道もある。素手の相手は難儀するだろうが、何かしらの武器を持つ奴の方が多い。その場合、ほぼ必ず予備動作音や風切り音なんかは聞こえる。
筋力が無いなら重くない剣、リーチのあるフルーレ、筋力を鍛えるなら普通の剣や俺みたいな警棒が一番の武器になるかもしれない。」
「はいっ!」
「あの警棒は警察時代の時の物ですか??」と竜二が聞くと
「そうだ。養成校から一緒の友達と交換した思い出の品だよ。今補修して貰ってる。」
と言った。
あのボッコボコの警棒!?まだ使うんだ?ちゃんと修復できると良いね。
「竜二は感情をコントロールするべきだ、気持ちはわかる。我慢できずカッとなる俺に似た感じがする。その一瞬のアドレナリンをここぞ!という時のブーストとして貯めるイメージだ。
敵の思う壺になるな!熱くなり過ぎるな! 今勝てない敵に諦めないのは、天道と同じで命取りになる。逃げて後で勝てる事もあるはずだ。敵を選ぶ
確かに、そういう意味でただ運が良かっただけかもしれない。
あの時、初手でエーセブンに当たるルーレットだったら僕は全力でエーセブンの方には行かなかった。いや、行けなかったが正解かな。勝てる気もしなかったし瞬殺される可能性もあったかもなぁ。
おそロシアンルーレット。
「あとお前も武器だが、使いたいか?素手で行くか?体格も良いものを持ってる。」と竜二に問う。
「え?あー、武器ある方がカッコいいかも。」竜二さんよぉお前も結構、中二病だぜ!
「じゃあ、心当たりがある。」 え?決まってる系?いいなぁ。
そして僕はハミりたくないから
「はいはーい!」
ピンっ!と手を挙げて先生にアピる。
「ゴリ先!僕も武器ないんですか?1番背、小さいし、リーチも無いです!」
「んんー、壊れないペットボトルとか?」
「ええ~!!この脱炭素時代にプラッチックは勘弁してくださいよ~!」
どこの漫画の主人公にペットボトルで戦ってる奴がいるんだよ!
あ、ぼかぁモブだった失敬失敬。
「冗談だよ!ハハハハ!お前は亡くなったハイドラの子どもと同じ両手短剣スタイルが合う気がする。」マジメになって出た言葉は、僕をおチャラけさせないワードが含まれていた。
セビエドか。確かにあいつの動きをマネ出来れば相当強くなれる。あんなに早くて動ける様になるのにいっぱい苦労したんだよな。
味方に改心できたらお話くらいできたのかな?
平和な日本で生まれてたら、
僕みたいな【普通】の日常が過ごせてたら、一緒にレトロゲームでもして遊べてたのかな?
「そうか。」ボソッと口にした。
僕は気付いたんだ。後悔ってのはこういう事を言うんだ。
バカな話、ほんとの後悔ってモノを今の今まで一度も痛感したことが無かった。
なんて情けないんだろう。
生きてりゃ良い事も悪い事も併せて、取り返しのつかない事がこれからどんどん増えていく。
こんな後味の悪い後悔は出来る限りしちゃダメだ!
だからこそ、自分で納得していないセビエドの件は、何かしらの罰を受けるべきだって思ったんだ。
「ゴリ先。僕はその武器でセビエドになるよ。」
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