第63話 修練期③ 勇気王

うだる暑さの中、始業式の全校集会が終わり、1人騒いだ僕は後ろ指を指されながら教室へ戻ったのだが、その日僕を襲った事はそれだけではなかった。


教室へ戻るとすぐ女子が、

「あれ?私のスマホ無いんだけど。」

と言い、焦っていた。


夏休みで気が緩んだのか、授業が無いから大丈夫だと思ったのか、何人かの生徒がスマホを持ってきていてギョッとなって探していたのだが、その中で2人ほどクラスの女子のスマホがカバンから紛失しているらしかった。


僕は、バカだなぁうちのハイスペックスマホは今も家で単独ネットサーフィンを楽しんでるよ。と思いながら竜二と消えたスマホについて


全校集会サボった奴が取ったんじゃね?と言う予想をして、とりあえず後ろの棚を探し手伝っていたんだ。


女子生徒は帰ってきた担任の先生にすぐ相談して、

一旦、軽くお叱りを受けていた。

「学校はスマホダメだよ!」って。



職員室に帰り盗難事件の報告を校長か誰かに済ませた後、また担任が戻って来て、先生の指示でみんなで探すとどちらも誰かの机の中にスマホがあり、10分程で事件は事なきを得た。


良かったーと思い、僕は席に戻って行ったんだけど、

1人の女子生徒が手を挙げて


「私のじゃ無いお財布が机に入ってました。」と先生に言っているのを耳にした。


僕は竜二と話途中で

「な!竜二、全校集会行って良かっただろ?盗難事件の犯人にされてたかも知れないよ!?」と言うと


「あんだけ体育館で声出して叱られてるのに行って良かったって言えるカガミのメンタルはどうかしてるよ。」と返され、


「アリバイ作りだよ。」と言った後ですぐ僕は、女の子の会話の財布の件が気になり

「えっ?財布??」と言ってカバンを隈なく探したけど無かった。


竜二は隣で

「それ犯人の言うセリフじゃん。」って言ってた。


ここで僕は両手で頭を押さえて机を見ながら「オーマイガットO M G。」と呟く自分のビジョンを見てしまう。



残念ながらこのビジョンは不可避だったんだ。



今朝、急いで色々詰め込んだカバンに財布を一緒に入れたんじゃ無いか!?と言う心配が湧き水の様にゆっくりと湧いてきて、記憶を辿れば辿るほど確信に変わる。

いよいよ(僕のだ!)と思った。



先生は「中身を確認してみましょう。」と女子生徒に取りに行く途中、

生徒は何の気なしに二つ折りのお財布を開けて触感に違和感を感じたんだと思う。

突然「キャッ!」って言って手から離したんだ。


僕はおいおい!勘違いで変な声出すなよ!と思った。


一旦床に落ちた財布を拾って先生は不思議がって

「どうしたの?」って聞いたんだけど、女子生徒は

先生に耳打ちして、ハッとした顔で僕の財布を持ち、教壇に戻って行った。



僕は早速机に肘をつき頭を抱える状態で

「OMG」と呟いた。




「この財布の持ち主はいますか?放課後、職員室迄取りに来てください。」


みんなは持ち主が居るなら名乗り出てすぐ返したら良いのに。と思ったんじゃ無いかな?だったら誰かそう言ってくれよ!!


先生は手伝いに来た他の先生に財布を渡して、通常運行に戻り、職員室の金庫に僕の財布は先祖代々大切に、大切にしまわれましたとさ。おしまい。






だったら良いんだけど、



夏休みの提出物を山盛り出して、体育館でも聞いたテロの注意を再三受け、軽くホームルームをしている間、チキンマンの僕の心臓は脈がヤバいことになってたと思う。



なぜかって?女子生徒がびっくりして財布を落とした時に先生に耳打ちした内容が容易に想像できたからだ。


しかも【超聴覚】のヒカルが聞いてた。


極小の声で

「頼む!ネネちゃんにだけは言わないでくれ!濡れ衣なんだ!助けてケロ!」

と言ったけど


ヒカルはそんな僕を見てから前を向き直し、プルプル肩を震わせながら笑いを堪えるのに必死だった。


放課後、ヒカルと竜二が付いてきて事情を説明し、職員室に「財布の件で〜。」と担任のところに行くと。保健の先生と生活指導の先生を連れて、シームレスに生徒指導室に向かわされた。



あ、誰も中身確認してないのね。



ニヤついた友達2人を待たせて僕は教師が3人いる生徒指導室に単騎で乗り込んだ。


ちなみにネネちゃんはヒカルからの訂正前の誤情報により、

「げっ!やっぱ変態だったんだね。」

って言って1人で帰って行ったらしい。



部屋に入ると生活指導の男の先生が、

「もう1人呼んでるんだけど先に始めようか。」

と言い。

僕は校内暴力とまでは言わないけど、校内犯罪の事件として立件されたので、もう一人は警察じゃないか?と過大な妄想が広がってしまった。



悲しそうな目で女の保健の先生が、

「天道君、あなたのお財布で間違いない?」と聞いてきた。

僕は何も隠す必要がないので堂々と

「そうです。」

と答えてパスっと横取りして返してもらい帰ろうとしたんだけど、唯一の入り口であると同時に、自由への出口である扉の前に生活指導の先生が立ちはだかり、


「天道、ちょっと話をしようか、まさかそのまま帰れると思って無いよな?」

と言ってきた。


担任のメガネの女の先生は、

「天道君は結婚はいつから男の人は出来ると思ってる?」と優しい言葉で話しかけてきた。


は?あんたにゃ関係ないし今の所、永遠に予定無いですよ!しかも今回の件で更に遠のいてしまった可能性すらある。


でも僕は知ってる。


この人は立場上優しくしなきゃいけないだけで本当は面倒事なんてごめんって性格なんだろう。


保健の先生も

「天道君は紳士的なんだけど、まだ中1だしちょっと早いと言うか、もう少し年齢がいけば考え方も、色んな所も大きくなるし、色々わかってくるからそーゆーの急がなくても良いかなぁ〜って私は思うの。」


何で僕の○ンポコが小さい前提で話が進むんだよ!


僕はアホらしくなって

「はぁ。父の形見なんです。」と返事とも、ため息とも取れる声が出てしまった。


いや、確かに大きさとかパッケージとか似てるかも知れないけど、中身を確認せずに一方的に怒られたら、さすがの僕も疲れるよ。




生活指導の男性教師はそれを見て僕を叱りつける様にこう言った。


「財布を持ってきた事に関しては家の事情もあるからしょうがないけどな!その中身に対しての認識はあるのか?って聞いてるんだよ!ふざけろなんて言ってない!」


大きな声だったからかまた新しい人がドタドタ入ってきて、そいつは妄想してた警察じゃなかったけど、元警察だった。


「すいません!場所わからなくて!生活指導の見学に来ました!」

と言ったのは五月さん?先生?だった。



僕は怒られている事をすっかり忘れて、アティウスのSPだと思ってたのに五月さんはどうして先生になったのか疑問に思い、まとまらない頭で変な聞き方をしてしまった。


「何でここに来たんですか?」


僕はいたって純粋に聞いたし、五月さんはいたって普通に返事をしようとしたんだ。けど。


僕らが顔見知りだって知らない生活指導の男の先生は僕の言葉が失礼だと思ったんだろう。舌打ちをして叩こうとしてきた。


もちろんビジョンで見えていたけど、僕は避けなかったんだ。なぜなら







「新任初日に申し訳ありません。ですが子供を叩くのは良くない。」

と五月さんが僕に振り下ろされた手を制して、獣の目で睨み生活指導の先生を止めてくれる。ビジョン通りになったからだ。



話は逸れるけど、まぁそんな事を言ってる五月さんにはこの先どつかれたり、ボコボコにされるんだけど。ハハハ。



僕はここでアークの言う通りこれは訓練だなと思った。

複数人の予測の予測。次の次の一手。きっといつか読める。百回、千回いや、アークみたいに賢くない。一万回、それ以上。でも、訓練を積めば読める気がしてきた。



一旦落ち着き、


「五月です。よろしくお願いします。」

と部屋の先生方にお辞儀をしたあと、


「天道君、財布に何か入れてきたんだろ?ナイフ?火薬?それとも炭疽菌かい??」


と真顔で質問をしてきた。

五月先生!更に大きく路線を外したんだけど!!

保健の先生が小声で

「×××です。」と教えてた。いやゴム製品じゃ無いんだけど!



しかし五月さん、本気で言ってるなら考え方のギャップがヤバいな。そんな五月さんは


「マジか?最近の子は早いな。性感染症対策が行き届いてると言うべきか、まぁジェントルマンと言えばジェントルマンですね。」と担任の先生に同意を得ようと話し掛けてたけど、担任の先生は

「はぁ。」と戸惑いの返事を返してたよ。



なんなんだこいつら。


ついに僕は

このはた迷惑なモンスターペアレンツならぬモンスターティーチャーズとデュエルしてやろうと思った。




とうとう僕のターンだ!ドロー!

って感じで財布からそれを出して言ってやったよ!


「先生方、これ、」財布から出してアレと似た大きさの袋を破り、ポキッと折って見せる!

本来なら胸を張って生徒に教えるべき保健の先生はキャッ!って言ってたけど無視して、を出して様の風格で見せたのはゴム製品では無くて





誕生日プレゼントで貰った父さんの形見の

【釣りホタル】だったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る