第50話 遭遇期⑮ ジル・アティウス

約1時間後、抗不安薬ってのを飲まされ、傷の手当てを済ました僕はカウンセラーになだめられて、落ち着いた状態にまで回復していた。薬って結構効くよね!何だかこの先の不安が1年分消えたような気がするよ!!


そのあと、警察と研究員に囲まれながら、地下の遺伝子研究所で取り調べを受けることになり。



「カツ丼はまだなんですか?それが来るまで話しません!」僕は言う時は言うぞ!

「天道君あのね、別におじさんたちさぁ犯人取り調べしてるんじゃないんだけどね、まぁいいか、お友達がかしこそうだし。」え~~話の対価は取るべきだよ!みんな!!安請け合いしちゃだめだよ!


「カガミ君、味わかんないじゃん!」とネネちゃん

違うよ!こーゆーのは場の雰囲気が大事なんだよ!



僕とネネちゃんと五月さつきさんは警察と話をしていたんだけど、病院長を狙ったテロが警察によって捕まる寸前に自決した。って事になりそうだった。

警察のいいとこどりじゃん!と思ったけど、後から合流したヒカルは

「大した傷じゃなくてよかった。骨も何ともなかったよ。警察の手柄になるんだってね。良かった~また狙われるのは勘弁だよ。」と言い


「みんな薬飲まされた??あれ嘘だよ。レモン水だった。看護師さんに確認したけど謝ってこられた。」


「えー!!僕は結構効いてると思ってたんだけどなぁ。」

「バカ程良く効く。」いらん事言わんでくださいヒカルさん。


「ネネも。プラセボ効果だったのね。。。でも警察のお手柄で良かったんじゃない?ハイドラにこっちの存在がバレてなきゃ良いなと思ってたの。」と言っていた。そうかコワくないから返り討ちとか考えてなかった。


五月さんはあまり話さずで、目をつぶっていたので、まるで寝ているようだった。


その後、偉い感じの、それでいて物腰の柔らかそうな50代くらいのおじさんが入ってきて、

「君が五月君かな?今回はお手柄をもらって悪かったね。何かで埋め合わせはするよ。出向先は文科省だったね。」と入ってすぐ話し出した。


「はい。特殊捜査課さんですか、お疲れ様です。先日退職しました五月 勝利です。」と言って敬礼した五月さんは実はマジもんの元警察で、手当を終えて最後に合流した竜二も

「えーーーーー!!」って言って驚いていた。


事の成り行きを一から説明していたが、五月さんが来てからの話は全て大人が説明してくれて僕らはうんうん!とかそうそう!!としかほとんど言わなかった。


五月さんはある程度嘘を付いていた。けど、僕らの有利になる嘘が多かった。


まぁこども達だけでテロの片方を無効化できるとも思わないだろうし、詳細は五月さんに任せて早く帰りたいな。と思っていた時。母さんからメールが来た。

佐井寺兄弟と竜二も数分遅れてメールか電話が来たんだ。


「今から行きます。」だけだった。


ヤバい。母さんはいつも必ずと言っていい程、いろんな種類のアホそうなスタンプを入れてくるんだけど今日はそれが無かった。絶対怒ってる。ちなみに色んな種類のスタンプが使えるサブスクリプションらしい。


母さんはムギ薬局からタクシーで飛ばして一番に着いた。

ケガをしている竜二を横目に見て、つかつか僕の所までノンストップで歩いてきて、

「あ、母さん!ゴメンナサイ!」と謝ろうとした時、この先のビジョンが見えてしまって。

僕は何も言えなくなった。


目の前に来てほっぺをパシッと叩いた。そしてギュっと抱きしめて、

「ホントに!母さん心配したんだから!」と言って一筋の涙をこぼした。


言葉の意味はよく分からなかったけど、僕はその日10ヶ所以上受けたどんな切り傷よりも、母さんのビンタが一番痛かった。。。




その後、暫くしてから来た竜二のお母さんは、わんわん泣いて、なだめるのに僕と竜二と母さんの三人がかりだった。

佐井寺夫妻は最後に訪れて、ネネちゃんはお父さんに、ヒカルはお母さんに抱き着かれていた。


一同集まった所で、特殊捜査課のおじさん通称【】が、話し出した。


「皆さん。お子さんを攻める気持ちはあると思いますが、今日説明した事自体が日本で初事例であり、予測不可だったと思います。


我々も密入国情報までは掴んでいたのですが、国際テロ組織と言う認識が無く、皆さんのお子様にケガをさせた事は不徳の致すところでした。本当に申し訳ありません。」

あまりに真摯な発言だった為か、子供達にも責任はある。と思っている為かはわからないが、反論する親もおらず。


「どうか寛大な目でお子さん方の成長を見守っていただけると、更に子供の未来は開かれると私としてはそう思います。」年配らしい良い意見だと思った。


「ここにいる元警察官の五月氏によって、犯人は自決しましたが、現段階では、町の安全は保たれましたので一応の解決とします。ご質問は??」

「万が一の話で申し訳ありませんが、次に対しての策は講じているのでしょうか?」佐井寺パパが聞くと


特オジは「防犯面での強化、及び向上を目的として、アティウスセンター長からの進言で国に直接提案があったみたいなのでそちらを対応策とさせていただく次第です。内容は追って保護者にご連絡するとの事です。」


「他には? ではセンター長の部屋に移動願います。ここで警察は失礼します。」


僕は母さんに「え?ジルさんとこ行くの??」と聞くと「そうみたいね。母さん仕事途中なんだけど。もしかしたらあの戦争、凄い事が起こるかもしれないの!」と返事された。あの戦争?世界のどこよりも規模の小さい戦争 【ムギ・ドコ戦争】かな? ワクワクした顔はさながら昼ドラを見て盛り上がる主婦の様だった。過ぎた事をグチグチ言わないのは母さんのいいとこだよね。





総務課と書かれた名札の女の人に連れられてエレベータを使って移動している

目的地に着くまでにヒカルからはこんな質問のお便りが届いた。

「カガミがさっき言ってた【ダークソーム】って何なの??」



「あぁ!ダクソ?あれね!あれは初期値ゼロの女性新人社員が配属された課で数々の敵を相手にブラック企業のホワイト化を図るゲームなんだけど、

新人って一番弱いじゃん??基本、先輩を怒らした時点でゲームオーバーなんだよ。」

「え?簡単に死ぬの?」

「いやいや実際には死なないよ!まぁではあるけど。

紛争地帯の支店に飛ばされたり、家に帰ったら課長に放火されて家屋全焼してるくらいだよ!あと嫌な同期に雑巾の匂いがするお茶を飲まされたりして病院送りとか。レーディングは守ってるし、別にコワくない。死にゲーの真骨頂をあじわえるよ。」

「十分怖いんだけど!!クソゲーじゃん!」

「違うよまだまだ青いねヒカル君。クソゲーと神ゲーは薄皮あんぱんの皮、一枚分の差しか無い。紙一重だって事だよ。」「ふーん。」まぁ素人にゃわかんねーか。


ネネちゃんは竜二と話してて、

防犯面での強化って言ってたけど、普通、?じゃないの??変な言い方だと思うんだけど竜二君はどう思う?」と聞かれて

竜二は

「ん~気にならなかったけど、なんかそう言われると俺たちに何かボディーガードが付けられるみたいな感じがするよね。」と話していた。




そんな話をしながら、何重ものセキュリティーを乗り越えて着いたのは、【センター長室】と書かれた医局の一角だった。


ドアを開けると昔、エントランスで顔を見た事のある背の高いスラっとした外国人が立って外を眺めていた。この人がジル・アティウスか。そんな気持ちで眺めていると振り返って、僕らを見て話しかけてきた。

「こんにちは。みんなケガは大丈夫かい?まぁ皆さん座ってください。」

大人は応接間の良い椅子に座り、子供は椅子が無いから立ったままだった。


「この度は僕の襲撃に巻き込まれて済まなかった。心よりお詫び申し上げるよ。お子さんたちは初めましてかな?私がここのセンター長、ジル・アティウスだ。」

僕達に穏やかな口調で謝って来た。


「説明と弁明に少し時間をいただきますが、お父さん、お母さん方には個人情報をそれぞれの家族に開示する予定です。構いませんか?・・・・。」

異論を唱える者はいなかった。母さんは帰りたそうだったけど。

「了承した。と捉えるよ。ここでの話はお互い内密に願います。」



「今から約8年程前に、ここにいるヒカル君・ネネさん・竜二君そして、・・・君たちと他のは、裂傷性れっしょうせい心房中隔しんぼうちゅうかく欠損けっそんいわゆる【T-SADティーサッド】の手術を受けた。」

ヒカルの両親が、僕を驚きの目で見た。罪悪感はあるが、、、しょうがない。


ネネちゃんが

「やっぱり7人。」と呟いて下を向いた。


一方、ヒカルはそんな親の驚きなんかどうでもいい、と言わんばかりに

「他の三人の生存は?!」と心配が勝って聞いてしまった。


ジルの答えは

「君たち同様、先ほど三人の生存確認ができた。安心してくれ。」と言った。

僕たちはホッとした。やっとこのモヤモヤが一つ晴れた気分だった。


佐井寺パパは自分の聞いていた話の辻褄が合わない事に気づいて質問した。

「私は君自身の口から以前、T-SAD患者はだと聞いていたが、嘘だったんだね。」と極めて冷静に、怒りを見せない、それでいて、もう嘘は付けないぞ。と言う怒気も孕んでいる様な聞き方だった。

まぁヒカルがいる時点で嘘は付けないけどね。


「その事については弁明させて頂きたい。佐井寺さんに話した時はあらゆるデータと臨床経験を踏まえて、その段階ではいづれ5人になる可能性の方が圧倒的・そして絶望的に高かった。」


「体が成長してやっとカテーテルで心臓の筋肉をサンプリングできる3歳になった時 心筋生検で取って来た心筋細胞の中に【劇症型】が2人見つかったんだ。


T-SADの進行具合から言ってこの二人は5・6歳には死ぬ。 


それまでは7人全員を何としてでも生存させるつもりでいた。結果的には今日まで7人全員生存している。開き直るつもりは無いが、T-SADを克服できたんだ。我々アティウス一族の悲願が達成された。」


「T-SAD患者のデータは出生前から3歳の終わりぐらいまでハイドラに盗まれ続けたが、最後には、7名のうち2名は5歳まで持つかわからず、じきに死ぬ。との内容だった。つまり劇症型2したんだ。」


佐井寺パパが話し出す。

「以前だったら、私はその2名を、うちの子供達をハイドラの危険に晒す差別はどうなんだ?と聞いていたかもしれないが。私達夫婦はカガミ君と出会ってしまった。理由があるんだろうけど僕はどんな理由でも非難しない。の事が好きだからね。」そう言ってこっちを向いて笑ってくれた。


心が救われるような気がした。

「理由をききたい。いいかい?ジル。」話に納得して佐井寺パパは既に怒っておらず、旧友と話す口調になっていた。


ジルは「すまない私は治療がメインで、副センター長。そちらにいらっしゃる天道さんの夫 天道京介てんどう きょうすけ君から説明が無かった。については彼に一任していたんだ。」


「イチゴサイダー?!そうだよ!それって一体何なんですか??ハイドラは僕たちの総称みたいに呼んでるけど、僕たちはアゼレア教のスパイにT-SADティーサッドって名づけられたんじゃ?」


「そうだよ!!かと思えばカガミの父さんがやってたゲームの必殺技の名前にも使われてた!」と竜二

「そうなの!?知らなかった・・・。」とネネちゃんが言って僕はジルを凝視したが、


ジルは「イチゴサイダーの由来は知らない。申し訳ない。ただ京介は数年間ずっとT-SADは嫌だって言ってた。ある時から急にイチゴサイダーにしよう!!って言いだしたんだ。「明るくてポップでんだ!」そんな事を言ってたと思う。」と言った。


「きっとハイドラは母親の羊水と出産前検査のを盗んだ際に、それを真似して人為的にT-SADを作り始めていたんだ。その証拠が先ほど回収されたご遺体で証明された。解剖結果は機密事項だが、同じぐらいの年のセビエド少年も心房に薄いが付いていたんだ。しかも追加で心室にもだ。時限爆弾を植え込まれて今日まで生きてきた様だ。許せない。むごい事をする。」ジルはハイドラに対しての怒りを隠せず怖い顔になっていた。


僕は少ししか内容がわからなかったが、その話にネネちゃんは明らかに戦慄した表情だった。


そこで僕の母さんが「イチゴサイダーの由来わかるかもしれません。この事を内緒にするなら皆さんに閲覧を許可します。インターネットだから流した動画が最悪第三者に見られる危険性もあるの。それでもいい??」と言い出した。母さん!突然自分の趣味の【ユアチューブ】とか流さないでね!(焦)


ジルを含めみんなうなずいていた。

母さんはスマホを取り出すと見た事ないアプリを立ち上げ、顔認証で進んだ後、スマホに向かって話し出した。

「アーク。イチゴサイダーの由来を教えて頂戴。」

タイムラグを感じない速度でスマホが返事をする

「かしこまりました。検索ワード イチゴサイダ―の由来ですね?」

少しだけ機械的な女の人の声が驚くほどスムーズに聞こえてくる。


ネネちゃんが

「これって! 【I-AMS】!?インターネット接続型!!」と言い

母さんはネネちゃんを見て優しく そうだよと言う感じの頷きをした。

前に言ってたインタラクティブ・アーカイブ・メモリー・システムか!母さんログインしてたんだ。


母さんのスマホから声が聞こえてくる。


「ファイル1」アークと呼ばれたその声の持ち主がそう話すと次の瞬間、動画が再生された。


そこに現れたのはずっとずっと会いたかった。生きていた頃の僕の父さん。天道 京介だった。

父さんはまるでテレビ電話をして生きているかのように優しく話し出した。



「みかんちゃん。カガミ。元気かい? もうずいぶん経つのかな? ちょっとだけ昔話をしよう。」

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