第二章
第51話 夏休期① パスワード
小さいスマホの画面から過去の父さんが優しい声で話しかけてくる。
「みかんちゃん。カガミ。元気かい? もうずいぶん経つのかな? ちょっとだけ昔話をしよう。」
そう言って父さんは研究所なのか自宅ではないどこかで話を始めた。
「初めに断っておくけど、ビデオなんで返事できないよ。」AIがデータから引き出してきた適当な動画で作り物か合成かもと疑ったけど、悪戯っぽく笑う父さんは正真正銘の天道京介だった。
「まずこの対話型の記録AI インタラクティブ アーカイブメモリーシステム。 略して【
何度か話したからパスについて心当たりはあったかも知れないね。それよりもQRコードを読み込めるかが心配だよ。ってそんな訳ないか!」
あ、母さん恥ずかしそうにしてる。図星だったね。僕だけは知ってるよ。
「逆にカガミは見つけれなくてもいいとすら思ってる。好きなゲームにヒントを混ぜ込んだりしたけどわからない方が普通さ。そう!【普通】。
お前には
僕と竜二はあのゲームの事か!と顔を見合わせ驚いていた。
そして少し真剣な顔つきだったからきっと冗談じゃない。僕に苦難が降り注ぐことを示唆している話を聞いてしまった。そして、5人・・・。
母さんも言ってた【その時】が来るんだ。それまではせめて楽しく過ごしてほしいって事なのか?母さんに全寮制の男子高にぶち込まれるとか??
ネネちゃんが
「京介さんは死を覚悟してたんですか!?」とたまらず母さんに質問したけど母さんは
「このビデオの段階では予測と言った方がいいわね。」と返した。
まだ疑問の残るネネちゃんを後目に父さんの話が続く
「6年くらい前、僕はまさか自身の子供がアザレア教の名付けた【T-SAD】裂傷性心房中隔欠損の予備軍だなんて信じる事が出来なかった。それまではひどい話、T-SADは研究対象であって対岸の火事だったのかもしれない。
生まれてくるカガミがひたすら無事に健康に生きる事だけを願って過ごした時期もあったけど、自分が間近で見れると言う権利を得た事を逆手に国の仕事はさておいて、全力でカガミを救う方法を勉強しだした。」
6年前に羊水検査で分かったって事は、僕が手術をする年、5歳くらいの時の映像か。この後余命幾ばくかしかない父さんを見るのは心苦しかった。
また話が始まる。
「ジルからは肉親が絡む事は医療現場では良くないとの理由でアルビノの子供一人だけ担当させてもらい、残りのカガミを含む6人は部下の
ヒカルとヒカルパパが同じぐらいのタイミングで「えっ!」と声を出した。母さんはさすがに大人をスルー出来ず一旦動画を止めた。
そして僕に以前言ったような説明をしようとしたが、先に話し出したのはジルさんだった。
「その垂水君だが、京介と同じくらいに・・・亡くなったよ。 まだ若かった。京介の言う事を聞いていれば今頃は・・・。」
ジルさんは沈痛な面持ちで話したが納得できない顔見知りのヒカルパパは
「垂水君も亡くなったのか?あのうちにも来ていた若い子だろ?ネネを助けてくれた!?」
と聞いて僕の父さんのビデオは目が半開きのまま今にも「だなも」って言いそうな表情で待機させられてた。
ジルさんが話を続ける
「そうです。
佐井寺さんのお子さんの生存率を上げる為に京介は考えたんだが、
彼は
【T-SADが産生するホルモンの利用用途について】と言うファイルには興味深い内容の記述がされていたよ。」
「それは見れないんですか?」竜二も気になるよな、当然僕もだ。
だが
「悪いがそれは現段階では見に行きたくても見に行けない所にある。【ほろびのうた】の汚染地域に亡くなった2人はいるんだ。ファイルもそこに・・・。」と言われてしまった。
そのファイルはハイドラに取られたのか?と思ったけど、予想を超える回答をされた。なんだ!?そのパチモンの技にある危ないワードは??
「あ、裏聖典にも記載してた!【ほろびのうた】!」
つい声に出してしまった。
ジルさんは
「【ほろびのうた】は300年前のウィルスと考えられている。
ファイルに関しては少しだけ覚えていて内容は、
T-SAD改め、イチゴサイダーは必要時に必要なホルモン、あるいは前駆物質を体内で生成し、オリジナルの薬を一種類のみ血液に宿すことが出来る。更に接触感染や空気感染によって伝播する能力を持っている。と書いてあった気がする。」
「私達としてはそんな馬鹿な事があってたまるか!と思ったよ。何年も何十年にも及ぶ研究でその中でも一握りしか日の目を見ない新薬開発が、小さな子供の体一つで簡単に都合よくできてしまうなんて納得いかなかった。
でも違ったんだ。まず、300年前の子供たちは自分の身を削って、それこそ命と代償に薬を捻出してくれていた。そしてそれに相、反する力も併せ持っていた
「【賢人の 嘆き涙はその一雫で万の民を毒し 喜び涙はその一雫で万の民を癒す】ですね。」
ヒカルがジルさんに呟くように話す裏聖典の初めの文章か。
「さすがはイチゴサイダーだね。賢い。余談だが京介は君たちの賢さに危険を感じて、本部へ、いやアザレア教のスパイへ向けてイチゴサイダーの知能指数を偽って報告していた。賢いと知るのはアティウス一族で私だけだ。
強化感覚を有するイチゴサイダーの君たちは、脳の高速処理をした際、オーバーヒートを避ける為、一部休眠状態の脳を作っている。
感情・感覚の欠損を発症しながら、一方でアクティブな方の活動脳の接続役であるシナプスは桁違いに多く、早いんだ。それが作用して知能指数が高い原因になっているんだよ。
現在イチゴサイダーのみんなはヒカル君以外、良い薬だけじゃなく、300年前にはやった疫病、京介の命名した病名で言う【ほろびのうた】を生成してしまう可能性を孕んでいるんだ。」
なるほど、だから父さんは【嘆いて】欲しくなくて僕に絶望するなって言ったんだな。
そう思って周りを見たら子供3人はちょービビってたが、佐井寺パパは一人、理解はしていた。
あ、みんなビビってるから父さんの事忘れてない??僕は母さんに声をかけた
「母さん続きを。」
「あ、えっ!うん。」母さんまた別の事考えてたんじゃないだろーね!!ムギドコ戦争はそろそろ決着したかな?とか。 も―こんな時に!
再生を押すと半開きの目が再び戻りまた話し出す。
「そのアルビノの子と出会ってから
僕はT-SADと言う言葉が嫌いになった。イチゴサイダーの由来はその子が発した一つの勘違いと僕のダジャレから生まれたんだ。」
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