第40話 遭遇期⑤ アザレア教の真実

アザレア教 裏聖典


表紙だけで1㎝近くある重厚なその本の最初のページにはこう書かれているみたいだ。


【賢人の 嘆き涙はその一雫で万の民を毒し

     喜び涙はその一雫で万の民を癒す】


少々時間の立った粘着性が消えた付箋に読んだ人の日本語訳 兼 考察が書かれていた。



佐井寺パパが脚色無しで、ページのメモを淡々と読み上げる。


1700年代 当時 恐ろしいほどの勢いで流行り病が世界を蔓延ろうとした時、死を受け入れ散っていく人間がいるそばで、

その運命に抗い現場で患者を診て治療に当たる人間も数多く存在した。


その中の一人 駆け出しの医師オリビア・アティウスは出産の手伝いで急遽呼ばれた小さな村、村と言うのはおこがましい 


当時病気から逃げ延びた人たちの寄せ集めの避難所の中で

7人の赤ん坊たちとその子らにかかわる全ての人がその病気に対して負けない力、今でいう所の強い耐性を持つことに気付く。


オリビアは献身的なアザレア教の教徒でもあり赤ん坊たちに感謝しまた、教会組織に連絡して村への治療と研究を理由に滞在の許可を得た。



一体何によってその効果が発生しているのか?と住民の治療の傍ら赤ん坊に対しても研究を続けた。教皇の命により教会側は多額の援助をしていたが、最高位の教皇はまだ若く実効支配していたその下の何人かの枢機卿達が病気の耐性の恩恵にあやかりたいだけだったと言う。



教会側はその子らを御子として崇め、生まれて間もない子達7人を【賢者】もしくは【賢人】とよんで教徒に伝聞した。


この頃から主神アザレアと7賢人が世界を救うという話に好感を得た民たちのおかげで大きく発展していく。

この発展の際、【アザレアの花の絵】のシンボルが、「民草に印象が強い」という理由で枢機卿達の手によって【8つのくちばし】のシンボルマークに替わったと言われている。



 当初オリビアがしていたことは、医師として、また治療法としてはおこがましいが、耐性の無いであろう人を集め、赤ん坊をその親たちと一緒に

面白おかしくあやして喜ばせているだけだった。


しかし不思議と耐性が付いて病気による死人が減っている実感を得たオリビアが次にとった行動は

赤ん坊の分泌物、血液、また便、尿に至るまでその効果が無いか調べ ついには【涙】と、【血液】にその強い効果があることを突き止めた。

 オリビアは木でくちばし状のマスクを作りその先に羊毛を詰め、赤ちゃんが流した涙を浸して、蒸発するそれを吸い 瘴気から守ってくれる事を信じ治療にあたって、何千・何万の数えきれない人間を救った。



【賢人の涙】と言われる液体を少し近くで吸うだけで効くを各地に運び奮闘する医師。救われた人々からはその奇妙な出で立ちを記憶するものも多く、付けられた呼び名は

【アザレアの嘴(くちばし)医】である。


オリビアの研究功績は多く 非常に細かい、当時では考えられなかった様な説を唱え まるで現代の私たちに問いかけてくるような文章だった。


流行り病の症状は感染直後 

まず6時間で充血し眼球の眼痛

そして24時間以内に発熱と呼吸器症状が起こる

24~48時間以内に眼痛が重症化し出血

72時間以内に90%以上を死に至らしめる。 


感染した際、24がそれ以降は死亡後暫く 感染源となる。感染した死体に関しては血液の循環が止まって固まったのち体液の水分が蒸発を終えると空気感染が終わる。と考えられているが未だ不明だ。

希望が見いだせたのは発症してしまった人間でも【賢人の涙】によって回復する可能性があるという事だった。


付箋でたった 3日しか生きれない 恐ろしい感染症 仮名称【ほろびのうた】と京介の字でメモされていた。


 子供たちがすくすくと育つにつれ、オリビアはいくつか気付いたことがあった。

外見だけで言うと最初に生まれた【アルビノ種】が1人と、【目の色が違う者】が1人おり見た目で「特別な子なんだ」と思えた程だった。


成長から見て終わりの方に産まれたであろう1人は孤児みなしごで親の愛を受けておらず泣くことが多かった。7人の子らは

かわいそうだが症状で言うと

【耳が聞こえない】

【目が見えない】

【においがわからない】

【触られているかわからない】

【色がわからない】


更に成長すると

【怒らない】

【笑わない】

【喜ばない】

【驚かない】

【楽しまない】

【泣かない】


と感覚や感情まで欠如していた。しかし不思議なことに生きてく上で必要な能力が無い子もいるのに例えば【目の見えない子】は

きちんと空間を把握していたし【触れているかわからない】子は視覚情報だけで、あるいはものの『何か』を感じ取って

持ったり、投げたりできていた。 オリビアはそんなすくすくと成長する姿を心の癒しにし仕事に没頭した。


しかし、事件は起こった、子供の成長が進むにつれ【賢人の涙】の効果が薄くなってきたのだ、オリビアは焦った、

その頃子供たちの年齢にして3歳、国土のほとんどが子どもたちによって治癒し発症が収束する寸前だった。


治療のため無理やり連れていかれた村で母親たちから離れて笑わせられたりしていたが、涙は出れどそれに

耐性の効果が見られなくなってきた。そして大切に扱っていた子供のうち2人がまるで魚のごとくパクパクと空気を欲しがりながら顔を真っ青にして死んでいった。齢6歳を迎える前に2人が他界。


枢機卿達は生き残った子供らのうち2人を事実上の実験として教会に迎え入れるが

10歳までにどちらも死んだとされている。その期間で 教会内部で多数の死亡者が出た、子供の奪い合いの争いかあるいは・・・


結局 時間をかけて世界から流行り病は収束したが残った5人の子供たちは15歳を迎える頃には全て死んでしまった。


オリビアはなぜ自分だけが生き残り、年端もいかない子供たちが見えない何かに首を絞められたように苦しい姿で死んでいったのか?

といたたまれなくなり教会に懺悔をするようになる。



ある日懺悔が終わり告解部屋から出ようとしたその時、いつも話を聞いてくれていたであろう懺悔聴聞者があちらから話しかけてきた。


優しい女の声で「タブーかもしれませんが亡くなった子供達の体は解体し終わりました、何人かの賢者様はアザレア教会で実験と言う名のひどい仕打ちを受け、【毒】を作らされているようです。こちら側の汚れ役は私が引き受けます。あなたの医療に、人生に貢献させてください。」


と解体された内容の資料を渡された。 その資料はオリビアに受け取られ大切に保管され続けた。



「あなたのしてきた事すべてが未来へつながっています。私は昔、小さな白の賢者様にあった時、

【嘴の先生と年を取った私が仲良く笑ってる。】と言われました。まだあなたと私が


泣かないで。前を向いて。あなたと私で出来る事すべてに尽力を尽くしましょう。」




佐井寺パパは「ここからは考察みたいだね。」

と言うとまた読み出した。


当時【ターヘルアナトミア】。のちに日本にわたる【解体新書】の原文はまだ有名ではなく宗教徒でもあった為、

子供の死体の解体が【タブー】である心配を恐れ。彼はアザレア教会から離れていった。と言うことになっているが。


実際はオリビア・アティウスの懺悔を聞いていた最高位の教皇であり最後の血脈である「アザレア・アザリエ」の異端審問で、彼女を庇った為、2人はアザレア教を追放されたそうだ。


オリビアとともにアザリエが抜けたアザレア教はその後、枢機卿3人が結託して自分達こそが正統なアザレア教だ として名乗り、

人体実験をして賢者の悲しみの末、涙から新たな毒を作る事に成功する。そして歴史上何度となくアティウス家を狙うもその行動の奇妙さから

次々と教団を脱退していくものが増える。

現在アザレア教は邪教として解体されつつあり一部の過激派が各国で鉱山の横取りや、システムハックなど傍から見て何の脈絡も無い破壊工作を行っているが、いずれ私たちの敵になる可能性が高い。


枢機卿達の支配する末期のアザレア教は8つの嘴のマークが書かれた

 規則を重んじ節制を謳った経典を【聖典】 


この花のマーク(初代アザレア教のマーク)が書かれた

アティウスの子孫達が書き綴った書物を【裏聖典】

と呼び 後者を異端書として抹消する為、血眼で探していたが、強奪依頼された者たちは金に目がくらみ高値で売買を繰り返していたようだ。持ち主を転々とし、結果、

現在ここに保管されているのではないだろうか?



。。。読み終えた後の佐井寺パパを一同はしばらく、ただただ口を開けて眺めるだけだった。

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