第35話 接触期⑪ 濃厚な匂いとの接触

海から上がってスイカ割りを済ますと日差しの強かったのもあって、既に水着は乾いていた。

みんなで別荘に帰ってシャワーを順番に入って着替え終えまた一階に集まると竜二が話しかけてきた。


「ネネちゃんとさぁ夏休みの終わりの花火大会行く話になったぜ!」

「良かったね陸地で。がんばれよ。」

「何その塩対応。いや4人で行くからカガミもだけど。」

「勝手だなぁ。別に2人で行きなよ、僕は友達と遊んでて毎日忙しいんだ。」

「その友達が俺たちだけなんだが・・・とりあえず行く方向でいい?」

「はい。もちろんです。」

「じゃ何で一旦抵抗したんだよ!!」とワイワイしてたら2階からネネちゃんが下りて来て。

「近くにゲームショップあるけど見に行く?」って言ったんだ。僕はそれを聞いてダッシュでお財布を取りに行って階段を転げるように降りて、まー最後の段でホントに「うゎ~!」って言いながら転んだんだけどローリングしながら流れるように正座に持っていって「是非いかせてください!」と懇願した。着地がキレイだったら良しだよね?


ネネちゃんは若干引いていたが

「じゃ~いこっか?」って言って竜二と春日さんの4人でゲームショップに繰り出した。


車で約5分の所に個人でやってるゲームショップがあって地元のおじちゃんが昔からやってるようなそんな雰囲気だった。


ここでも僕は「ぅおっしゃー!!!!!!」と喜ぶビジョンを見てしまった。


ネネちゃんは店の外のガチャガチャを見てて竜二と来店。

「新作もあるけどこんな所にカガミの欲しいもん無いだろ?」

「いや、こういう田舎の中古程、何かんだよな。」と言って二人で中古コーナーに向かって行った。


そこで僕はとうとう人生で触れる事すらできないと思われていた幻の作品に出合ってしまう。


「竜二!おい竜二!やったぜ、僕はこの日の為に生まれてきたのかもしれない。」

「違うと思うぞ。で、何が匂ったんだ?」

「濃厚なソースの匂いさ。」


僕は店員さんと目が合いそれを指差して

「さ、さわっても?」と少し離れた定員さんに聞いて「どうぞ~」と返事が返ってきた。


恐る恐る手に取ったゲームは【USO仮面 ヤキソバ面】 「ぅおっしゃー!!!!!!」と言ってしまった。とうとう手に取ってしまった!

このゲームが幻たる所以ゆえんのだ。

なんとカップ焼きそばの懸賞品で世に出回った伝説のスーハミカセットだった。


写真の外装は懸賞品だったが、のちに一般販売された物はイラストが外装になっていたはず。


これは写真だ偽物パチモンじゃない!初めて触って感動しつつも気になるのはお値段ですが、値段を見ると8000円。買えないね。


と、おじさんが寄ったきた。

「それさぁ800円で良いよ。今時スーハミカセット売れないし。って買わないか。」

「いや、マジですか?ください。買います!」

僕は触れるだけでは済まずとうとう自分のものにしてしまった!「やったーー!!」




別荘に帰ると佐井寺ママと春日さんが夕飯の支度をし始めていて、ヒカルとパパは小さな車庫で読書していた。ここにもあるんだなぁ書庫。おじいさんがよっぽど好きだったんだろうね。

ヒカルに本を読んだまま「おかえり~」と言われ僕らは「ただいま~」と返した。


夕方になりカエルが合唱を始めている。僕たち3人はご飯が出来るまで竜二の借りてる部屋で話す事になった。


「カガミ君嬉しそうだね!」ネネちゃんは今日のMVPです。

「なんか古いカセット買ったらしいぞ!」

「確かに古い。でもこのカセットは当時懸賞でしか貰えなかったんだよ!!ゲーム自体も懸賞品とは思えない完成度で後々販売に至ったみたいだけど。 僕は今回の旅でこの出会いに感謝してる。90%くらい旅の目的完了だよ!もちろん僕とカセットを引き合わせてくれたネネちゃんにも感謝は忘れないよ。なんか恩返しします。」僕は素足のネネちゃんの足ツボでもマッサージして差し上げようかと考えて見ていたが


「いや、それはいいんだけど、どんなゲームなの?」拒否されてしまった。

「ああ、USO=ウルトラソース でお馴染みのカップ焼きそばが商品のキャラクターだったんだけど、主人公が【ヤキソバ面】って言う仮面をかぶってを倒しに行くブルな横スクロールアクションだよ。」

「へ~。」あれ?引きが弱かったかな?


「屋台で食べるヤキソバよりも僕はこのカップ焼きそばの方が好きかも。あ、そうだお祭り行くんだよね?」話と発想の転換はいつでも必要だよね。ぼくがここでゲームの話をしちゃうと竜二は乗って来てもネネちゃんはつまらないし、ゲームネタは本気で火が付くと深夜まで話す恐れもある。


竜二は「そうそう夏の夜に塔がライトアップされてて、最後の日はお祭りがあって花火があがるんだ。」

「僕、行った事ないからわかんないんだけど、竜二とネネちゃんは?」

「俺は小学校の友達何人かで去年行ったぜ!混んでた~。場所にもよるけど手を繋がなきゃはぐれる位、人が多かったよ!スマホなかったからみんな必死で!」友達いる自慢か・・・けっ!聞くんじゃなかった。


「私も家族で去年行ったよ!塔の後ろでいっぱい屋台があってすっごい楽しかった!!竜二君と合ってたかもしれないね! そういえばヤキソバも食べたよ!お兄ちゃんは広島焼きを食べて「なんで広島なんだ?」って言ってた。どーでも良かったけど。」おいたわしやヒカル様。

続けてネネちゃんが「あの塔は50年以上前に出来てて有名なデザイナーさんが立てたものなんだって!」

「そうそう知ってる!!僕も小学校で市の事を調べるのに遠足で塔まで行ったけど怖いくらいデカかった。あそこの広場でお祭りするんだ~。」と楽しみになってきた。あ、竜二め、こっち見て(ど~せ行きたくなったんだろ?)って顔してる。なんかしゃくだなぁ。

まぁ結構楽しみだ。しょうがない行ってやるとすっか。


「ネネちゃんはお祭りで一番何が楽しかったの?」と聞くと

「ピンボールとりんご飴!」って言われて二人とも顔を見合わせて一瞬間が開いたあと、一緒に笑ってしまった。

ネネちゃんは「なんで笑うのよ~~!」って言ってきたけど

竜二は「金魚すくいとか射的とか有名どころ外してピンボールって来るとこがネネちゃんらしいよ!!」って笑顔で言って、僕も同意見だったからうんうんて首を振ったら。ネネちゃんは恥ずかしそうに

「めちゃくちゃ計算して高得点狙うの。変かな??」って上目遣いで聞いてきて、僕は竜二がネネちゃんを好きな理由がちょっとだけわかった気がした。



「お夕食が出来上がりましたので1階へどうぞ。」春日さんの声がして

3人は「は~い!」と言って階段を下りてみんなと合流。

夕食は豪華で家で食べた事ないものがあったけど気にせず食べた。もちろんテーブルの下では竜二の足を踏んで味覚を分けてもらっていたが、竜二は好物の時、たまにリンクを解除して味わっていたので僕は味覚無しの時間が多かった。ヒカルもいるし合宿中は竜二以外にも【味覚のリンク】を交渉してみる価値はあるな。


食後、佐井寺パパは「食べ過ぎた玄白すぎた げんぱく」と言ってギャグをネネちゃんに言っていたが、ネネちゃんは「は?」って言って反抗期を垣間見てしまった。

お父さん僕は面白いと思いますよ。今後はそのネタ僕に譲ってください。まぁ聞いたことある人だけど歴史上の人だよね?きっと授業で習った時思い出して

吹くんだろーなー。自分の想像力が怖いよ。怖さ感じないけどね。



少し時間が空いて

佐井寺ママが春日さんと部屋の電気を消して【13】のローソクに灯がともったアイスケーキを一つずつ

持ってきて定番ソングを歌い出したので僕ももちろん参加して最後の歌詞で

「トゥ~~~ユゥゥゥゥゥ~~~~~~~~~~~。」とプロ並みのアレンジとコブシを効かせると大人たちは下手だったからか、笑ってくれてウケたんだけど、子供3人は【早よしろ】オーラが凄かった。


こうして無事、佐井寺兄妹は13歳への階段を僕より一歩先に登った。

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