第30話 接触期⑥ 達人になる為に

僕たちは今、車に乗っている。

「うっひゃーーー!風がきもちウィーーー!」

「危ないですよ天道様。」

「あっ、はい。」

佐井寺一家4人とメイドの春日さん、おまけの僕と竜二が乗った7人乗りの車は僕らの住んでる街を離れ、つい先程から見える海がきらめく海岸線を走っていた。


「ヒカル達にこんな賑やかなお友達が2人も出来るなんてお母さん嬉しいわ!」

「ちょっと前まで引きこもりの小学生だったのにね。でもカガミ君が京介の息子だったなんて、子供がいることすら知らなかったからビックリだよ!」


「いやー佐井寺さんのお子様にはいつもお世話になってまして。先日のテストでもネネさんのお陰で点数を取れた様なものでしたよ。さすがですね!お父様、お母様。」

太鼓を持つ=機嫌を取る それ即ち世渡りの基本だ。


三列シートの2列目に乗るヒカルの両親は僕を見て優しく話しかけてくれて、それに丁寧に答える。



両親はメチャクチャ美男美女だった。そりゃこの2人の子供だったらああなるわな、あの兄妹。しかも外車でメイド有り。ステータスカンストじゃん!


僕もこの就職難の時代、いつか到来する厳しい会社生活を見据えて、ゴマのすり方、太鼓の持ち方を日々研究し、実践形式で大人(お金持ち)に対応していた。


そう!今は佐井寺兄妹を持ち上げて両親に学校生活が順調な事をアピールする時間。名付けて

【接待ドライブ】タイムだ!


あえて春日さんの運転する隣の助手席に乗ったのは春日さんの大きな胸を見る為では無く、、、


や、それもあるんだけど、兄妹の良い所をさりげに両親にアピれば、地の底まで落ちたネネちゃんの信頼も少しは回復するのではないか?と言う打算付きの結果でもある。


それなのに三列シート最後尾の3人と来たら

「カガミーはしゃぎ過ぎるなよー!」

とか

「前までお菓子回すのめんどくさいから僕達で食べよう」

「お兄ちゃん!それネネのなんだけど!!」

だとよ。


やだねー子供達は。今のうちに太鼓を持たなきゃにはなれないよ。その点僕は金銭的にでも世渡りの基本は抑えてるつもりだ、っ!と来い!って感じには仕上がってます。


僕は春日さんに

「あとどれくらいで着くんですか?」と聞くと

「海岸通りの混み具合にもよりますが順調に進めば10分程で到着ですよ。」と言われ、「なるほどー。」と答えた。

ここまで1時間ちょっとだったので結構近いんだなぁーと思った。


振り返って2列目のヒカル達の両親に話しかけた。

「別荘って使ってない時はどうしてるんですか??」と聞くと

ヒカルの父さんは

「うちのは誰かとシェアしてる訳じゃないからそのままだねー。ホコリもたくさん積もると思うよ。でも定期的に来てるのと、使う時の直前に清掃業者に来てもらってキレイに清掃してもらうんだよ。カガミ君はアレルギーとかあったりする?ホコリっぽかったら言ってね。」


「僕はアレルギーとか無いですがエネルギーはあるんで良ければなんでも使ってください!!」

「アハハ!元気な子だね!京介に似てるよ!」


そうか父さんもこんなノリで仲良く接してたのかなぁと思うと少しヒカルの両親に親近感が湧いてきた。


でも、おうちの方は開けちゃって良いのかな?大事な【本】があるんじゃ?僕は少し気がかりになったけどせっかくの合宿だ。楽しまなきゃ損だよね!


車は徐々に木々が茂る方に入っていき、他の車も少なくなって数分、ようやく着いた。


雑木林が近くにあって洋風の建物だった。玄関の近くにもう一台車が止まっていたが、中から2人作業着のお兄さん達が降りてきて、


「佐井寺さん!いつもありがとうございます!清掃終わりました!シーツ等は7組で一応3日分用意してますので交換の方はそちらでお願いしてますがよろしいですか?」

と元気よく挨拶と業務連絡を話してきた。

佐井寺父は「わかりました!ありがとう。今回も助かりました。」と言い

隣の春日さんが鍵と領収書をお兄さんから預かり、スマートフォンを片手に

「今振り込みを完了しましたので明日には入金されていると思います。もし不備がありましたらこちらまでご連絡下さい。」と話し合っていた。


「ありがとうございます!ではまた御贔屓に。」と営業スマイルで別れ、車に向かう業者さん達。

暑い中大変だね。お疲れ様と思ってみていたら、


車からまた業者さん達2人が出てきて


「佐井寺さん!ちょっとすいません、もう1人の新人が清掃中に張り切っちゃったみたいで、棚をどかしてまで掃除しようとしたら扉があっ 」

ヒカルの父さんが来て、

「私が聞こう、春日さんたちは先に入ってて。」と話を制して割り込んできて

春日さんは「かしこまりました。」と言って僕たちを連れて別荘に入って行った。


「ここが噂の別荘か・・・ついに来ちまったな!竜二、まずはお前のスキル【OBKオービーケ―サーチ】だ!」

「OK!って見えねーよOBKオービーケ―は!」

竜二、唐突なボケに対しての乗りツッコミに感謝はしてるけどそこは【技名】まで言って欲しかった。


ネネちゃんは「竜二君!OBKって何??」とワクワクした顔で質問して、ヒカルは

「何言ってんの?ま、とりあえずスリッパ履いて上がろうよ。」と言ってきた。

竜二が

「カガミが作った無駄な略語ランキング第一位 OBKオービーケ―知りたい?」

「うんうん!知りたい知りたい!!」 仲いいですなぁ。

「オバケの事らしいよ。」

「へ~。。。それよかスイカ冷蔵庫に入れて冷やそうよ!!スイカスイカ!!」

「OK!どこ持ってけばいい?」 


おいお~い!OBKオービーケ―興味ナシか~い!!そこはネネちゃん!「略されてな~い!」とか、「無駄じゃない?」とかでいいから反応して欲しかったと言うか、それよりも!?

僕は一気にテンションが上がった!!!とうとう!念願のスイカを味わえるんだ!!!!!!

「うぉ~~~!!スイカがあるんだぁーーー!!!」

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