第22話 発症期⑧ 僕の話

1学期の終わる終業式当日。テスト結果と順位が発表され僕はスマホ行きの切符を確信していた。

学年上位。ただ腑に落ちない点もある。僕が学年総合5位って事だった。十分いい。良すぎるぐらいだ。でも。。。


「カガミはすごいよ!」ヒカルがほめてくれてる。彼の中で僕はT-SADティーサッドじゃないと言う認識だから誉めてもらえてる。学年2位からは称賛。でもT-SADだったら頭いいはずなのにその中でしっかり負けてる。とまぁここまでは良かった。


「カガミ君やったね!勉強会した甲斐があったかもね!」とネネちゃんが言ってくれたが、学年1位の君に言われると同情にしか聞こえない。



竜二は

「カガミ スマホいけそうか?」と口では心配してくれてはいるものの、ネネちゃんと番号交換したいだけだろ!!3位め!


あとどっかのクラスのガリ勉が4位で僕は5位だった。僕はきっと疑心暗鬼なのだろう。わかっている。そう分かっているんだけど、絶対T-SAD患者の中で一番の劣化版だよね??5位だよ、カートゲームでドライバーズポイントがギリギリもらえない順位だよ?



僕は竜二と話した内容をどこまで話すべきか考えながら、放課後4人で夏休みについて話し合っていた。

とは知らずに。



クラスのみんなは僕ら以外下校して誰もいない。

ネネちゃんが「このまま良い点数キープして、高校受験も一緒に受けて、一緒に受かりたいね!」

ヒカルも「まだ先だろ?」って言ってたけど

竜二も「俺もそうだと良いなぁ」って返して・・・ほんとに和やかな時間だった。


僕が「小学校の時は高校受験までに死んでて高校は受けられないって怖がってた癖に!」って言ってみんなで笑った。僕は言葉の冗談が過ぎたんだ。

その後も4人でワイワイしていた。


こんな楽しい会話も、笑い合ってるこの時間も終わりってのは突然、何の前触れもなく来るんだ。いや、前触れはあった。



ヒカルが竜二に「アティウスの知力テスト問題に比べたら結構簡単だったよね。」

「確かに!あれ基準だったから本番のテストちょっと構えちゃったよな~」って言ってたけど、

僕は「竜二の机から何回もシャーペンの折れる音聞こえてたぞ!イライラしてたんだろどーせ」って言ってやったよ。

「緊張して力加減がわかんなくなっちゃって。」って言い訳してた。


 

会話は聞いてはいたし、参加もしていたけど僕は佐井寺兄妹にT-SAD患者だった事をこのまま隠しても何だかいい気がしないなぁと思い出していた。




 




一旦落ち着け。深呼吸だ!まだ何も起きてない!みんな何に動揺している??竜二の、ヒカルの、ネネちゃんの表情を読み取って考えろ!誰かが何かを言うのか?止めたら避けられるのか?僕が見えているは冷静だけど、今この時点でこんなに焦っている。そのせいで【ビジョン】が覆る事は無いのか?


どうどう巡りする思考の罠に陥った、蟻地獄から這い出せない考えの中で、実際今目の前で笑ってるのに、変だな?みんなの笑顔が急に恋しくなった。。

だからこのまま無くすわけにはいかないな。

僕が正解を導くんだ!



「・・・ミ!・・ガミ?!」みんながこっちを見てる、あ、僕に喋ってたんだ

「カガミ?カガミ!!おい聞いてるのか?」

「え、あぁ、うん。」

「?」



ヒカルが僕の脈拍を疑問に思いつつも、竜二にまたしゃべり出した、

「そういえばアティウスのテストも順位出てたけどいつの間にか参加者7人から6人になってたよね?」


「そうだな。」竜二は墓穴を掘らない為に聞きに徹しているようだった。そのテストで最下位をキープしているのは紛れもない僕なんだが。


ネネちゃんが「あれってT-SADティーサッドの子供が6人いるって事じゃないの?」


「「「・・・!!」」」


僕たちは、何の気なしに言ったネネちゃんの言葉に


「いつだっ!!いつからいなくなった?!!ネネ!!!」


ヒカルが珍しく焦っている。いや、これがきっとコワがってるって事だ。僕は予想していた癖に思考が追い付かなかった。


竜二も「うそだろ。」と呟いた。


「えっ!えっ何!どうしたのみんな!!」ネネちゃんは困っていたが、

最後にとうとう気付いて手の力が無くなりカバンを落として、見える方の目を必死に開いて荒い息をしながら僕たちを一人一人見つめ、口に手を当てた。



「ハァハァ。うそ・・・ハァハァ。死んだの?」




僕は目の前が真っ白になってる竜二に目配せをした。ここで今まともなのは僕だけかもしれない。 

でも

竜二は【諦めない】大丈夫だ。ちょっとショックを受けてるだけだ。ようやく視線に気付いた竜二のほっぺたを右手でパシッと叩いて「どのみちこの二人には話そうと思ってたし信用はしてる。いいよな?」って言った。痛みを感じない竜二は代わりに驚いたが我に返ることができた。

「カガミに任せる。」


ここで、自分のやるべきことを冷静に考える事が出来たのはT-SADの感情欠如のおかげだとも思った。


こうも思った。ここで【リンク】を使わなきゃ


僕は大きな声で「手をだせよ!」って言った。竜二、それからネネちゃんがビックリしたみたいだけど

言われるがまま手を出してきた。ヒカルはいつもと違って狼狽してたけど僕の声がうるさかったのか最後だったけど言う通りにしてくれた。

唾を飲み込む音が10倍大きく聞こえる。 伸ばした手が3人の手に触れた瞬間、今まで感じた事の無い程の【恐怖】って感情がドロドロと僕の胃に流れてきた気がして耐性の無い僕は吐き気がした。


時間感覚がわからなくなるくらいそれを味わった後、暫くすると落ち着いた竜二は

「ごめんカガミ、信頼してもらってるのに。」って言ってきた。僕はまだまだ恐怖は残っていたけど、必死で首を横に振った。やせ我慢だ。全身にかいた汗は夏の暑さだけじゃ説明がつかない量だったから自分でもダサいなぁと思った。


「カガミもT-SADなのか?」当然来る質問。良かった、少しヒカル落ち着いたんだね。

ヒカルは疑問でいっぱいだっただろう。ネネちゃんは恐怖で染まってて竜二は後悔と恐怖が入り混じってる4等分の感情はみんな均等のハズ。手に取るようにわかるみんなの気持ちを考えると、後悔はしなかった。


そもそも嘘をついたのはこっちだ、変な気を使わせちゃいけないよな。フェアじゃない。

言葉にして言ったわけじゃないけど4人は【友達】だもんな。


違うちがう。本物はわざわざ口に出して「友達だ」なんて確認しないんだ。

僕に温かい気分が膨らんだ時、みんなにも少し笑顔がさして伝わった気がした。


「僕の事を話すよ。」

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