第13話 成長期⑨ みかん

「正体を知られてはいけないヒーロー??」


「そうよヒーローになるのはそりゃーもう大変だけど、正体を知られちゃいけないなんて縛り、輪をかけて大変じゃない?でもね、京介君はあなたと私の為に。だけじゃないわね、みんなの為に頑張ったの。」


母さんは

「京介君の死ぬと分かった2日前、私は彼とテレビ電話を繋いでいたわ。」


僕は【父さんの遺体が確認できていない】と言う話を良いように考え、実はまだ生きていた!なんて事が起こるのを期待していたが、そう思い通りにはならなかった。自分を落ち着かせるよう、いつもより大きい息を吸い その後ため息を混ぜた息を吐いた。


「死ぬまでの数時間で私とカガミともう一人の子どもが、幸せに生きてもらえる様に、そう願って引いてくれたレールの説明を受けたの。」


もう一人の子ども??「それって、隠し子ってやつ?」

「バカ!京介君が私以外を好きになるわけないじゃない!ないわよね??」

若干心配になっちゃってるよ、父さんの信用度低いな。


「そもそも、カガミどこでそんな言葉覚えるのよ!」

僕は口をロボットの様にまっすぐしてフリーズした状態を維持

「まぁいいわ。」 物理攻撃以外も回避率は依然として99%を誇る。


「あ、それでね、何だっけ、あ、そうそう!京介君は働いてた遺伝子研究所で副所長だったの。すごいでしょ?」と得意そうだ。


「ホントは京介君の作ったビデオレタ―でいい年になるまで秘密にするつもりだったんだけど、じきに来るし、何より子供の成長を遮る親なんていないもの。あ、でも他の人には内緒ね。」


そこから母さんの何年にもわたって溜め込んでいたものが、猫の毛玉の如く吐き出された。


「実は父さんはゲーマーだったの。」はい。知ってます。 もう少し、もう少しだけでいいから実のある話をしようよ母さん。


「でも彼は探求心がヤバかったわ。若い時、モンスターをハントするゲームにハマって電車待ちをしてるゲーム中の【みかん】って言う かわいい女子大生に声をかけて、【俺と一緒に、ジャージャン倒しに行かない?】って言ったの。あ、ジャージャンってのは猿の姿をした忌々しいモンスターの事ね。」


「私は首を横にふるふるしてこう言ってやったわ、ソロで勝てないなら戦力外よ。って」

え?いま僕、何聞かされてるの??あと【みかん】は母さんの名前だよね!自分でかわいい女子大生って言ったな!まぁかわいいけど。


「京介君はソロでは、勝てた。49分かかったけど。」って言ったの


「私はその時、正直感動したわ、弱い癖に自分を追い詰めて限界を超えて、いつ失敗に終わるかもしれないっていう緊張感の中であくまで勝ちにこだわったスタイル。」


今の文章だけならカッコいいんだけど。僕の妄想癖は母さん譲りだよたぶん。

「そんな口説き文句で私はとうとう折れてしまったの。「いいわ共闘しましょう!」ってね。」


あ、そーいやテスト勉強しなきゃいけないんだった。このチャプター早送りできないかな。


「そしてたまに会ってゲームで素材を集めていた時、ふと私に聞いてきたの【アルビノの中落って  旨いのかな?】私も京介君もアルビノが何か知らなかった。」


母さん!それを知らないこと自体はバカじゃない! シンプルにバカなんだ! リモコンがあったらこのチャプターどころかエンドロールまで飛ばしそうだよ!


「さっきも言ったけど京介君は探求心が人一倍凄かった、きっと彼の60%は探求心なんだと思う。」


「はい、それ水分ね、続きどうぞ。」


「うん。彼はアルビノを大学卒業まで研究し続けた。そして動物から人へ研究対象を移した時、私に言ったの。」

「アルビノを食べるのは、俺は良くないと思ってる。今はアルビノを救いたい。」


「その頃、京介君が研究していたのもあって動物の白色個体をアルビノと呼ぶ事は知っていたのだからこう言ったわ」


「私もそう思ってたの。(あのゴムの様にぶよぶよした白い敵か、確かにまずそうね。でも懐いてくれるならペットとしていいかも)と返事をした。」


「京介君が就職を探している時、大学の教授から 『国の研究所に遺伝子に関わる研究者を募集している』 と聞き一番に飛びついたわ。

国は少子化対策の一環で小児の病気について医療レベルの底上げを狙っていて、海外から専門家を招き、あ、あなたも見たことあるかしら? アティウスさんね、アティウスメディカルセンターの所長さんがアルビノ研究者をどうしても必要だと欲して、日本中探し、似たような研究をしている熱心な京介君が抜擢され一大プロジェクトとして動き出したの。」

小さい時、母さんと話していた外国人かな?なんとなく薄っすら覚えている、スラっとして背が高いイケメン外国人。


「小児医療はこの15年程で技術・機器共に飛躍的に成長して成績が良くなった。その一方で京介君の研究は、初めから果てしない時間がかかることが予想されていたの。まるでそれが見つかるまで何年も何十年、いえ何百年かけても探さなきゃいけない事の様だって話してたわ。」


「やってることは2つ。私もしたんだけど、全国の妊婦さんの羊水を遺伝子解析して事前に予測できる疾患、病気の事ね、それを両親に伝える事。もう一つは」

「もう一つは?」いくつかツッこみ忘れた事に後悔の念を抱きつつ母さんの話に段々引き込まれていった。

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